「些細なことで声を荒げてしまう」「歯を食いしばって寝ているらしく、朝は顎が疲れている」――抑肝散(よくかんさん)についてのご相談は、当薬局でも年々増えています。
結論からお伝えすると、抑肝散は高ぶりを抑える方向に働く漢方薬です。足りないものを補うのではなく、上がりすぎているものを下ろす、という組み立てになっています。
当薬局では、この漢方薬を怒りと緊張のための漢方薬と位置づけています。疲れて眠れない方と、高ぶって眠れない方とでは、選ぶものが逆になります。
この記事では、抑肝散の成り立ちから、添付文書が認めている効能効果、配合生薬7種類の役割、肝の高ぶりという考え方、向く体質と向かない体質、抑肝散加陳皮半夏との違い、飲み方と期間の目安、甘草の量に関する注意点までを、日々ご相談を受けている薬剤師の視点でまとめます。
抑肝散とは|子どもの夜泣きから生まれた漢方薬
結論: 抑肝散はもともと、子どもの夜泣きやひきつけに向けて作られた漢方薬です。いまは大人の高ぶりに広く使われています。
出発点は小児の薬だった
抑肝散が載っているのは、中国の明の時代にまとめられた小児科の医書です。16世紀の書物で、当時想定されていたのは、夜泣き、ひきつけ、落ち着きのなさといった子どもの症状でした。400年以上、この形のまま使われ続けています。
いまも効能効果に小児夜なきと小児疳症が残っているのは、この出自によるものです。大人向けに作られた薬が子どもにも使われるようになったのではなく、順番が逆だという点は押さえておく価値があります。
名前が働きを表している
抑肝散の抑肝は、肝を抑えるという意味です。漢方でいう肝は、肝臓そのものではなく、気の流れを調える働きと、感情のうち怒りに関わる部分を指します。
その肝が高ぶった状態を下ろす。名前がそのまま設計を説明している、分かりやすい漢方薬です。
補うのではなく下ろす
似た場面で使われる漢方薬のなかには、足りないものを補うことを土台にしたものがあります。抑肝散はその反対です。
上がりすぎているものを下ろすのが主で、補う要素はほとんどありません。ここを取り違えると、疲れきっている方に使ってさらに消耗させることになります。
抑肝散の効能効果|添付文書が認めている範囲
結論: 効能効果は、虚弱な体質で神経がたかぶるものの神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症です。神経がたかぶるという前置きが選び方を決めます。
添付文書に定められている範囲
医薬品医療機器総合機構が公開している添付文書には、効能・効果として「虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症」と定められています。
虚弱な体質という言葉と、神経がたかぶるという言葉が同時に置かれています。一見すると矛盾するようですが、これは体力が有り余っているという意味ではなく、土台は弱いのに神経だけが張り詰めている状態を指しています。
4つの症状が並ぶ理由
神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症。この4つは、いずれも高ぶりが表に出た形として並んでいます。
対象となるのは高ぶりが背景にある場合だけで、同じ不眠症でも疲れて眠れない形は該当しません。効能効果の言葉だけで選ぶと、ここで取り違えます。
大人では怒りっぽさや緊張として、子どもでは夜泣きやかんしゃくとして現れる。年齢によって見え方が変わるだけで、漢方の見立てとしては同じものを扱っています。
効能効果の外にある使われ方
医療の現場では、認知症に伴う興奮や暴言といった症状に対して抑肝散が使われる場面があります。ただし、これらは添付文書の効能効果には書かれていません。
書かれていないことを、当薬局から効果として案内することはありません。主治医の判断で使われている場合は、その意図を確かめたうえで飲み方の相談に応じる、という関わり方になります。
