「検査で異常は無いのに、いつも胃が重いんです」「食べたいのに、少し食べるとお腹がいっぱいになります」――六君子湯(りっくんしとう)は、こうしたご相談で選ぶことの多い漢方薬です。
胃の動きが落ちて、食べたものが先へ進まない。この状態を、胃腸の力を底上げしながら、たまった水分と気の滞りを一緒にさばくという組み立てで扱います。
れいわ漢方薬局では、みぞおちのつかえ、食後の重さ、疲れやすさの3つを伺っています。この3つが揃うかどうかで、六君子湯が合うかが決まるためです。
この記事では、8つの生薬の組み立て、合う体質、効果が出るまでの期間、飲み方、副作用、似た漢方薬との違いまでを扱います。
六君子湯とはどんな漢方薬か
結論: 胃腸の力が落ちて、食べたものが先へ進まない状態に使う漢方薬です。胃薬というより、動かす力を底上げする薬になります。
承認されている効能
厚生労働省の一般用漢方製剤承認基準では、六君子湯を「体力中等度以下で、胃腸が弱く、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすいものの次の諸症:胃炎、胃腸虚弱、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐」に用いるとしています。
条件の並びに注目してください。症状の名前より先に、「胃腸が弱く」「疲れやすく」「冷えやすい」という体の状態が書かれています。
つまり、同じ胃もたれでも、体力があって食欲も十分ある方には向きません。ここが胃薬との違いです。
医療用ではツムラ43番
医療機関で処方される場合、ツムラの製品番号は43番です。消化器の領域で最もよく使われる漢方薬の1つになります。
市販でも同じ処方名で販売されています。ただし製品によって1日量の生薬の量が違うため、飲んでも変わらないときは量が足りていない場合があります。
当薬局では煎じ薬を扱っており、体質に合わせて配分を調整できます。
どんな場面で選ばれるか
内視鏡や血液検査で異常が出ないのに、胃の不調が続く。この場面で選ばれることが最も多くなります。
「異常なし」と言われた方が、次にどこへ行けばよいか分からず止まっている。六君子湯が使われるのは、まさにその段階です。
抗がん剤治療中の食欲不振や、高齢の方の食が細くなった状態に使われることもあります。
8つの生薬の組み立て
結論: 四君子湯という基本の処方に、陳皮と半夏を加えた形です。底上げと、水と気をさばく働きが同時に入ります。
土台は四君子湯
六君子湯の中心にあるのは、四君子湯(しくんしとう)という処方です。人参、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草の4つを組み合わせた形になります。
この4つが、消化して取り込む力そのものを底上げします。東洋医学では「気を補う」と表現され、胃腸の基本の処方とされてきました。
疲れやすい、顔色が優れない、食が細い。この状態に働くのは、この土台があるためです。
陳皮と半夏が加わる意味
四君子湯に陳皮(ちんぴ)と半夏(はんげ)を加えたものが六君子湯です。この2つが加わることで、扱える範囲が変わります。
陳皮は、みかんの皮を乾かしたものです。滞った気を巡らせる方向に働き、お腹の張りやげっぷを軽くします。
半夏は、胃にたまった水分をさばきます。吐き気やみぞおちのつかえに働くのはこの生薬です。四君子湯だけでは届かない部分を、この2つが埋めています。
大棗と生姜
実際の処方には、大棗(たいそう=なつめ)と生姜(しょうきょう)も入ります。合わせて8種類です。
この2つは、他の生薬の働きを助けながら胃を温めます。なつめは薬膳の素材としても使われ、当薬局でも単品で扱っています。
生姜は体を温める方向で、冷えて動かない胃に働きます。家庭の料理でも同じ役割を果たしています。
組み合わせで何が変わるか
補うだけの処方では、たまった水分や滞った気は残ります。さばくだけの処方では、底上げの部分が抜けます。
六君子湯は、この2つを1つにまとめた形です。胃腸が弱く、そのせいで水も気も滞っているという状態に、幅広く当たります。
いわば、詰まりを取る作業と、そもそも流す力を戻す作業を同時にやる組み立てです。
合う体質と、合わない体質
結論: 体力が中等度以下で、みぞおちがつかえ、疲れやすく冷えやすい方に合います。体力があり胃に熱がある方には向きません。
