「冷えると必ずお腹が下ります」「めまいと下痢が同時に出るのですが、関係あるのでしょうか」――真武湯(しんぶとう)をご提案する場面では、この2つをよく伺います。
真武湯は、体を温めながら余分な水をさばく漢方薬です。下痢とめまいという一見つながらない症状に、同じ1つの薬が使われるのは、どちらも体内の水の偏りから起きると考えるためです。
れいわ漢方薬局では、この漢方薬をご提案するとき、手足の冷えと疲れやすさを確かめます。この2つが揃っていると、合う可能性が高くなります。
この記事では、効能と向く人、生薬の組み立て、下痢とめまいへの働き、効果が出るまでの期間、合わない人、似た漢方薬との違いまでを扱います。
真武湯とはどんな漢方薬か
結論: 体を温めながら、余分な水をさばく漢方薬です。冷えて水の巡りが滞っている方に使い、下痢・めまい・むくみに用いられます。
効能に書かれていること
厚生労働省の一般用漢方製剤承認基準では、この漢方薬を「体力虚弱で、冷えがあって、疲労倦怠感があり、めまいがあるもの」の下痢や胃腸炎などに用いるとしています。
条件が4つ並んでいるのが特徴です。体力が虚弱、冷えがある、疲れやすい、めまいがある。このうち複数が当てはまるほど、合う可能性が高くなります。
体力が充実していて冷えもない方には向きません。同じ下痢でも、方向が逆になります。
出典は『傷寒論』
真武湯は、約1800年前の中国の古典『傷寒論』に記された処方です。体を温める力が落ちて水がさばけなくなった状態に使う、という趣旨で登場します。
名前の真武は、北方を守る神獣に由来するとされます。北は寒さと水を表すため、冷えと水の滞りを扱う薬にこの名がついたと考えられています。
1800年前から使われてきたという事実は、それだけで効くことの証明にはなりません。ただし、どういう状態に使うかという蓄積は残っています。
水の偏りという考え方
東洋医学では、体内の水が偏って滞る状態を扱います。同じ量の水でも、必要な場所に届かず別の場所に溜まると、症状が出るという見方です。
腸に溜まれば下痢、頭に影響すればめまい、皮下に溜まればむくみ。症状が違っても、原因が同じなら同じ薬を使うというのが、この漢方薬の分かりやすい例になります。
西洋医学では、下痢は消化器、めまいは耳鼻科と分かれます。同じ人の中で起きている2つを1つの原因で説明するのが、東洋医学の見方です。
合う人の特徴
結論: 手足が冷たい、疲れやすい、めまいやふらつきがある、水を飲むと胃で音がする。この4つが目印です。
4つのサインで見る
判断に使うのは、体力と冷えの状態です。下の表に当てはまる数が多いほど、合う可能性が高くなります。
6項目のうち4つ以上が左に当たるなら、まず候補に入ります。逆に、右の列に2つ以上当てはまるなら別の漢方薬を考えます。
体力の判定に迷う方が多いのですが、目安は疲れの残り方です。1日動くと翌日に響く、風邪をひきやすいという方は虚弱寄りとして扱います。
| 見るところ | 向く状態 | 向きにくい状態 |
|---|---|---|
| 体力 | 虚弱、疲れやすい | 充実している |
| 冷え | 手足が冷たい、腰から下が冷える | 冷えを感じない |
| めまい | 立ちくらみ、ふらつき | ない |
| 便 | 水っぽい、においが弱い | においが強い、色が濃い |
| 下る時間帯 | 明け方、冷えた日の夕方 | 飲み会の翌日 |
| 顔色 | 白い、血色が薄い | 赤みがある |
上の3つが揃えば、まず候補に入ります。逆に、においの強い下痢や体力が充実している方には向きません。
明け方に下る方
夜明け前、午前3時から5時ごろに腹痛で目が覚めて下る。東洋医学では五更泄瀉(ごこうせっしゃ)と呼び、体を温める土台の力が落ちた状態として扱います。
高齢の方に多い型ですが、若い方でも長く冷えを抱えていると出ます。腰と足が冷える、夜間にトイレへ起きるといったサインを伴います。
この時間帯の下痢は、真武湯を検討する分かりやすい入口です。
めまいを伴う方
立ち上がったときのふらつき、体が揺れるような感覚。水の偏りが原因のめまいでは、この漢方薬が働くことがあります。
下痢と同時に出る場合、両方が同じ原因から来ていると考えます。片方だけを扱うより、水の巡りを整える方が早く済みます。
耳の異常が背景にあることもあるため、めまいが強い場合は一度耳鼻科で確かめておく意味があります。外してから体質の側に入る順番です。
水を飲むと胃で音がする
みぞおちのあたりで、ちゃぷちゃぷと音がする。胃に水が溜まっている状態で、東洋医学では水の滞りの目印として見ます。