配合生薬7種類とそれぞれの役割
結論: 高ぶりを抑える生薬、血を補う生薬、胃腸を支える生薬。3つのまとまりで見ると設計が読めます。
高ぶりを抑える生薬
釣藤鈎(ちょうとうこう)と柴胡(さいこ)がここに入ります。釣藤鈎はカギカズラという植物の鉤の部分で、上に昇った気を下ろす働きを担う主役です。
柴胡は気の流れの詰まりをほどきます。抑えるだけでなく、流れを作ることで高ぶりの行き場を用意する、という組み合わせになっています。
血を補う生薬
当帰(とうき)と川芎(せんきゅう)が担当します。漢方では、肝は血を蓄える場所とされ、血が足りないと高ぶりやすくなると考えます。
抑えるだけでは一時しのぎになるため、蓄える側も同時に整える。抑肝散が単なる鎮静薬と違うのは、この部分があるからです。
胃腸を支える生薬
白朮(または蒼朮)、茯苓、甘草の3つです。消化吸収を支え、余分な水分をさばく役割を担います。
ただし、この3つで胃腸を守り切れるとは限りません。もともと胃腸が弱い方では、後述する抑肝散加陳皮半夏のほうが向くことがあります。
| まとまり | 生薬 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 高ぶりを抑える | 釣藤鈎・柴胡 | 上がった気を下ろし、詰まりをほどく |
| 血を補う | 当帰・川芎 | 肝が蓄える血を整える |
| 胃腸を支える | 白朮・茯苓・甘草 | 消化吸収と水分の巡りを支える |
肝の高ぶりという考え方
結論: 漢方では、感情のうち怒りが肝と結びついていると考えます。肝が高ぶると、体の上のほうに症状が集まります。
怒りは上に向かう
漢方の古い考え方では、感情ごとに向かう方向があるとされます。怒りは上に昇るもので、頭に血が上るという言い回しは、この見方とよく一致します。
顔が赤くなる、頭痛がする、目が充血する、肩に力が入る。高ぶった状態が体に出るとき、症状が上半身に集まりやすいのはこのためです。
血が足りないと高ぶりやすい
肝は血を蓄える場所とされています。蓄えが十分にあれば高ぶりは抑えられますが、少なくなると些細なことで揺れやすくなります。
睡眠不足が続いたとき、出産の後、生理の前。血の蓄えが減る時期にイライラしやすくなるのは、この見方では自然な流れです。性格の問題ではなく、蓄えの問題として捉えるのが漢方の立場になります。
高ぶりと消耗は同時に起こる
効能効果にある虚弱な体質で神経がたかぶるものという表現は、この構造を指しています。土台が弱っているからこそ、抑えが利かなくなる。
体力が有り余っていて高ぶっている方は、抑肝散の想定とは違います。そちらには別の方向の漢方薬が候補になります。
抑肝散が向く体質|4つの特徴
結論: 怒りっぽい、体に力が入る、眠りが浅く歯ぎしりがある、そして本人より周りが困っている。この4つが揃うほど合いやすくなります。
些細なことで怒りが湧く
以前なら気にならなかったことに反応してしまう、家族に強い言葉を使ってしまう、後で自己嫌悪になる。こうした訴えが典型です。
怒りたくて怒っているわけではない、という点が共通しています。抑えが利かない状態そのものを扱う漢方薬なので、この形に最もよく合います。
体のどこかに力が入っている
肩が上がっている、歯を食いしばっている、拳を握っている。自分では気づいていないことが多く、家族や整体で指摘されて初めて分かる方もいます。
朝起きたときに顎や首が疲れているなら、寝ている間も力が抜けていない可能性があります。
眠りが浅く、歯ぎしりがある
寝つけない、夢を多く見る、歯ぎしりを指摘される。高ぶりが夜まで続いている形です。
疲れて眠れないのとは違います。体は疲れているのに神経だけが張っているという状態が、抑肝散の向かう先です。
本人より周りが困っている
これは実務でよく見る特徴です。本人には自覚が薄く、家族が相談に来られることがあります。