合う方の3つの特徴
承認基準に書かれた条件を、日常の言葉に置き換えると次の3つになります。
- 少量で満腹になる: 食べたいのに、数口でお腹がいっぱいになる
- 食後に重い: 食べたものが胃に残っている感じが数時間続く
- 疲れやすく冷える: 手足が冷たく、午後に力が出ない
この3つが揃うほど、六君子湯の土俵に入ります。1つだけなら、別の処方のほうが合うことがあります。
みぞおちのつかえ
「みぞおちがつかえる」という表現が承認基準にも出てきます。これは、押すと抵抗があり、本人も詰まった感じがある状態を指します。
痛みとは違います。痛みが主なら別の処方を考えます。つかえは、重い・詰まる・下がらないという感覚です。
診察では、みぞおちを軽く押して確かめます。ここに反応がある方は、六君子湯が当たりやすくなります。
合わない体質
体力があり、食欲も十分にある方には向きません。底上げする必要のない土台に、底上げの薬を使う形になるためです。
胃に熱がこもっているタイプも別です。口が渇く、口内炎ができやすい、舌が赤い。この形には冷ます方向の処方を選びます。
みぞおちが痛む、焼けるように感じるという場合も、別の処方が候補になります。
どんな症状に使うか
結論: 胃もたれ、食欲不振、吐き気、胃下垂。いずれも「動きが落ちている」という共通点があります。
胃もたれと膨満感
食後に胃が重い、いつまでも残っている感じがする。六君子湯が最もよく使われる症状です。
脂っこいものを食べたときだけでなく、普通の食事でも起きるのが特徴です。胃の動きそのものが落ちているためで、食べたものの中身とは別の問題になります。
食後2〜3時間たっても重いという方は、この状態にあたります。
朝食は入るのに夕食が重い、という方もいます。1日のうちで動きが落ちる時間帯があるためで、この場合は夕食の量を先に減らします。膨満感を伴うなら、みぞおちだけが重いのかお腹全体が張るのかも手がかりになります。
食欲不振
食べたいという気持ちはあるのに、いざ食べると入らない。この形が典型です。
体重が落ちてきている方も多くいます。食べられないことで栄養が足りず、そのせいでさらに胃腸の力が落ちるという循環に入っています。
この循環に入ると、食欲だけを戻そうとしても届きません。取り込む力の側から手を入れる必要があり、六君子湯が選ばれるのはそのためです。
高齢の方や、治療中で食が進まない方にも使われます。
吐き気とげっぷ
半夏が入っているため、吐き気にも働きます。胃にたまった水分が上がってくる形の吐き気が対象です。
げっぷが多い、飲んだ水が胃で揺れる感じがする。この訴えがあるなら、水の停滞を疑います。
診察では、みぞおちを軽く叩いて音を確かめることがあります。振水音(しんすいおん)と呼ばれ、胃に水がたまっているサインの1つです。
一方、頭痛を伴う吐き気や、においで気持ち悪くなる形は別の処方が合うことがあります。
胃下垂と胃食道逆流
胃下垂は、胃の位置が下がって内容物が停滞しやすい状態です。承認基準にも記載があります。
逆流性食道炎で、酸を抑える薬を飲んでも症状が残る方にも使われます。酸の量ではなく、胃の動きの側に原因がある場合です。
酸を抑える薬との併用も可能です。目的が違うため、重ならずに働きます。
酸を抑える薬をやめたい方もいますが、自己判断でやめると症状が戻ることがあります。まず併用して様子を見て、落ち着いてから減らす順番が安全です。
検査で異常が出ないとき
結論: 機能性ディスペプシアと呼ばれる状態です。六君子湯は、この領域で最もよく検討される漢方薬になります。
機能性ディスペプシアとは
内視鏡で潰瘍も炎症も無いのに、胃もたれ、早期満腹感、みぞおちの痛みが続く。この状態を機能性ディスペプシアと呼びます。
日本消化器病学会の『機能性消化管疾患診療ガイドライン2021-機能性ディスペプシア(FD)』では、この状態を「症状の原因となる器質的疾患がないにもかかわらず、慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの上腹部症状を呈する疾患」と定義しています。
珍しい状態ではありません。胃の不調で受診した方のかなりの割合が、この診断になります。
なぜ漢方薬の土俵になるのか
検査で異常が無いということは、形の異常が無いということです。動き方の偏りは、画像にも数値にも映りません。
