「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)をすすめられたけれど、更年期の薬という説明は無かった」「八味地黄丸(はちみじおうがん)は男性の薬だと聞いたが、女性が飲んでよいのか」。相談の場では、名前が挙がった漢方薬が自分に合っているのかを確かめたい、という入り口の方が最も多くいらっしゃいます。
結論: 更年期に使われる漢方薬は10種類以上あり、効能又は効果の欄に更年期障害と書かれているものと、書かれていないのに現場で使われているものの二群に分かれます。この違いを知らないまま箱の裏を読むと、合っているものを自分で外してしまいます。
れいわ漢方薬局では、更年期の漢方薬えらびは症状の名前ではなく、症状が出ている場所と体力の残り方で決まると考えています。同じほてりでも、上に昇った熱を冷ますのか、足りない潤いを補うのかで選ぶものは正反対になります。
本記事では、更年期に使われる主な漢方薬を一覧で並べ、名前が挙がりやすい半夏厚朴湯・八味地黄丸・六味地黄丸がそれぞれ誰に向くのかを整理します。そのうえで、症状から引く表・飲み合わせの注意・やめどきまでを、相談現場に立つ薬剤師の視点で解説します。
更年期に使われる漢方薬の全体像
結論: 更年期の漢方薬は、熱を冷ます群・気の詰まりを流す群・不足を補う群の三つに分かれます。どの群から入るかを間違えると、飲み続けても手ごたえが出ません。
更年期とはいつからいつまでか
「閉経の前後5年間」を更年期と、日本産科婦人科学会は定義しています。日本人女性の閉経はおよそ50歳前後ですので、45歳から55歳のあたりが該当することになります。
つまり更年期は10年間の幅を持つ時期です。前半と後半では体の状態が違うため、同じ人でも途中で合う漢方薬が入れ替わります。
三つの群に分けて考える
更年期に使う漢方薬は数が多く、名前だけを並べても選べません。相談の場では、まず次の三つのどこに当たるかを見ます。
- 冷ます群: 上半身に熱がこもり、顔だけが赤くなる。桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や知柏地黄丸(ちばくじおうがん)が入る群
- 流す群: 気が詰まって、喉や胸が塞がる。半夏厚朴湯や加味逍遙散(かみしょうようさん)が入る群
- 補う群: そもそも量が足りず、疲れて動けない。八味地黄丸や加味帰脾湯(かみきひとう)が入る群
同じほてりでも、冷ます群と補う群では正反対の手当てになります。熱があるように見えて実は潤いが足りていないだけ、という方が更年期にはかなり多くいらっしゃいます。
更年期に使われる主な漢方薬
| 漢方薬 | 主に向く症状 | 群 |
|---|---|---|
| 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) | 冷え・むくみ・貧血ぎみ | 補う |
| 加味逍遙散 | イライラ・のぼせ・肩こり | 流す |
| 桂枝茯苓丸 | 赤ら顔・強い肩こり・頭痛 | 冷ます |
| 半夏厚朴湯 | 喉のつかえ・動悸・気分の塞ぎ | 流す |
| 八味地黄丸 | 疲れ・腰痛・頻尿・下半身の冷え | 補う |
| 六味丸(ろくみがん) | ほてり・乾燥・耳鳴り | 補う |
| 知柏地黄丸 | 寝汗・夜間のほてり | 冷ます+補う |
| 加味帰脾湯 | 不眠・不安・考えすぎ | 補う |
| 柴胡加竜骨牡蛎湯 | 動悸・驚きやすさ・寝つけない | 流す |
| 苓桂朮甘湯 | 立ちくらみ・ふらつき・動悸 | 流す |
| 温経湯 | 手のひらのほてり・唇の乾き | 補う |
半夏厚朴湯は更年期に使えるのか
結論: 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)の効能又は効果に更年期障害という言葉はありません。それでも更年期に用いられるのは、この時期に増える喉のつかえと動悸に、そのまま当てはまる組み立てだからです。
添付文書に書かれていること
「気分がふさいで、咽喉・食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う次の諸症」。医療用の添付文書には、効能又は効果の冒頭にこう書かれています。