小児の夜泣きやかんしゃくで保護者が来られるのも同じ形です。この漢方薬が小児科の医書から出ていることを考えると、自然な使われ方だと言えます。
向かない体質と、合わないときに出るサイン
結論: 消耗しきっている方、胃腸が弱い方、むくみやすく血圧が高い方では、別の選択肢を考えます。
疲れて気力がない
高ぶりではなく消耗が前面にある方では、抑える方向は逆になります。飲むとかえってだるくなる、気力が落ちるという反応が出ることがあります。
この場合は補う方向の漢方薬が候補です。加味帰脾湯(かみきひとう)や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が、そうした場面で選ばれます。
胃腸が弱く、飲むともたれる
抑肝散に含まれる当帰と川芎は、胃にもたれることがある生薬です。もともと食が細い方、油ものが苦手な方では、飲み始めに胃の重さが出ます。
この場合は、胃を守る生薬を足した抑肝散加陳皮半夏が候補になります。同じ方向のまま、胃腸への当たりだけを弱めた形です。
むくみやすく、血圧が高い
抑肝散には甘草(かんぞう)が含まれ、その量は漢方薬のなかでも多い部類に入ります。むくみ、体重増加、血圧の上昇が出ることがあります。
高齢の方では、この副作用が出やすいことが知られています。血圧の薬を飲んでいる方は、開始前に伝えておく必要があります。
合わないときに出るサイン
飲み始めて胃が重い、だるさが増した、顔や足がむくむ。これらが数日続くようなら、量が多いか方向が合っていない可能性があります。
我慢して続けても良い方向には向かいません。量を減らすか、いったん中止して見直すほうが現実的です。
症状別の使いどころ|5つのケース
結論: 効能効果に並ぶ4つに加え、実際のご相談では歯ぎしりや生理前の高ぶりで選ばれることもあります。
怒りっぽさが抑えられない
最も多い使いどころです。効能効果の神経症にあたる部分で、家族への当たりが強くなったという訴えが典型になります。
寝つけない、眠りが浅い
不眠症のうち、高ぶって眠れない形に向かいます。考えごとが止まらないのではなく、興奮して目が冴えるという形です。
子どもの夜泣き・かんしゃく
小児夜なきと小児疳症として効能効果に挙げられています。抱いてもおさまらない、日中も些細なことで泣き続けるといった相談で選ばれます。
小児では体重に応じた量の調整が必要になります。年齢を伝えて相談していただく形です。
歯ぎしり・食いしばり
効能効果には書かれていませんが、実際のご相談では多い訴えです。高ぶりが体の緊張として出ている形として捉えます。
歯科でマウスピースを作った方が、あわせて相談に来られることがあります。器具で歯を守ることと、高ぶり自体を下ろすことは役割が違います。
生理前の高ぶり
生理前だけイライラが強くなるという方では、抑肝散が候補になることがあります。ただしほてりや肩こりが前面に出る場合は、加味逍遙散(かみしょうようさん)のほうが合う場面もあります。
母子同服という使い方
結論: 子どもの夜泣きに対して、母親も一緒に飲むという使い方が古くから行われてきました。
母子同服とは何か
子どもと母親が同じ抑肝散を飲む、という方法です。抑肝散が載っている医書にも記載があり、日本の漢方でも受け継がれてきました。
子どもの高ぶりの背景に、母親の緊張や疲れがあるという見方に基づいています。子どもだけを扱っても、環境が変わらなければ戻ることがある、という考え方です。
いまの実務での扱い
当薬局では、この使い方を勧めることも押しつけることもしていません。母親に原因があるという受け取られ方をしかねないためです。
一方で、育児で消耗して高ぶっている母親自身にとって、抑肝散が合う場面は確かにあります。子どものためではなく、その方自身のために選ぶという形であれば、理にかなっています。
相談のときに伺うこと
