「基礎体温を測っているけれど、高温期が短い、または出てこない」「病院で黄体ホルモンが低いと言われた」――多嚢胞性卵巣症候群、いわゆるPCOSの妊活で、この壁に当たる方は多くいらっしゃいます。
黄体ホルモンが足りないのは、排卵が起きていないからです。このホルモンは、排卵したあとに残る組織から分泌されます。排卵という出来事が起きなければ、分泌する場所そのものが作られません。数値が低いことは結果であって、原因は排卵の側にあります。
ホルモン剤を飲めば数値は上がります。ただし、やめれば元に戻ります。れいわ漢方薬局では、この不足を体を温める力が落ちた状態と捉え、自分で分泌できる状態へ戻す方向で組み立てます。
この記事では、黄体ホルモンが出ない仕組み、病院の治療との使い分け、高温期を作る漢方薬、そして基礎体温の読み方までを解説します。
黄体ホルモンが出ない3つの理由
結論: 排卵が起きないため分泌する場所が作られない、そのため高温期が保てない、結果として不正出血と着床の不安定さが起きる。この3つが連鎖しています。
数値だけを見ていると、なぜ足りないのかが見えません。仕組みから整理します。
排卵しないと分泌する場所ができない
黄体ホルモン、いわゆるプロゲステロンは、排卵後に残る組織から分泌されます。この組織は、卵子が飛び出したあとの殻が変化してできるものです。
つまり、排卵が起きなければ、分泌する場所そのものが存在しません。PCOSの最大の特徴である排卵しにくいという状態は、必然的にこのホルモンの不足につながります。数値が低いのは、原因ではなく結果です。
このため、ホルモンの数値だけを上げても、根本は変わりません。排卵の側に手を入れる必要があります。
高温期が保てなくなる
黄体ホルモンには、体温を上げる働きがあります。排卵がうまくいかないと、基礎体温は低いまま横ばいになるか、上がってもすぐ下がります。
高温期が10日に届かない場合、受精卵が着床するための状態を保てません。暖房のスイッチは入ったものの、燃料が続かず途中で消えるような形です。日本産科婦人科学会の資料でも、黄体機能不全の目安として高温期の日数が挙げられています。
基礎体温をつけていれば、この部分は自分で確かめられます。数値を測らなくても分かる情報です。
不正出血と着床の不安定さが起きる
黄体ホルモンには、厚くなった子宮内膜を支える役割もあります。足りないと、予定日より前に内膜が崩れ始めます。
生理予定日の1週間前から少量の出血が続く、茶色い出血がだらだら続く。こうした形は、支える力が足りていない合図として読めます。着床しにくくなるのも同じ理由です。
出血のパターンは、記録しておくと相談のときに役立ちます。何日前から始まるかで、状態の程度が分かります。
病院の治療と漢方薬の使い分け
結論: ホルモン剤は足りないものを補う手当て、漢方薬は自分で出せる状態を作る手当てです。目的が違うため、どちらかを選ぶ必要はありません。
併用してよいのか、という質問は必ずいただきます。整理して並べます。
| 見るところ | ホルモン剤 | 漢方薬 |
|---|---|---|
| 何をするか | 足りない分を外から補う | 自分で作れる状態にする |
| 効き始め | 服用したその周期から | 1か月から6か月 |
| 基礎体温 | 飲めば確実に上がる | 少しずつ底が上がる |
| やめたあと | 元の状態に戻る | 整った状態が続きやすい |
| 得意なこと | 今周期の妊娠を狙う | 排卵の力そのものを戻す |
| 苦手なこと | 根本の排卵障害 | 急ぐ場面での確実さ |
| 費用 | 保険が使える場合が多い | 自費が中心 |
補うか、出せるようにするか
黄体ホルモン剤は、飲めば確実に血中の濃度が上がり、体温も上がります。今の周期で妊娠を目指す場面では、頼れる手段です。
漢方薬に即効性はありません。その代わり、薬をやめても排卵と生理が続く状態を目指せます。リハビリに近い性格の手当てだと考えると、位置づけが分かりやすくなります。
年齢や治療の段階によって、どちらを主にするかは変わります。急ぐ時期なら補う側、時間が取れるなら育てる側という判断です。
ホルモン療法の期間こそ土台を作る
ホルモン剤で人工的に周期を作る治療を受けている期間は、漢方薬を並行させる好機です。
卵巣を休ませているあいだに、血のめぐりを整えて土台を作っておく。工場を止めているうちに設備を直しておくような形で、治療が終わったあとに自力の排卵へつながりやすくなります。休んでいる期間を無駄にしないという考え方です。