胃が動かない、水を送り出せない、食べ物が長く留まる。こうした働きの偏りに対して、漢方薬は組み立てを持っています。
「異常なし」で終わってしまう方が多いのは、この次の手が知られていないためです。
食欲に関わる仕組み
六君子湯については、食欲を促すホルモンの働きに関わるという研究が複数あります。食欲不振に使われる根拠の1つとされています。
ただし、効くかどうかは体質との一致で決まります。仕組みの話より、みぞおちのつかえと疲れやすさが揃っているかを先に見ます。
同じ食欲不振でも、口が渇いて舌が赤い方には合いません。仕組みが説明できることと、その方に合うことは別の話になります。
効果が出るまでの期間
結論: 2週間から1か月が目安です。食欲や食後の重さが先に動き、体力の回復はその後になります。
最初に動くもの
食後の重さが軽くなる、食べられる量が増える。この2つが先に出ることが多くなります。
便通が整うという形で気づく方もいます。胃が動けば、その先も動くためです。
本人が期待していたところと別の場所から動くことがよくあります。胃の重さは変わらないのに便通が整った、という段階でやめてしまうと、そこで止まります。
体重の回復は最後です。数か月かかることもあり、ここを最初の目安にすると判断を誤ります。
2週間で見るもの
飲み始めて2週間で、何かしらの変化が出ているかを見ます。まったく何も動かないなら、型が合っていない可能性があります。
変化は症状の消失ではなく、程度の差で見ます。「重い日が週5日から3日になった」なら、方向は合っています。
完全に消えるかどうかで判断すると、途中の変化を見落とします。慢性の状態ほど、動き出しは小さな差として現れます。記録があると、この差に気づけます。
1か月で判断する
1か月続けて変化が無い場合は、見立てを見直します。同じものを漫然と続けるより、この時点で切り替えるほうが早く終わります。
急性の胃炎には向きません。六君子湯は、慢性の状態を土台から動かす薬です。飲んですぐ楽になる性質のものではありません。
食べ過ぎた翌日の胃もたれのような、一時的な症状にはもっと即効性のある薬があります。何年も続いている状態に使うものだと考えてください。
飲み方と量
結論: 食前または食間に飲みます。エキス剤と煎じ薬では量が違うため、変化が無いときは量も確かめます。
いつ飲むか
食前30分、または食間(食後2時間ほど)が基本です。空腹時のほうが吸収されやすいためです。
飲み忘れたら、次の回に2回分をまとめず、1回分を飛ばします。血中の濃度で効かせる薬ではないため、まとめて飲む意味はありません。
1日3回が守れない方は、朝晩の2回に組み替えることもできます。3回にこだわって続かなくなるより、2回で3か月続くほうが結果は出ます。
エキス剤と煎じ薬
市販のエキス剤は、幅広い方が安全に使えるよう量が控えめに設定されているものがあります。飲んでも変わらない場合、量が足りていないことがあります。
同じ六君子湯でも、製品によって1日量の生薬の量が違います。箱の裏の記載を比べると差が分かります。
煎じ薬は生薬をそのまま煮出す形で、体質に合わせて配分を変えられます。温かいうちに少しずつ飲むのが基本です。
錠剤という選択
煎じるのが手間、粉が飲みにくいという方には錠剤もあります。当薬局でも扱っています。
外出先で飲む必要がある方や、味が苦手な方に向きます。続けられる形を選ぶことが、いちばん優先されます。
副作用と注意すること
結論: 甘草による偽アルドステロン症に注意します。むくみ、血圧の上昇、力が入りにくいという変化がサインです。
甘草の重なり
六君子湯には甘草(かんぞう)が含まれます。他の漢方薬と併用すると、この量が重なることがあります。
むくみ、血圧の上昇、手足の力が入りにくい、こむら返り。このサインが出たら、続けずに相談してください。偽アルドステロン症と呼ばれる副作用です。
すでに別の漢方薬を飲んでいる方は、その内容を伝えます。芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)など甘草を多く含むものとの併用は、特に確認が要ります。
長期に飲んでよいか
体質から動かす薬なので、数か月単位で続けることは珍しくありません。ただし漫然と続けるものではありません。