子どもの夜泣きでご相談を受けたとき、当薬局では保護者の睡眠時間と食事の様子を必ず伺います。連続して眠れている時間が2時間を切る日が続いていれば、そちらの支えも要る状態です。
食事についても、立ったまま数分で済ませているという話をよく伺います。血を作る材料が足りない状態が続けば、漢方の見方では高ぶりやすさが増します。子どもの夜泣きの相談から始まって、保護者自身の食事の話になることは珍しくありません。
授乳中は別の判断が要る
授乳中の方が抑肝散を飲む場合、母乳を通じた影響について十分なデータがあるわけではありません。母子同服という言葉があるからといって、そのまま当てはめられるものでもありません。
当薬局では、授乳中であることを必ず確かめたうえで、産婦人科や小児科に伝えていただく形をお願いしています。子どもに直接飲ませる場合と、母親が飲む場合とでは、確かめる相手が変わります。
抑肝散加陳皮半夏との違い
結論: 抑肝散に陳皮と半夏を加えたものが抑肝散加陳皮半夏です。胃腸が弱い方、症状が長引いている方に向きます。
加わる2つの生薬
陳皮はミカンの皮を干したもので、胃の詰まりをほどきます。半夏は吐き気を抑え、余分な水分をさばく生薬です。
どちらも胃腸を守る方向に働きます。抑肝散の弱点である胃へのもたれを、この2つが補う形になっています。
効能効果は同じ
意外に思われるかもしれませんが、効能効果の記載は抑肝散と同じです。虚弱な体質で神経がたかぶるものの神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症。
つまり向かう症状は同じで、どんな胃腸の人が飲むかという点だけが違います。効能効果を見比べても選び分けはできません。
選び分けの目安
食が細い、薬を飲むともたれる、みぞおちがつかえる感じがある。これらがあれば抑肝散加陳皮半夏です。
胃腸に問題がなければ抑肝散で足ります。生薬が少ないぶん、組み立てが素直になります。
似た漢方薬との違い|4つの比較
結論: 落ち着かない、眠れないという訴えに使う漢方薬は複数あります。高ぶっているのか、足りないのかで分かれます。
加味逍遙散との違い
加味逍遙散は、気の巡りの詰まりとこもった熱に向かう漢方薬です。イライラに加えて、ほてり、肩こり、生理前の不調が並ぶ場合に選ばれます。
抑肝散と比べると、熱を冷ます要素が大きく、下ろす要素が小さい組み立てです。ほてりが前面にあるなら加味逍遙散、緊張と怒りが前面にあるなら抑肝散という分け方が実務的です。
加味帰脾湯との違い
加味帰脾湯は、消耗して眠れない状態に向かいます。抑肝散とは方向が逆で、補うことが土台にあります。
疲れているのに眠れないなら加味帰脾湯、高ぶって眠れないなら抑肝散。同じ不眠でも、選ぶものが正反対になります。
柴胡加竜骨牡蛎湯との違い
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は、動悸や驚きやすさを伴う高ぶりに向かいます。体力が中等度以上ある方が対象です。
抑肝散が虚弱な体質という前置きを持つのに対し、こちらは体格がしっかりした方に使われます。同じ高ぶりでも、土台の強さで分かれます。
甘麦大棗湯との違い
甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)は、泣き止まない、感情が抑えられないという状態に向かう漢方薬です。小児にも使われます。
抑肝散が怒りに向かうのに対し、こちらは悲しみや不安定さに向かいます。3種類の生薬でできた素朴な組み立てで、甘みがあって飲みやすい点も特徴です。
| 漢方薬 | 主に向かうもの | 土台の強さ | 分かれ目 |
|---|---|---|---|
| 抑肝散 | 怒りと緊張 | 虚弱寄り | 力が入る、歯ぎしり |
| 加味逍遙散 | 詰まりと熱 | 中間 | ほてり、肩こり |
| 加味帰脾湯 | 消耗と眠れなさ | 虚弱 | 疲れているのに眠れない |