主治医には、飲んでいる漢方薬の名前を伝えておきます。併用で問題になる組み合わせは、ほとんどありません。
最終的にどこを目指すか
目標は、薬に頼らずに周期が回る状態です。そのためには、卵巣への血流と、脳から卵巣への指令が届く経路の両方が要ります。
漢方薬が担当するのは、この2つを整える部分です。ホルモンそのものを補うのではなく、出せる条件を揃えるという役割になります。ここを取り違えると、期待と結果がずれます。
すぐに数値が動かないことを理由に途中でやめてしまう方が多いのですが、動く順番が違うだけです。
東洋医学で見る3つの背景
結論: 高温期を保てない背景には、温める力の不足、続ける体力の不足、めぐりの滞りの3つがあります。どれが主かで、選ぶ漢方薬が変わります。
漢方では、ホルモンの数値そのものではなく、それを作り出す体の状態を見ます。
温める力が落ちている
漢方では、生殖に関わる力を腎と呼び、そのうち体を温める働きを腎陽と言います。高温期が低い、短いという方は、この火力が弱っている状態です。
足腰が冷える、夜間にトイレで起きる、朝の基礎体温が36.2度を下回る。この3つが揃うなら、温める力の不足を第一に考えます。冷たいものを好む食習慣が背景にあることも多くあります。
このタイプでは、温める方向の漢方薬と生活の温活を組み合わせます。片方だけでは追いつきません。
続けるための体力が足りない
黄体ホルモンは、排卵後の14日間ほど分泌され続けます。この期間、出し続けるには体力が要ります。
疲れやすい、食後に眠くなる、声に力が入らない。こうした方は、途中で分泌が途切れて高温期が崩れます。マラソンの後半で失速するような形で、最初は上がるのに10日目あたりから下がってくるパターンが典型です。
基礎体温のグラフを見ると、高温期の後半がぎざぎざになっているのが目印になります。
めぐりが滞って卵巣に届いていない
血のめぐりが滞ると、卵巣に栄養と酸素が届きません。育つはずの卵胞が育たず、排卵そのものが起きにくくなります。
生理痛が重い、経血に塊が混じる、肩こりと目の下のくまが目立つ。この特徴が重なるなら、めぐりの滞りが主な背景です。卵巣の膜が硬くなって、物理的に排卵しにくくなるという説明もされます。
このタイプでは、温めるより先にめぐらせる方向から入ることがあります。
高温期を作る漢方薬
結論: PCOSの黄体機能には、温経湯、八味地黄丸、補中益気湯が代表的な選択肢です。冷えか、体力か、めぐりかで選び分けます。
3つとも方向が違います。自分の背景に合わせて選びます。
温経湯|めぐらせながら温める
唇が乾く、手足はほてるのにお腹は冷たい、生理周期が長い、基礎体温が低い。この特徴が並ぶなら、温経湯(うんけいとう)が第一の候補です。
血の通り道を温めながらめぐらせる組み立てで、排卵障害に対してよく使われます。卵巣への血流を確保して排卵を助け、そのあとの高温期を安定させるという二段の狙いを持ちます。
変化は基礎体温に先に出ます。1か月から2か月で、低温期の底が上がってくるかを見ます。
八味地黄丸|温める力そのものを補う
足腰が冷える、夜間にトイレで起きる、疲れやすい、基礎体温が全体的に低い。この特徴があるなら、八味地黄丸(はちみじおうがん)が向きます。
温める力を根本から補う組み立てで、35歳以上の妊活でもよく使われます。冷えが原因で卵巣の働きが落ちている方に向く方向です。3か月を目安に、基礎体温の底が上がるかを見ます。
胃腸が弱い方には、もたれることがあります。その場合は食後に飲む形へ変えるか、量を調整します。
補中益気湯|高温期を維持する体力を足す
疲れやすい、風邪をひきやすい、汗をかきやすい、高温期が短く不安定。この特徴があるなら、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が候補です。
体を動かす力を補い、体温を保つ働きを支えます。単独より、温める漢方薬と組み合わせて使うことが多い漢方薬です。高温期の後半が崩れるパターンに向きます。
食欲が戻ることが最初の変化として現れます。そこから体力が戻り、高温期の形が変わっていきます。
基礎体温の読み方
結論: 見るのは、低温期と高温期の差、高温期の長さ、上がり方の3つです。数値そのものより、形が情報を持ちます。
基礎体温は、自分で確かめられる数少ない指標です。読み方を知っておくと判断が早くなります。
見る3つのポイント
グラフを見るとき、順番に確かめる項目があります。