自分では気づきにくいのですが、伺うと思い当たる方が多くいます。この音があるなら、水をさばく方向の漢方薬が候補に入ります。
確かめ方は簡単です。上体を軽く揺すって、みぞおちのあたりで音がするかを見ます。空腹時に分かりやすくなります。
生薬の組み立て
結論: 茯苓・芍薬・生姜・白朮・附子の5つです。中心になるのは附子で、温める力を担っています。
附子が温める
附子(ぶし)は、トリカブトの根を加工した生薬です。加工によって毒性を減らしたうえで使われ、体を強く温める働きがあります。
漢方薬の中でも、温める力は最も強い部類に入ります。冷えが背景にある症状には欠かせない生薬で、真武湯の中心になっています。
一方で、温める力が強いぶん、合わない方には反応が出ます。この点は後の節で扱います。
茯苓と白朮が水をさばく
茯苓(ぶくりょう)と白朮(びゃくじゅつ)は、どちらも余分な水をさばく生薬です。溜まった水を巡らせ、尿として出す方向に働きます。
温めるだけでも、水を出すだけでも足りません。この2つが組み合わさることで、冷えて滞った水が動くという組み立てになっています。
凍った配管に例えると分かりやすくなります。温めて溶かすだけでは流れず、流す力も同時に要る。この2つが揃って初めて動きます。
芍薬と生姜
芍薬(しゃくやく)は、筋肉のけいれんをやわらげる生薬です。腹痛を伴う場合に働きます。
生姜(しょうきょう)は、胃腸を温めて働きを助けます。附子の温める力を、胃腸の側から支える役割です。
5つの生薬に甘草が入っていないのが、この漢方薬の特徴の1つになります。甘草を含む漢方薬と重ねるときも、合計量を気にしなくて済みます。
効果が出るまでの期間
結論: 下痢の回数は2週間、冷えとめまいは1〜3か月が目安です。土台を温める薬なので、即効性は期待しません。
段階ごとの目安
変化には順番があります。飲み始めた日を起点に、次のように見ていきます。
最初に動くのは手足の温まり方で、便の形はそのあとです。ここを逆に期待していると、効いていないと判断してしまいます。
下の表は、何をいつ見るかを整理したものです。1週間で判断せず、2週間を1つの区切りにしてください。
| 時期 | 変わるところ | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 数日〜1週間 | 手足の温まり方 | 変化が無くても続けてよい時期 |
| 2週間 | 下痢の回数 | ここが動けば方向は合っている |
| 1か月 | 便の形、めまいの出方 | 良い日が週に何日あるかで見る |
| 3か月 | 冷えそのものが変わる | 減らす相談を始める時期 |
2週間で便の形が動かないなら、量を増やすのではなく見立てを疑う順番です。冷えが背景にないなら、別の型を考えます。
やめどきの決め方
症状が落ち着いても、すぐにやめません。冷えは季節で揺れるため、良い状態を1か月ほど保ってから量を半分に落とします。
気温が下がる時期をひとつ越えてから減らす方が、結果として飲む総量は少なくて済みます。夏に調子がよくても、秋に戻ることがあります。
減らし方は、1日3回を2回にする、朝晩だけにする、という順です。一度にやめるより、段階を踏む方が戻りにくくなります。
続ける形を選ぶ
煎じ薬は成分が多く抽出され、香りも立ちます。エキス剤は持ち運びやすく、外出先でも飲めます。
続けやすさの方が、形の違いより結果に出ます。毎朝煮出す時間が取れないなら、エキス剤の方が向きます。
煎じ薬は香りが立つぶん、体感も分かりやすいという方が多くいます。時間が取れる日は煎じ、忙しい日はエキス剤という使い分けも選べます。
合わない人と副作用
結論: 体力が充実している方、熱がこもっている方には向きません。附子を含むため、のぼせや動悸が出ることがあります。
向かないのはどんな人か
がっちりした体格で、冷えもなく、便のにおいが強い。この場合は別の漢方薬を検討します。
においの強い下痢は、熱がこもった状態です。ここに温める漢方薬を使うと、においも不快感も増します。方向が逆になるためです。
顔が赤い、のぼせやすい、暑がりという方も対象から外れます。温める力が強いぶん、合わないと反応がはっきり出ます。
判断に迷ったら、便のにおいを目安にしてください。においが弱く水っぽいなら候補、においが強いなら別の方向です。
附子による反応
飲み始めに、のぼせ、動悸、口のしびれ、吐き気が出ることがあります。附子の働きが強く出たときの反応です。
この反応が出たら、続けずに相談してください。量を減らす、別の漢方薬に替えるといった調整が要ります。我慢して続けるものではありません。