| 柴胡加竜骨牡蛎湯 | 動悸を伴う高ぶり | 中等度以上 | 驚きやすい、体格がよい |
| 甘麦大棗湯 | 悲しみ、感情の不安定さ | 虚弱 | 泣き止まない |
剤形と量の選び分け|エキス剤・煎じ薬
結論: 抑肝散は甘草の量が要になる漢方薬です。煎じ薬なら、そこを加減しながら組み立てられます。
エキス剤の特徴
続けやすさが最大の利点です。1日2回から3回、決まった量を飲むだけで済みます。
一方で、甘草の量は製品ごとに決まっており、変えられません。むくみが出やすい方や、他に甘草を含む漢方薬を飲んでいる方では、この点が壁になることがあります。
煎じ薬の特徴
生薬を煮出す形なので、甘草を控えめにしたうえで釣藤鈎を厚くする、といった組み立てが可能になります。抑える働きを保ちながら、副作用の出やすい部分だけを薄くできます。
毎日20分から30分ほど煮出す時間が必要です。手間はかかりますが、長く続ける見込みがある方ほど、この加減が効いてきます。
高齢の方では量から相談する
甘草による副作用は高齢の方で報告が多く、体格や腎機能によっても出やすさが変わります。年齢が上がるほど、標準の量が多すぎることがあります。
当薬局では、70代以降の方については量を少なめに始めて様子を見る形をお勧めしています。あわせて、飲んでいる薬の一覧を見せていただきます。
飲み方と続け方|5つの手順
結論: 空腹時に、決まった時間に、周りの人にも変化を見てもらいながら続けます。自覚が薄い症状なので、自分だけの評価では判断できません。
飲むタイミングと回数
食前30分、または食後2時間ほど経った食間が基本です。1日2回から3回に分けます。
夜だけ飲むという方がいらっしゃいますが、日中の高ぶりも扱う漢方薬です。日中の分を抜くと、夕方までに積み上がったものが夜に残ります。
続けるための5つの手順
- 飲み始める前に、この1週間で声を荒げた回数を書き出す
- 家族に、朝の顎の疲れと歯ぎしりの有無を確かめてもらう
- 朝と夜の決まった時間に飲む場所を固定する
- 最初の2週間は胃の様子とむくみだけを見る
- 4週間ごとに1番と2番をもう一度確かめ、前回と並べる
1番を数字にするのが要点です。イライラが減った気がするという感覚は当てになりません。回数で記録すると、周りの評価とも突き合わせられます。
飲み忘れたときの扱い
気づいた時点で1回分を飲み、次の回まで時間が近ければ飛ばします。2回分をまとめて飲むことは避けてください。抑肝散は甘草の量が多いため、まとめて飲むと副作用が出やすくなります。
効果が出るまでの期間と続け方の目安
結論: 高ぶりが下がるのは比較的早く、2週間から4週間で変化が出ます。ただし体質としての揺れにくさが定着するには数か月かかります。
最初に変わるところ
眠りより先に、日中の反応が変わることが多くあります。以前なら言い返していた場面で、一呼吸置けるようになった、という形です。
本人が気づく前に家族が気づくこともあります。周りの評価を取り入れるのは、この理由からです。
期間の目安
2週間から4週間で日中の反応が動き、1か月から3か月で眠りや歯ぎしりが安定してくる、というのが実際の経過です。当薬局のご相談でも、4週間の時点で何らかの変化を挙げられる方が7割ほどを占めます。
補う方向の漢方薬より早く動く部類ですが、それでも数日で判断できるものではありません。
続けるかやめるかの判断
高ぶりが落ち着いてきたら、量を減らす相談ができる段階です。急にやめると戻ることがあるため、段階を踏みます。
甘草の量が多い漢方薬なので、必要がなくなったら早めに減らすという姿勢が要ります。落ち着いた後も惰性で続けるのは避けたい形です。
副作用|甘草の量が多い漢方薬
結論: 抑肝散は甘草の量が多い部類に入ります。むくみ、体重増加、血圧の上昇、手足のだるさに注意が要ります。
偽アルドステロン症という副作用