- 低温期と高温期の差が0.3度以上ついているか:ここが最初の関門です
- 高温期が10日以上続いているか:10日未満は支える力の不足を示します
- 上がり方が3日以内かどうか。だらだら上がる場合は排卵の力が弱いと考えます
この3つが揃っていれば、排卵してホルモンが出ていると判断できます。PCOSの診断が残っていても、この3つが揃えば機能としては回っています。目指すのは診断名を消すことではなく、この形を作ることです。
測るのは朝目覚めた直後、体を起こす前です。同じ時刻に測るほうが、ぶれが小さくなります。
変化が出てくる順番
漢方薬を始めてから、グラフはいきなり整うわけではありません。順番があります。
最初に動くのは、低温期の底です。次に高温期がぽつぽつ出るようになり、そのあと日数が延びていきます。きれいな二相になるのは最後で、ここまで3か月から6か月かかります。
1か月で二相にならないからと諦めてしまう方が多いのですが、底が0.1度上がっていれば動いています。月ごとの平均で見ると、変化が読み取れます。
記録の残し方
紙でもアプリでも構いません。大事なのは、同じ形式で続けることです。
体温に加えて、出血の有無、おりものの状態、体調の変化も並べて書いておきます。基礎体温だけでは分からないことが、この3つで補えます。特におりものの変化は、排卵が近いかどうかの手がかりになります。
3周期ぶん揃うと、その人のパターンが見えてきます。相談のときも、これがあるかどうかで話の精度が変わります。
朝食と体温のスイッチ
結論: 朝にたんぱく質を入れると、体温が上がりやすくなります。食べないことが、低温期の底を下げている場合があります。
生活の側で最も影響が大きいのが、朝の食事です。
朝にたんぱく質を入れる
寝ているあいだに下がった体温を上げるスイッチが、朝の食事です。食べたものを消化する過程で熱が生まれるためで、特にたんぱく質でこの働きが大きくなります。
卵、魚、納豆のいずれかを朝に1品。パンとコーヒーだけの朝食を続けていると、この熱が生まれません。温かい味噌汁を足すと、さらに底が上がります。1か月続けて、朝の基礎体温が変わるかを確かめます。
朝食を抜いている方は、まずそこから始めます。量は少なくても、入れること自体に意味があります。
極端な食事制限を避ける
体重を落とそうとして食べる量を絞ると、体は生命維持を優先して排卵を後回しにします。PCOSで減量が勧められる場面はありますが、やり方を誤ると逆に働きます。
体脂肪率が18%を下回ると、排卵の働きが落ちることが知られています。減らすのは量ではなく種類で、砂糖と揚げ物を控え、たんぱく質は増やすという方向が正しい形になります。
妊活中の減量は、月に体重の1%程度までにとどめるのが安全です。
冷えを断つ習慣
結論: 冷たい飲み物をやめること、湯船に浸かること、首とお腹と足首を冷やさないこと。漢方薬で温めても、ここが崩れていれば相殺されます。
温める力を補う漢方薬を飲みながら、氷を入れた飲み物を毎日取っていては前に進みません。
常温以上のものだけにする
飲み物を常温か温かいものに替えます。これだけで、内臓の温度が変わります。
内臓が温まると卵巣への血流が増え、ホルモンを作る働きも戻ります。1年を通して常温以上、という基準を決めてしまうほうが迷いません。夏の冷房下でも、冷たいものは体を冷やす側に働きます。
飲み物を替えて2週間で、朝の基礎体温が変わる方もいらっしゃいます。費用のかからない対策です。
湯船と3か所の保温
シャワーだけで済ませていると、体の芯が温まりません。湯船に15分浸かる習慣が、最も手軽な温め方になります。
冷やさない場所は、首、お腹、足首の3つ。太い血管が皮膚の近くを通っているため、ここが冷えると全身が冷えます。夏でも腹巻きと靴下を使い、素足にサンダルの日は足首を覆えるものを持ちます。
カイロを使うなら、お腹側より仙骨のあたりのほうが深いところまで届きます。
変わらないときの見直し
結論: 3か月続けて基礎体温の形が動かない場合は、漢方薬より先に睡眠と食事の実態を確かめます。土台が崩れていると、どの漢方薬も力を出しきれません。
手応えがないとき、すぐ別の漢方薬に移りたくなります。その前に見るところがあります。
睡眠時刻を先に確かめる
性ホルモンは、夜眠っているあいだに作られます。ここが崩れていると、材料の側が足りません。