3か月ごとに、まだ必要かを確かめます。症状が落ち着き、食事の量が戻っているなら、減らす段階に入っています。
血圧を測っている方は、その記録も一緒に見ます。甘草の影響は、数値で先に出ることがあります。
気をつける方
高血圧の薬、利尿薬、心臓の薬を飲んでいる方は、甘草の影響が出やすくなります。飲み始める前に伝えてください。
妊娠中の使用については、産科の方針が優先されます。六君子湯は妊娠中でも比較的使いやすいとされますが、自己判断で選ばず週数を伝えて相談する順番です。
高齢の方も、飲んでいる薬の数が多いぶん重なりが起きやすくなります。むくみや血圧の変化は本人が気づきにくいため、周りが見る形になります。お薬手帳を一緒に確認する順番が確実です。
似た漢方薬との使い分け
結論: 半夏瀉心湯、人参湯、安中散、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)。どれも胃腸に使いますが、軸が違います。
見分けの一覧
胃腸に使う処方は複数あります。下の表が目安です。
名前が似ているものもあり、自分で選ぼうとすると迷いやすくなります。まず自分がどの行に当たるかを決めてから、処方の名前を見る順番にすると外れにくくなります。
2つ以上に当てはまると感じる方もいます。その場合は、いま最も困っている症状の側から選び、飲んで動いた方向で見立てを確かめる形になります。
| 処方 | 決め手になる状態 | 主な症状 |
|---|---|---|
| 六君子湯 | みぞおちのつかえ、疲れやすい、冷え | 胃もたれ、食欲不振、吐き気 |
| 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう) | みぞおちのつかえ+下痢や腹鳴 | 胃の不快感、下痢、口内炎 |
| 人参湯(にんじんとう) | 冷えが強い、冷たいもので下る | 慢性の下痢、胃痛 |
| 安中散(あんちゅうさん) | みぞおちの痛み、胸やけ | 神経性胃炎、胃痛 |
| 補中益気湯 | 全身の疲れが前に出る | 倦怠感、食欲不振、寝汗 |
胃腸の症状だけでは決まりません。左から2列目の状態が、選ぶときの決め手になります。
六君子湯と半夏瀉心湯
どちらもみぞおちのつかえに使います。分かれ目は、下痢や腹鳴があるかどうかです。
お腹がゴロゴロ鳴り、便が緩いなら半夏瀉心湯という方向になります。六君子湯は、下の症状が無く、胃で止まっている形が対象です。
六君子湯と人参湯
人参湯は、胃腸が冷えて力が出ない状態に使います。冷たいものを飲むとすぐ下る、腹部を触ると冷たいという形です。
六君子湯より、冷えが前に出ているときに選びます。逆に、みぞおちのつかえと吐き気が主なら六君子湯です。
六君子湯と補中益気湯
補中益気湯は、全身の疲れが前に出ているときに使います。胃腸というより、体力そのものを底上げする方向です。
胃の症状が主なら六君子湯、疲れが主なら補中益気湯という分かれ方になります。両方が強いときは、時期を分けて使うこともあります。
ストレスで胃に来るとき
結論: 緊張すると胃が痛む形には、別の処方が合うことがあります。六君子湯は動きの落ちが軸です。
自律神経との関わり
胃の動きは自律神経に支配されています。ストレスで交感神経が優位になると、胃の動きは落ちます。
六君子湯が自律神経に働くというより、動きが落ちた結果に対して働くと考えるほうが正確です。原因がストレスでも、結果として胃が動いていないなら候補に入ります。
忙しい時期だけ症状が出る、休日は平気という方は、生活の側にも手を入れないと戻ります。薬で下支えしながら、負荷の量を減らす順番になります。
半夏厚朴湯との違い
喉のつかえ、息苦しさ、気分の落ち込みを伴うなら、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)が候補になります。
喉に何か引っかかっている感じがあるかどうかが分かれ目です。この訴えがあるなら、そちらから入ります。
東洋医学ではこの感じを梅核気(ばいかくき)と呼び、気の滞りとして扱ってきました。梅の種が喉にあるような、という比喩から来た呼び名です。
両方の症状があるときは、合わせて使うこともあります。
四逆散との違い
みぞおちからわき腹にかけて張る、緊張が強いという形なら四逆散(しぎゃくさん)が候補です。