甘草を長く飲んだり、甘草を含む他の漢方薬と併用したりすると、体内のカリウムが減り、むくみや血圧の上昇、手足に力が入りにくいといった症状が出ることがあります。
高齢の方で報告が多いことが知られています。日常的に飲む薬が複数ある年代でもあるため、重複が起きやすいという事情も重なります。
気づくための目印
顔や足がむくむ、靴やゆびわがきつくなる、数日で体重が2キロ以上増える、手足に力が入りにくい、足がつりやすくなった。
これらは並べて見るとはっきりしますが、1つずつだと年齢のせいだと思われがちです。飲み始めてから出たかどうかを必ず確かめてください。
消化器の症状
当帰と川芎が胃にもたれることがあります。飲み始めに胃の重さや食欲不振が出た場合、量が多いか、抑肝散加陳皮半夏へ移す判断になります。
重い副作用として記載されているもの
添付文書には、間質性肺炎、心不全、偽アルドステロン症、ミオパチー、横紋筋融解症、肝機能障害が挙げられています。頻度は低いものの、知らずに見過ごさないことが大切です。
空咳が続く、階段で息が切れる、強いだるさが取れない、尿の色が濃くなる。これらが出た場合は、すぐに医療機関に相談してください。
併用と注意点|西洋薬・他の漢方薬・妊娠授乳期
結論: 甘草の重複が最大の注意点です。西洋薬では、利尿薬との組み合わせでカリウムがさらに減ることがあります。
甘草を含む他の漢方薬との併用
芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、補中益気湯など、甘草を含む漢方薬は数多くあります。抑肝散はもともと甘草が多いため、重ねると量が跳ね上がります。
特に芍薬甘草湯は甘草の量が最も多い部類の漢方薬です。足のつりで頓用している方が抑肝散を始める場合、この組み合わせは要注意になります。
頓用であれば重なる日が限られますが、毎日飲んでいれば話が別です。1週間に何日飲んでいるかを数えたうえで、続けるかどうかを判断します。
利尿薬との併用
一部の利尿薬は、体内のカリウムを減らす方向に働きます。甘草による作用と重なると、低カリウム血症が起こりやすくなります。
血圧やむくみで利尿薬を飲んでいる方は、開始前に必ず伝えてください。あわせて、定期的な血液検査の結果も見せていただけると判断がしやすくなります。
精神科・心療内科の薬との併用
睡眠薬や抗不安薬と併用される場面は珍しくありません。相互作用が問題になることは多くありませんが、自己判断で西洋薬をやめるのは避けてください。
減らす場合は、処方した医師に相談したうえで段階的に進める形になります。
妊娠中・授乳中・小児
抑肝散は妊娠中に禁止されている漢方薬ではありませんが、自己判断で始めるものでもありません。産婦人科に伝えたうえで判断する形になります。
小児では体重に応じた量の調整が必要です。効能効果に小児夜なきと小児疳症が挙げられている漢方薬ですが、大人用の製品をそのまま割ればよいというものではありません。
飲みながら見直したい食事と生活|4つの着眼点
結論: 睡眠、カフェイン、体の緊張、そして高ぶりの引き金。この4つを同時に動かすと、飲むものの手ごたえが変わります。
睡眠時間を確保する
睡眠不足は、漢方の見方では血の蓄えを減らします。蓄えが減れば高ぶりやすくなるため、抑える方向の漢方薬を飲んでも押し戻されます。
6時間を切る日が週の半分以上あるなら、そこが最大の変数です。飲むものを増やす前に確かめたい部分になります。
育児や介護で連続した睡眠が取れない方では、まとまった6時間を求めても現実的ではありません。その場合は、日中に20分でも横になる時間を作れないかという方向で考えます。
カフェインの量と時間を見直す
コーヒーやエナジードリンクは、高ぶりを直接後押しします。1日4杯以上飲んでいる方では、まずここを減らすほうが早いことがあります。カフェインが体から抜けるまでには5時間ほどかかるとされ、夕方の1杯が夜まで残ります。