体を温める力が落ちている方ほど、附子の反応は出にくくなります。逆に反応が強い場合、そもそも冷えていないという見立てにもつながります。
妊娠中・持病がある方
附子を含む漢方薬は、妊娠中には慎重に扱われます。自己判断で始めず、産科か薬剤師に確認してください。
心臓に持病がある方も同様です。動悸が出やすいため、常用している薬がある場合は飲み合わせを確かめます。
授乳中も、産科か薬剤師に確認したうえで使う形にします。漢方薬だから安全という前提は置かない方が確実です。
似た漢方薬との違い
結論: 人参湯・五苓散・当帰芍薬散。冷えや水の症状で候補が重なるため、選び分けの基準を持っておくと迷いません。
3つの選び分け
同じ冷えや水の症状でも、冷える場所と体力で分かれます。名前が近いわけではありませんが、症状が重なるため候補に並びます。
分ける軸は3つです。冷えるのが上か下か、喉が渇くか、生理の不調を伴うか。この3つで、下の3つはほぼ分かれます。
迷ったときは、めまいの有無で見ると分かりやすくなります。めまいやふらつきが伴うなら真武湯、伴わないなら他の2つという分け方です。
| 漢方薬 | 中心になる状態 | 真武湯との違い |
|---|---|---|
| 人参湯 | みぞおちが冷えて食欲がない | 冷えの場所が上。附子を含まない |
| 五苓散 | 喉が渇いて尿が少ない | 冷えが前提でない。温めない |
| 当帰芍薬散 | 冷えとむくみ、生理の不調 | 血を補う方向が加わる |
人参湯との違い
人参湯(にんじんとう)は、胃腸そのものを温めて力を補う漢方薬です。厚生労働省の同じ承認基準では「体力虚弱で、疲れやすくて手足などが冷えやすいもの」の胃腸虚弱と下痢に用いるとされています。
みぞおちが冷える、食欲がない、薄い唾液が出る。こうしたサインなら人参湯です。真武湯は腰から下の冷えとめまいが中心で、冷える場所が違います。
五苓散との違い
五苓散(ごれいさん)は、体の中の水の偏りをならす漢方薬です。喉が渇いて水を飲むのに尿が少ない、という組み合わせが目印になります。
冷えが前提ではないため、温める力はありません。急な水様便で喉の渇きを伴うなら五苓散、慢性の冷えと下痢なら真武湯という分け方になります。
当帰芍薬散との違い
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、血を補いながら水の巡りを整える漢方薬です。冷え性で疲れやすく、むくみやすい女性によく使われます。
生理の不調を伴うならこちらが候補に入ります。真武湯は血を補う働きが無いため、貧血傾向が前に出ている方には向きません。
下痢以外に使われる場面
結論: めまい、むくみ、風邪の後期、動悸。いずれも冷えと水の滞りが背景にある場合に使われます。
めまいとふらつき
立ちくらみ、体が揺れる感じ。水の偏りが原因のめまいでは、この漢方薬が働くことがあります。
耳の異常が背景にある場合もあるため、めまいが強いときは一度耳鼻科で確かめておく意味があります。確かめてから体質の側に入る方が、遠回りになりません。
下痢と同時に出ているなら、水の偏りという1つの説明でつながります。この場合は、両方を一緒に扱う方が早く済みます。
むくみ
夕方になると足がむくむ、朝は顔がむくむ。冷えを伴うむくみでは、温めながら水をさばく方向が合います。
ただし、心臓や腎臓の病気が背景にあることもあります。急に強くなったむくみは、まず受診が先です。
夕方だけ足がむくむ、朝は顔がむくむ。こうした日内の変動があるなら、水の偏りとして扱える範囲であることが多くなります。
風邪が長引くとき
風邪の初期ではなく、こじれて体力が落ちた時期に使われることがあります。だるさが抜けない、下痢を伴うといった状態です。
高熱が出ている急性期には向きません。体を温める薬なので、熱がこもっている時期とは方向が逆になります。
風邪の後期にだるさと下痢が残る、という状態は高齢の方に多く見られます。この時期に体を温める意味は大きくなります。
飲み方と続け方
結論: 食前30分か食間に、1日2〜3回が基本です。冷えを扱う薬なので、温かくして飲む方が体感が変わります。
いつ飲むか
食前30分か、食事と食事の間が基本です。空腹時の方が生薬の成分が吸収されやすいためです。
ただし、胃が弱くて空腹時に飲むともたれる方は、食後でも構いません。飲めないタイミングを守るより、続く形にする方が結果に出ます。
明け方に下る方は、就寝前の1回を加えることがあります。1日3回のうち1回を夜に回す形で、朝の症状に間に合わせる考え方です。