更年期障害という病名は出てきません。書かれているのは症状のほうです。ここが、更年期の薬として説明されないまま出される理由になっています。
喉のつかえは更年期に増える
喉に何か詰まっている感じがするのに、耳鼻咽喉科では異常なしと言われる。この訴えは更年期に入った方から本当によく寄せられます。
漢方では、気の流れが喉のあたりで滞った状態と見ます。梅の種が喉に引っかかっているような感じ、という古い表現がそのまま残っているほど、昔から知られた症状です。
半夏厚朴湯は、この詰まりを流す働きに絞られた組み立てです。熱を冷ます生薬も、血を補う生薬も入っていません。だから喉と胸に症状が集まっている方には的確に届き、ほてりが主な方には物足りない結果になります。
半夏瀉心湯との取り違えに注意
名前が似ているため、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)と混同される方がいらっしゃいます。この二つは働きがまったく違い、半夏瀉心湯は胃腸の症状に使うものです。
薬局で名前を伝えるときは、厚朴(こうぼく)が入っているほうと言い添えると確実です。
向く方・向かない方
対象となるのは、喉や胸の詰まりが主で、緊張すると動悸がする方です。気分が塞ぎがちで、ため息が多いという特徴もよく見られます。
一方、顔のほてりや寝汗が主な方、疲れて起き上がれない方は対象から外れます。流す働きしか持たないため、そもそも量が足りていない体には向きません。
八味地黄丸は更年期の女性が飲んでよいのか
結論: 八味地黄丸(はちみじおうがん)は男性専用の漢方薬ではありません。女性でも、下半身の冷えと疲れ、夜間のトイレが目立つ方には合います。ただし更年期のほてりが強い方には向きません。
男性の薬というイメージがありますが
高齢男性の頻尿に使われる場面が多いため、男性の薬という受け止め方が広まっています。しかし添付文書のどこにも、性別を限定する記載はありません。
「疲れやすくて、四肢が冷えやすく、尿量減少または多尿でときに口渇がある次の諸症」と、医療用の添付文書には効能又は効果が書かれています。当てはまるかどうかは性別ではなく、この状態にあるかどうかで決まります。
更年期のどの場面で使うか
更年期の後半、閉経から数年たったころに出番が来ます。ほてりの波が落ち着いたあと、今度は足腰の重さ・腰痛・夜中に何度も目が覚めるトイレが前に出てくる時期です。
漢方ではこれを腎(じん)の力が落ちた状態と見ます。腎は腎臓そのものではなく、体を根本で支える力を指す言葉です。年齢とともに減っていくものなので、補って支えるという発想になります。
温める働きが裏目に出る場合
八味地黄丸には体を温める生薬が入っています。これが、ほてりの強い時期には裏目に出ます。
飲んでのぼせが強くなった、顔が火照るようになったという反応が出たら、温める生薬を抜いた六味丸へ切り替える判断になります。この入れ替えは相談の場でよく行うもので、失敗ではありません。
六味地黄丸・知柏地黄丸との違い
結論: この三つは同じ土台を共有していて、そこに何を足すかだけが違います。八味地黄丸は温める生薬を足したもの、六味丸は土台そのもの、知柏地黄丸は熱を冷ます生薬を足したものです。
土台は同じで、足すものが違う
六味丸(ろくみがん)は六味地黄丸とも呼ばれ、この系統の土台にあたります。潤いを補って乾きを止める働きが中心です。
ここに温める生薬を2つ足すと八味地黄丸になり、冷ます生薬を2つ足すと知柏地黄丸(ちばくじおうがん)になります。名前は違っても、家系図でいえば親子のような関係です。
どれを選ぶかは、ほてりの有無で決まる
| 状態 | 選ぶもの | 決め手 |
|---|---|---|
| 足腰が冷える・夜間頻尿 | 八味地黄丸 | 温めると楽になる |
| 乾燥・耳鳴り・ほてりは軽い | 六味丸 | 温めても冷やしても大きく変わらない |
| 寝汗・夜のほてりが強い | 知柏地黄丸 | 温めると悪化する |
判断がつかないときは、湯船に浸かったあとに楽になるか、かえってつらくなるかで見ます。この一点で、温める側と冷ます側が分かれます。