張りが主なら四逆散、つかえと重さが主なら六君子湯という分かれ方になります。
受診が要る場合
結論: 体重減少、黒い便、飲み込みにくさ、貧血。この4つは漢方薬の前に検査で外します。
検査を先にする状態
数か月で体重が3キロ以上落ちた、黒いタール状の便が出る、飲み込みにくい、健診で貧血を指摘された。
このどれかがあるなら、まず消化器内科です。胃がんや潰瘍を外してから、体質の話に入る順番になります。
検査で異常が無いと分かってから始めるほうが、本人にとっても安心材料になります。外しておく作業には、そういう意味もあります。
50歳以降に初めて胃の症状が出た場合も、一度は内視鏡で確かめておく値打ちがあります。
ピロリ菌の確認
慢性の胃の不調では、ピロリ菌の有無を確かめることがあります。感染があれば除菌が先です。
除菌後に症状が残る方もいます。その場合は、胃の動きの側に原因が移っているため、六君子湯の土俵になります。
除菌そのものが胃の不調を全部解決するわけではありません。粘膜の炎症が取れても、動き方の偏りは残ります。この違いを知っておくと、次の手を探しやすくなります。
薬の影響
痛み止め、骨粗しょう症の薬、鉄剤。これらは胃の症状の原因になることがあります。
いつ薬を始めて、いつ症状が始まったか。この2つを並べて伝えると、判断が早くなります。お薬手帳を持って受診する形が確実です。
サプリメントも対象になります。鉄やビタミン剤は胃に負担をかけることがあり、健康のために始めたものほど原因の候補から外れがちです。
年代と場面による使われ方
結論: 高齢の方の食欲不振、治療中で食が進まないとき、小児の胃腸虚弱。いずれも「食べられない」が共通します。
高齢の方の食欲不振
年齢とともに胃の動きは落ちます。食が細くなり、体重が少しずつ減っていくという相談は珍しくありません。
この年代では、食欲が落ちた原因を1つに絞れないことがほとんどです。薬の影響、歯の状態、活動量の低下、味覚の変化。複数が重なっています。
六君子湯は、そのうち「胃の動き」の部分に手を入れます。ほかの要因は別に扱う必要があり、薬だけで解決する話にはなりません。
治療中で食が進まないとき
抗がん剤治療などで食欲が落ちた場面でも使われます。吐き気を伴う場合に選ばれることがあります。
主治医の方針が優先されます。併用してよいかを確かめてから始める順番です。当薬局でも、治療の内容を伺ってからご提案しています。
治療の副作用そのものを消すものではありません。食べられる量を少し戻す、という位置づけになります。
子どもに使う場合
小児の胃腸虚弱にも使われます。食が細く、すぐお腹がいっぱいになる、疲れやすいという状態が対象です。
量は年齢と体重に応じて調整します。大人の量をそのまま減らすという単純な形ではありません。煎じ薬なら味の濃さも変えられるため、飲みにくさで続かない場面を減らせます。
体重の伸びが止まっている場合は、まず小児科で確かめる順番になります。
よくある誤解
結論: 胃薬の代わりではなく、太る薬でもありません。動きを戻すことで、結果として食べられる量が増える薬です。
胃薬の代わりになるか
市販の胃薬は、酸を抑える、粘膜を守る、消化を助けるといった働きで作られています。目的がはっきりしている分、その場の症状には早く働きます。
六君子湯は、動きが落ちた状態そのものを戻す方向です。すぐ楽になることを期待すると、期待とずれます。
食べ過ぎた翌日の胃もたれなら市販の胃薬、何か月も続く重さなら六君子湯、という使い分けになります。
飲めば食欲が出るのか
食欲を無理に出す薬ではありません。胃が動き、たまったものが先へ進むことで、結果として食べられるようになるという順番です。
このため、食欲だけが先に戻ることは少なくなります。食後の重さが減り、次の食事までにお腹が空くようになる。この経過をたどります。
飲んだその日に食欲が湧かなくても、それは合っていないという意味にはなりません。
太る薬なのか
体重を増やす目的で使われることがありますが、太らせる作用があるわけではありません。食べられる量が戻った結果として、体重が戻ります。
もともと食べられている方が飲んでも、体重は増えません。むしろ、体力があって食欲も十分な方には向かない処方です。
体重の回復は最後に来ます。数か月かかることもあり、ここだけを見ていると判断を誤ります。
生活の側で合わせること