温かくして飲む
エキス剤はお湯に溶かして飲む方が、香りの成分まで取り込めるとされます。冷えを扱う漢方薬では、この差が体感に出ることがあります。
冷たい水で飲むと、せっかく温める薬を冷たいもので流し込むことになります。1日3回のうち、せめて朝の1回だけでも温かくするという形でも違います。
お湯に溶かすと飲みにくいと感じる方は、そのままでも構いません。続かない形にするより、飲めるやり方を選ぶ方が結果に出ます。
生活の側も同時に
薬だけでは、冷やす習慣が続く限り繰り返します。冷たい飲み物を常温に替える、腹巻きを使う、湯船に10分浸かる。
この3つは費用がかかりません。3か月続けると、飲む量そのものを減らせることがあります。当薬局では、薬と生活をセットでご提案しています。
夏こそ抜けやすい習慣です。冷房の効いた室内で冷たいものを取り続けると、薬で温めているそばから冷やすことになります。
改善症例|真武湯が合ったケース
結論: 冷えとめまいが揃うと、この漢方薬の出番になります。当薬局では下る時間帯を必ず伺っています。
ケース1:60代男性・明け方に目が覚めて下る
1年ほど前から、午前4時ごろに腹痛で目が覚めて下るというご相談。腰と足の冷えが強く、夜間に2回トイレへ起きる状態でした。日中は下らず、明け方だけという点がはっきりしています。
腎虚の型と見て、真武湯を朝と就寝前に。腹巻きを夜間も着けていただき、寝室の足元の冷えを減らす形にしました。
2週間で目が覚める回数が減り、1か月半後には明け方の下痢がほぼ消えました。足が冷えなくなってから夜通し眠れるようになった、と話してくださっています。
ケース2:40代女性・下痢とめまいが同時に出る
疲れると下痢とめまいが同時に出る、という状態が2年続いていました。内科と耳鼻科で検査を受け、いずれも異常なしとのことです。
手足が冷たく、水を飲むと胃で音がする。水の偏りと冷えが重なった型と判断し、真武湯を朝晩の2回で開始しました。冷たい飲み物を常温に替えていただいています。
3週間で下痢の回数が減り、2か月後にはめまいの出る日が月1回程度になりました。2つが同じ原因だったと分かって納得できた、というのが本人の言葉です。
よくある質問
Q. 真武湯はどんな人に向きますか?
A. 体力が虚弱で、手足が冷たく、疲れやすく、めまいがある方です。承認基準にもこの4つが並んでいます。便は水っぽくにおいが弱いのが特徴で、においの強い下痢には向きません。
Q. 下痢とめまいに同じ薬を使うのはなぜですか?
A. どちらも体内の水の偏りから起きると考えるためです。水が腸に溜まれば下痢、頭に影響すればめまい。症状が違っても原因が同じなら、同じ方向の薬を使います。両方が同時に出る方には、この考え方が合います。
Q. どのくらいで効きますか?
A. 下痢の回数は2週間、冷えとめまいは1〜3か月が目安です。土台を温める薬なので即効性は期待しません。2週間で便の形が動かないなら、量を増やすより見立てを疑ってください。
Q. 附子が入っていると聞きましたが、心配はありませんか?
A. 加工によって毒性を減らしたうえで使われています。ただし温める力が強いため、のぼせ、動悸、口のしびれが出ることがあります。この反応が出たら続けずに相談してください。冷えている方ほど反応は出にくくなります。
Q. 人参湯とどちらを選べばよいですか?
A. 冷える場所で分かれます。みぞおちが冷えて食欲がないなら人参湯、腰から下が冷えてめまいを伴うなら真武湯です。どちらも体力が虚弱な方に向く点は共通しています。
まとめ:冷えとめまいが揃うかで決まる
真武湯は、温めることと水をさばくことを同時に行う漢方薬です。この2つが必要な状態かどうかで、向くかどうかが決まります。
- 向くのは4つが揃う人: 体力虚弱、手足の冷え、疲れやすさ、めまい
- 中心は附子: 温める力が強い。合わないとのぼせや動悸が出る
- 下痢とめまいは同じ原因: 水の偏りが場所を変えて出ている
- 見るのは2週間で便の形: 動かないなら見立てを疑う
- においの強い下痢には向かない: 方向が逆になり悪化する
最後に、本文で触れなかったことを1つ。下る時刻を1週間ぶん書き出してください。真武湯が合うかどうかは、時間帯でかなり判断できます。明け方に集中しているなら候補、飲み会の翌日だけなら別の漢方薬。便の形より、時刻の方が答えに近いことがよくあります。
「冷えると必ず下る」「下痢とめまいが同時に出る」という方は、れいわ漢方薬局にご相談ください。冷える場所と下る時刻を伺ったうえで、この漢方薬が合うか、別の型かをお伝えします。