更年期の10年間で入れ替わる
前半はほてりが強く、後半は冷えと疲れが前に出る。この移り変わりは多くの方に共通します。
つまり、前半に知柏地黄丸が合っていた方が、数年後には八味地黄丸のほうが合う、ということが起こります。合わなくなったのは薬のせいではなく、体のほうが動いたからです。
同じものを飲み続けて手ごたえが落ちたときは、この入れ替えの時期に来ている可能性があります。
婦人科三大処方の使い分け
結論: 当帰芍薬散・加味逍遙散・桂枝茯苓丸の三つは、効能又は効果に更年期障害が明記されています。更年期の相談で最初に検討されるのはこの三つで、体力と熱の有無で振り分けます。
当帰芍薬散|冷えとむくみが主なとき
体力があまりなく、色白で、足がむくみ、立ちくらみがある方に向きます。血を補いながら余分な水を出す組み立てです。
温める側に寄っているため、ほてりが強い時期に使うと物足りない、あるいは重く感じることがあります。
加味逍遙散|イライラと張りが主なとき
疲れているのに神経だけが昂る、生理前のように胸や下腹が張る、肩がこる。この形には加味逍遙散(かみしょうようさん)が合います。
更年期の相談でもっとも登場回数が多い漢方薬です。気分の波とほてりの両方に届くため、症状が複数またがっている方に向きます。
桂枝茯苓丸|のぼせと肩こりが主なとき
比較的体力があり、顔が赤くなりやすく、肩こりが強い方に向きます。滞った血を動かす働きが中心です。
三つのなかではもっとも力が強い側なので、体力が落ちている方には負担になることがあります。
三つの振り分け
| 見る点 | 当帰芍薬散 | 加味逍遙散 | 桂枝茯苓丸 |
|---|---|---|---|
| 体力 | 少なめ | 中くらい | ある |
| 顔色 | 白い・くすむ | ふつう〜赤い | 赤い |
| 熱の症状 | ほとんど無い | のぼせる | 強くのぼせる |
| 目立つ症状 | むくみ・冷え | イライラ・張り | 肩こり・頭痛 |
| 使う時期 | 更年期の後半にも | 全期間 | 前半に多い |
心の症状が前に出るときの漢方薬
結論: 眠れない、不安が消えない、動悸がする。心の症状が主なときは、補う側の加味帰脾湯と、鎮める側の柴胡加竜骨牡蛎湯で分かれます。決め手は体力の残り方です。
加味帰脾湯|考えすぎて眠れないとき
胃腸が弱く、疲れやすく、心配ごとを頭の中で繰り返してしまう方に向きます。加味帰脾湯(かみきひとう)は、消化の働きを助けながら血を補う組み立てです。
夜中に何度も目が覚める、朝までに何度も時計を見てしまうという不眠に合います。眠らせる薬ではなく、眠れる状態まで底上げする薬だと考えてください。
柴胡加竜骨牡蛎湯|動悸と驚きやすさがあるとき
体力があるほうで、物音に敏感になり、動悸がして寝つけない方に向きます。柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は鎮める力が強い組み立てです。
同じ不眠でも、疲れ切って眠れないのか、昂って眠れないのかで選ぶものが逆になります。
心の症状だけで判断しない
不眠や不安が続いているとき、甲状腺の機能や貧血が背景にあることがあります。漢方薬を試す前に、一度は血液検査を受けておくほうが確実です。
数値に異常がないと分かってから漢方薬に移ると、迷いなく続けられます。
めまい・ふらつきが主なときの漢方薬
結論: 立ち上がったときのふらつきや、ふわふわしためまいが主なときは、苓桂朮甘湯が最初の選択肢になります。水のかたよりを整える組み立てで、更年期のめまいによく合います。
苓桂朮甘湯|立ちくらみとふらつき
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)は、立ち上がった瞬間にくらっとする、乗り物に酔いやすい、動悸を伴うといった状態に向きます。
体の中の水が上のほうへ偏っている状態を整えるという考え方です。たとえるなら、傾いたコップの中身を水平に戻すような働きになります。
回転するめまいは受診が先
天井が回るような激しいめまいや、片側の耳が聞こえにくくなるめまいは、耳の病気が背景にあることがあります。この形は漢方薬で様子を見る対象外です。