結論: 一度に食べる量を減らし、回数で補います。冷たいものと脂を控えると、薬の働きが乗りやすくなります。
量を減らして回数を増やす
一度に多く食べると、動きの落ちた胃には負担になります。1回の量を減らし、回数で補う形にします。
- 3食を4〜5回に分ける: 1回は普段の7割程度
- 間食は消化のよいものに: おにぎり、バナナ、温かいスープ
- 就寝の3時間前までに済ませる: 寝ている間の停滞を避ける
量を減らすと栄養が足りなくなると心配される方がいますが、逆です。動かない胃に詰め込んでも、そのまま残るだけになります。
冷たいものと脂
冷たい飲み物は胃の動きを鈍らせます。常温か温かいものに変えるだけでも、食後の重さが変わることがあります。
脂の多いものは、胃に留まる時間が長くなります。揚げ物、脂ののった肉、クリーム系。この3つを一度減らして、食後の重さを比べてみてください。
完全にやめる必要はありません。量を半分にして、変化を見る形から始めます。
よく噛む
消化は口から始まります。噛む回数が足りないと、そのぶん胃に負担がかかります。
食事にかける時間を計るほうが、噛む回数を数えるより続きます。まず15分を目安にすると、回数は自然に増えます。
噛むことで唾液が出て、消化の最初の段階が口の中で進みます。胃に届く時点で細かくなっていれば、それだけ胃の仕事が減ります。
昼食を5分で済ませている方は、ここに伸びしろがあります。
よくある質問
Q. 六君子湯はどんな効果がありますか?
A. 動きの落ちた胃を底上げしながら、たまった水分と滞った気をさばきます。胃もたれ、食欲不振、吐き気、みぞおちのつかえが対象です。承認基準では「胃炎、胃腸虚弱、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐」とされています。
Q. 効果が出るまでどのくらいかかりますか?
A. 2週間から1か月が目安です。先に動くのは食後の重さと食べられる量で、体重の回復は最後になります。1か月まったく変化が無いなら、型が合っていない可能性があるため見立てを見直します。
Q. 六君子湯が合わない人はどんな人ですか?
A. 体力があり食欲も十分な方には向きません。口が渇く、口内炎ができやすい、舌が赤いという胃に熱がこもったタイプも別の処方になります。みぞおちが焼けるように痛む場合も候補が変わります。
Q. 副作用はありますか?
A. 甘草を含むため、偽アルドステロン症に注意します。むくみ、血圧の上昇、手足の力が入りにくい、こむら返りがサインです。他の漢方薬と併用すると甘草の量が重なるため、飲んでいる内容を伝えてください。
Q. 自律神経の不調に効きますか?
A. 自律神経そのものに働くというより、ストレスで動きが落ちた胃に対して働きます。喉のつかえや息苦しさが主なら半夏厚朴湯、みぞおちからわき腹の張りが主なら四逆散のほうが合うことがあります。
Q. 胃薬と一緒に飲んでもよいですか?
A. 酸を抑える薬との併用は可能です。目的が違うため重なりません。逆流性食道炎で酸を抑える薬を飲んでも症状が残る方には、動きの側から手を入れる形で併用されることがあります。
まとめ|胃薬ではなく、動かす力を戻す薬
六君子湯を選ぶかどうかは、症状の名前では決まりません。みぞおちのつかえ、疲れやすさ、冷え。この3つが揃うかが分かれ目です。
- 働き方: 胃腸の力を底上げしながら、たまった水分と滞った気をさばく
- 組み立て: 四君子湯(補う)+陳皮・半夏(さばく)+大棗・生姜
- 合う状態: 少量で満腹、食後に重い、疲れやすく冷える
- 期間の目安: 2週間で変化を見て、1か月で判断する
- 注意: 甘草の重なり。むくみ・血圧上昇・こむら返りが出たら相談
- 検査が先の状態: 体重減少、黒い便、飲み込みにくさ、貧血
最後に、本文で触れなかったことを1つ。食べた量を1週間だけ記録してみてください。胃の不調では、症状のつらさばかりに目が向きます。実際に何をどれだけ食べられたかを書き出すと、良くなっているかが数字で見えます。症状が同じでも食べられる量が増えているなら、方向は合っています。
「検査で異常なしと言われたまま胃の重さが続いている」「食べたいのに量が入らない」という方は、れいわ漢方薬局にご相談ください。みぞおちの状態と食事の量を伺ったうえで、合う漢方薬をお伝えします。