やめる必要はありません。午後3時以降を控えるだけでも、夜の高ぶりは変わります。
体の緊張をほどく時間を作る
肩や顎に力が入り続けている方は、意識的にほどく時間が要ります。入浴中に肩を落とす、寝る前に顎の力を抜く。
たった1分でも、毎日繰り返すと体が緩んだ状態を覚えます。漢方薬で下ろす働きと、方向が同じです。
高ぶりの引き金を書き出す
どんな場面で声を荒げているのか。時間帯、相手、状況。2週間ぶんを書き出すと、たいてい偏りが見えます。
夕方の疲れた時間帯に集中している、特定の相手のときだけ、といった具合です。あわせて、避けられる引き金があるかを考えると、飲むものだけに頼らずに済みます。
よくある質問
Q. 抑肝散と抑肝散加陳皮半夏、どちらを選べばいいですか?
A. 胃腸の強さで分けます。食が細い、薬を飲むともたれる、みぞおちがつかえる感じがあるなら抑肝散加陳皮半夏です。胃腸に問題がなければ抑肝散で足ります。効能効果の記載は同じなので、そこを見比べても選び分けはできません。
Q. 子どもに飲ませても大丈夫ですか?
A. 効能効果に小児夜なきと小児疳症が挙げられており、もともと小児科の医書から出た漢方薬です。ただし体重に応じた量の調整が必要で、大人用の製品を単純に割ればよいというものではありません。年齢と体重を伝えて相談していただく形になります。
Q. どのくらいで手ごたえが出ますか?
A. 2週間から4週間で日中の反応が変わり、1か月から3か月で眠りや歯ぎしりが安定してきます。補う方向の漢方薬より早く動く部類です。ただし本人は自覚しにくい変化なので、家族に見てもらう視点を入れると判断がしやすくなります。
Q. 長く飲み続けても大丈夫ですか?
A. 甘草の量が多い漢方薬なので、漫然と続けるのは避けたいところです。むくみ、体重増加、血圧の上昇、手足のだるさが出ていないかを定期的に確かめ、落ち着いたら減らす方向を検討してください。特に高齢の方や利尿薬を飲んでいる方は注意が要ります。
Q. イライラが減った気がしません。合っていないのでしょうか?
A. 自覚が薄い症状なので、感覚だけで判断すると見落とします。飲み始める前に声を荒げた回数を数えておき、4週間後に同じ形で数え直してください。あわせて、家族に朝の顎の疲れや歯ぎしりの変化を聞くと、自分では拾えない部分が見えます。
まとめ
抑肝散は、高ぶりを抑える方向に働く漢方薬です。効能効果は、虚弱な体質で神経がたかぶるものの神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症。もともと子どもの夜泣きに向けて作られた薬が、大人の怒りと緊張にも使われるようになったという成り立ちを持っています。
向くのは、些細なことで怒りが湧く、体のどこかに力が入っている、眠りが浅く歯ぎしりがある、そして本人より周りが困っている、という形です。疲れて気力がない方に使うと方向が逆になります。
最大の注意点は甘草の量です。抑肝散は漢方薬のなかでも甘草が多い部類で、むくみや血圧の上昇、手足のだるさが出ることがあります。芍薬甘草湯や利尿薬と併用している方は、特に確かめる必要があります。
本人には自覚が薄い症状なので、判断を感覚だけに委ねると見落とします。飲み始める前に声を荒げた回数を数え、家族に朝の顎の疲れを確かめてもらう。この2つを記録しておくと、4週間後に自分で判断できます。
胃腸が弱くて飲みにくい場合は、抑肝散加陳皮半夏という選択肢があります。当薬局では胃腸の様子と生活の負荷を伺ったうえで、体に合わせた煎じ薬をお作りしています。どちらを選ぶか迷ったときは、公式LINEからお気軽にご相談ください。