ふわふわ揺れる感じか、ぐるぐる回る感じか。この違いだけで、先に医療機関へ行くかどうかが決まります。
温経湯|手のひらのほてりと乾き
夜になると手のひらが熱くなる、唇や口の中が乾く、髪や肌のパサつきが気になる。この形には温経湯(うんけいとう)が合います。
補いながら少しだけ温める組み立てで、更年期の後半に出番が来ることが多い漢方薬です。
防風通聖散は更年期の体重増加に使えるのか
結論: 防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)は、便秘があってお腹まわりに脂肪がついた方向けの漢方薬です。更年期の体重増加すべてに当てはまるものではなく、体力が落ちている方が使うと下痢で消耗します。
対象となるのは体力がある方
添付文書の対象は、腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちな方です。体力が充実していることが前提になっています。
更年期に体重が増える方の多くは、代謝が落ちて筋肉が減った結果としての増加です。この場合、出す働きの強い漢方薬を使っても、疲れが増えるだけで体重は動きません。
更年期太りに向き合う順番
体重を落とす漢方薬を探す前に、まず眠れているか、たんぱく質が足りているかを確かめます。睡眠が5時間台まで落ちている状態では、どの漢方薬を使っても結果は出ません。
順番としては、睡眠と食事を整える、次に体質に合う漢方薬で土台を戻す、体重はその結果として動く、という並びになります。
症状から引く|どの漢方薬を選ぶか
結論: 名前から選ぶより、いま一番つらい症状から引くほうが早く当たります。複数当てはまるときは、日常が止まる症状を優先します。
症状別の対応表
| いま一番つらい症状 | 最初に検討するもの | 次の候補 |
|---|---|---|
| 顔がほてる・急に汗が出る | 加味逍遙散 | 桂枝茯苓丸 |
| 夜の寝汗・夜だけほてる | 知柏地黄丸 | 温経湯 |
| 喉のつかえ・胸の詰まり | 半夏厚朴湯 | 加味逍遙散 |
| イライラ・怒りっぽい | 加味逍遙散 | 柴胡加竜骨牡蛎湯 |
| 眠れない(疲れて眠れない) | 加味帰脾湯 | 温経湯 |
| 眠れない(昂って眠れない) | 柴胡加竜骨牡蛎湯 | 加味逍遙散 |
| 立ちくらみ・ふらつき | 苓桂朮甘湯 | 当帰芍薬散 |
| 腰痛・足腰の重さ・夜間頻尿 | 八味地黄丸 | 六味丸 |
| 乾燥・耳鳴り | 六味丸 | 温経湯 |
| むくみ・冷え | 当帰芍薬散 | 八味地黄丸 |
複数当てはまるときの決め方
更年期の症状は重なるのが普通です。全部に当てはまると感じたら、日常が止まるものを一つだけ選びます。
仕事が手につかないのはどれか、夜眠れなくなるのはどれか。この基準で一つに絞ると、迷いが消えます。残りの症状は、選んだ漢方薬が効いてくる過程で一緒に動くことがよくあります。
当てはまるものが無いとき
どれにも当てはまらない、あるいはどれを飲んでも変わらないという場合は、更年期以外の原因が隠れていることがあります。甲状腺の機能、貧血、睡眠時無呼吸の三つは特に見落とされやすいものです。
女性ホルモンを増やす漢方薬はあるのか
結論: 女性ホルモンそのものを増やす漢方薬はありません。漢方薬が担うのは、ホルモンが減った状態でも揺れにくい体を作ることです。ここを取り違えると、期待の置きどころがずれます。
ホルモンを補うのと、揺れを抑えるのは別
ホルモン補充療法は、減ったエストロゲンを直接補います。効き方が速く、ほてりには特に確実です。
漢方薬はこの経路を持ちません。代わりに、自律神経の過敏さを抑え、血のめぐりと水の配分を整えることで、ホルモンが減った状態に体を慣らしていきます。
坂道を平らにするのが補充療法だとすれば、漢方薬は坂道を登れる脚を作るほうに近い。目指すところは同じでも、道筋がまったく違います。
大豆イソフラボンとの関係
大豆イソフラボンがエストロゲンに似た働きをすることは知られていますが、これは食品の話で、漢方薬とは別の枠組みです。