23時までに寝る日が週4日確保できているか。この1点だけでも確かめる価値があります。平均睡眠時間が6時間を切っている場合、そこが最大の障壁になっている可能性が高くなります。激しい運動で疲れ果てるより、早く寝るほうが黄体の働きには影響します。
寝る前のスマートフォンを30分早く手放すところから始めます。
検査で確かめておくこと
3か月動かない場合、確かめておきたい数値があります。甲状腺の働き、血糖とインスリン、そして貧血の有無です。
甲状腺の働きが落ちていると、どれだけ温めても基礎体温は上がりません。PCOSと甲状腺の不調が重なっている方は珍しくなく、こちらを扱わないかぎり動きません。血液検査で分かるので、婦人科か内科で依頼します。
検査で問題がなければ、漢方薬の見立てを見直す段階に入ります。
改善症例|高温期が出てきたケース
結論: 基礎体温の形は、3か月から6か月かけて変わります。当薬局では冷えと体力のどちらが主かを見てから組み立てをご提案しています。
ケース1:30代前半女性・高温期がまったくなかった
症状: PCOSと診断されて2年、妊活中というご相談でした。基礎体温は低いまま横ばいで、高温期が出てこない状態。ホルモン剤を飲んでいるものの、薬なしで整えたいとのこと。お腹が冷たく、生理周期は45日を超えていました。
アプローチ: 温経湯の煎じ薬を中心に、朝食で必ずたんぱく質を取ること、冷たい飲み物をやめること、23時に寝ることの3つをお願いしました。
経過: 1か月で基礎体温にわずかな高温期が現れ、3か月で二相の形が定着。半年後に自然妊娠に至っています。自分の体が動き始めた感覚があった、と話してくださいました。
ケース2:30代後半女性・採卵しても卵が育たない
症状: 38歳で体外受精を続けているものの、採卵しても卵が育たないというご相談。基礎体温が全体的に低く、足腰の冷えと夜間にトイレで起きることが続いていました。温める力の不足と判断しています。
アプローチ: 八味地黄丸を主治医に伝えたうえで併用し、湯船に15分浸かること、腹巻きを日中も使うことを守っていただきました。
経過: 3か月で基礎体温の底が0.2度上がり、4か月目の採卵で卵の数と状態が改善。移植で着床に至りました。
よくある質問
Q. ホルモン剤と漢方薬は一緒に飲める?
A. はい、併用できます。組み合わせる価値のある使い方です。
ホルモン剤で内膜を保ちながら、漢方薬で自分で出せる力を育てるという形になります。この併用を続けると、ホルモン剤から離れやすくなります。主治医には、飲んでいる漢方薬の名前を伝えておいてください。
Q. 基礎体温が二相になればPCOSは治った?
A. 診断名は残りますが、働きとしては回復していると判断できます。
低温期と高温期の差が0.3度以上あり、高温期が10日以上続いていれば、排卵して黄体ホルモンが出ている証拠です。卵巣の見た目の所見は残ることがありますが、妊娠を目指すうえでは大きな前進になります。
Q. 黄体機能不全とPCOSは別の病気?
A. 別の状態ですが、PCOSの結果として黄体機能不全になります。
黄体機能不全は、黄体ホルモンが足りない状態全般を指す言葉です。PCOSでは排卵が起きにくいために分泌する場所が作られず、結果としてこの状態を伴います。根は同じ排卵の問題にあります。
Q. 高温期が伸びるまでどのくらいかかる?
A. 早い方で1か月から2か月、しっかり整うには3か月から6か月です。
最初に動くのは低温期の底で、次に高温期が現れ、最後に日数が延びます。毎朝の基礎体温を記録して、月単位で平均を比べてください。0.1度ずつ上がっていれば順調です。
まとめ:温める力を戻して自力の排卵を目指す
黄体ホルモンが足りないのは、排卵が起きていないという合図です。数値を上げることより、排卵の側に手を入れるほうが本筋になります。
- 原因は排卵障害:分泌する場所そのものが作られていません
- 背景は3つ:温める力の不足、続ける体力の不足、めぐりの滞り
- 漢方薬:温経湯、八味地黄丸、補中益気湯を背景で選び分けます
- 基礎体温:差が0.3度、高温期10日、上がり方3日以内が目安
- 生活:朝にたんぱく質、冷たい飲み物をやめる、23時就寝
先に手をつけるなら、朝食と飲み物の温度です。どちらも今日から変えられます。逆に、体重を落とそうとして食べる量を絞ることは避けてください。排卵が止まり、遠回りになります。
自分の基礎体温がどの段階にあるか判断がつかない、というときは一度れいわ漢方薬局にご相談ください。3周期ぶんのグラフをお持ちいただければ、どこから手をつけるべきかをお伝えできます。