食品安全委員会は、大豆イソフラボンの安全な一日摂取目安量の上限値を示しています。サプリメントで上乗せする場合は、この目安を超えないよう注意が要ります。食事から摂るぶんには、通常の量で問題になることはありません。
期待の置きどころ
漢方薬に女性ホルモンを増やす働きを期待すると、必ず物足りなくなります。逆に、揺れを小さくするものだと分かって飲み始めた方は、変化に気づきやすい。
同じ薬でも、何を測るかで手ごたえが変わります。ほてりの回数ではなく、ほてったあとに立て直せるまでの時間を見ると、変化が拾えます。
更年期に漢方薬が向く理由
結論: 更年期の不調は複数が同時に、しかも日替わりで出ます。ひとつの原因に一剤という組み立てでは追いつかない場面で、複数の生薬を組み合わせた漢方薬が働きます。
検査で異常が出ない不調に届く
血液検査で異常なしと言われても、本人がつらいことは珍しくありません。漢方は本人の自覚症状、舌の状態、お腹の張り具合といった別の物差しを使うため、数値に出ない状態にも対応できます。
「異常が無いと言われて、行き場を失った」というご相談は本当に多くいただきます。異常が無いことと、つらくないことは別のことです。
症状がまたがっていても一剤で足りる
冷えるのに顔だけのぼせる、イライラして頭痛もする。西洋薬ではそれぞれに薬が要りますが、漢方薬はこれらを一つの偏りの結果と見ます。
偏りを戻せば、随伴していた症状はまとめて動きます。飲む薬の数が減るのは、更年期の方にとって実際的な利点です。
西洋医学との役割分担
漢方薬が向くのは、日替わりで揺れる不調、検査に出ない不調、複数がまたがる不調です。一方、骨密度の低下や、強いほてりを速く抑えたい場面では、医療機関の治療のほうが確実です。
どちらが上ということではなく、担当する場面が違います。
ホルモン補充療法との併用
結論: 併用に問題はなく、実際に多くの方が両方を使っています。補充療法でほてりを抑えつつ、漢方薬で気分と冷えを整えるという役割分担が現実的です。
併用が向く場面
ほてりは補充療法でほぼ収まったのに、イライラと不眠だけが残る。この形はよくあります。残ったところに漢方薬を当てると、全体が揃います。
逆に、補充療法を受けられない事情がある方にとっては、漢方薬が主軸になります。
医療機関へ伝えておくこと
併用するときは、飲んでいる漢方薬の名前を医療機関へ伝えます。伝えないままでいると、体調が動いたときにどちらの影響か分からなくなります。
伝えるのは商品名ではなく漢方薬の名前です。市販薬の場合は箱を持参するのがいちばん確実になります。
減らしていく順番
両方が効いている状態から減らすときは、片方ずつにします。同時に減らすと、どちらを戻せばよいか分からなくなるためです。
効果が出るまでの期間と続け方
結論: 気分とほてりは14日ほどで動きます。冷えや疲れやすさといった土台の部分は90日を目安に見ます。この二段構えを知らないと、途中でやめてしまいます。
14日で見るもの
ほてりの回数、寝つきまでの時間、イライラの引きずり方。この三つは比較的早く動きます。
14日たっても何ひとつ変わらない場合は、選んだものが合っていないか、量が足りていないかのどちらかです。
90日で見るもの
足の冷え、朝の起きづらさ、疲れの抜け方。これらは土台に近い部分なので、90日ほどかかります。
90日を過ぎても何も動かないなら、それ以上同じものを続けても結果は変わりません。切り替えの判断をする時期になります。
飲む時刻と温度
食前または食間に、熱い白湯(さゆ)に溶かして飲むのが基本です。香りの成分が働きの一部を担う漢方薬では、この差が体感に出ます。
胃が弱い方は食後でも構いません。続けられることのほうが優先されます。
市販薬と漢方薬局で何が違うのか
結論: 違いは生薬の質より、1日に飲む量と、体質に合わせて選べるかどうかの二点です。効かないと感じたときは、まず量を確かめるのが先になります。
1日量が半分の製品がある
市販薬には、医療用の2分の1量に抑えた製品があります。同じ名前で棚に並んでいるため、価格だけで選ぶと量の少ないほうを手に取ることになりかねません。
効かないというお声をいただいたとき、最初に確かめるのがこの点です。薬が合っていないのではなく、届いていないだけということが実際にあります。
体質で選べるかどうか
市販薬は多くの方に当てはまるよう幅を持たせてあります。裏を返せば、自分の体質にぴったり当たる確率は下がります。
漢方相談では、舌の状態やお腹の張り、脈を見たうえで絞り込みます。同じ更年期障害という訴えでも、選ぶものが人によって変わるのはこのためです。
煎じ薬という選択肢
エキス剤は煎じた液から水分を飛ばして粉にしたもので、この工程で香りの成分が一定量失われます。香りが働きの一部を担う漢方薬では、この差が出ます。
手間はかかりますが、エキス剤で手ごたえがあってさらに引き上げたい段階では、煎じ薬に移る価値があります。
飲み合わせと副作用で注意すること
結論: もっとも多いのは甘草(かんぞう)の重複です。複数の漢方薬を併用すると合計量が増え、むくみや血圧の上昇として出ることがあります。
甘草が重なっていないか
甘草は多くの漢方薬に含まれています。二種類を併用すると、知らないうちに量が倍近くになることがあります。
手足のだるさ、力が入りにくい、顔がむくむ。この三つが出たら、いったん中止して相談してください。医療用の添付文書には、重大な副作用として偽アルドステロン症とミオパチーが記載されています。
山梔子を長く飲む場合
加味逍遙散などに含まれる山梔子(さんしし)は、年単位で飲み続けた場合に腸間膜静脈硬化症があらわれることが知られています。腹痛や下痢が続かないかを見ながら、定期的に医療機関で確認を受けるのが安全です。
胃腸に出るとき
飲み始めに胃が重くなることがあります。これは合っていないという意味とは限らず、食後に移す、量を減らすといった調整で収まることが多いものです。
一方、発疹が出た場合や、胃の重さが1週間たっても引かない場合は、続けずに相談してください。
医療機関の薬との併用
高血圧、糖尿病、甲状腺の薬を飲んでいる方は、併用の可否を確かめてから始めます。あわせて、飲んでいる薬の一覧を持参していただくと判断が早くなります。
いつまで飲むか・やめどき
結論: 症状が落ち着いてから、さらに1か月から2か月続けたところがやめどきです。落ち着いた時点でやめると戻りやすく、土台が変わりきっていないことが多いためです。
減らし方の順番
いきなり止めず、1日3回を2回に減らして2週間ほど様子を見ます。ここで戻らなければ1回に減らし、さらに2週間見る。
この階段を降りるやり方だと、戻ったときにひとつ上へ戻すだけで済みます。
更年期を過ぎたあとの続け方
更年期が終わったあとも、補う側の漢方薬を続ける方は多くいらっしゃいます。目的が改善から維持へ変わるだけで、飲む理由が無くなるわけではありません。
骨や関節、髪や耳の状態は、この時期の過ごし方が後々に影響します。
季節の変わり目だけ戻す使い方
一度やめたあと、季節の変わり目や忙しい時期だけ戻すという使い方もできます。この形で長く付き合っている方が実際にいらっしゃいます。
食事と生活で支える
結論: 漢方薬だけで押し切るより、睡眠とたんぱく質を整えたほうが結果が早く出ます。特に睡眠は、どの漢方薬を選ぶかより影響が大きい要素です。
睡眠を削らない
睡眠が5時間台まで落ちると、どの漢方薬を飲んでも手ごたえが落ちます。血を作る働きは夜に進むためです。
就寝の90分前に、40度ほどのぬるめの湯に浸かる。深部体温がいったん上がってから下がるときに眠りに入りやすくなります。
冷たいものを減らす
冷たい飲み物が続くと、胃腸の働きが落ちて薬の吸収そのものが下がります。常温か温かいものへ寄せるだけで違いが出ます。
朝の光とリズム
自律神経を整えるうえで、朝の決まった時刻に光を浴びることは効果が大きい習慣です。15分ほどの散歩でも構いません。
よくある質問
Q. 半夏厚朴湯は更年期障害の薬ではないのですか?
A. 効能又は効果に更年期障害という言葉はありませんが、更年期に増える喉のつかえと動悸には合います。 書かれていないことと、使われていないことは別です。症状が喉と胸に集まっている方であれば、更年期でも選択肢になります。
Q. 八味地黄丸は女性が飲んでも大丈夫ですか?
A. 性別の制限はありません。 下半身の冷えと疲れ、夜間のトイレが目立つ方に向きます。ただし、ほてりが強い時期に飲むとのぼせが増すことがありますので、その場合は六味丸へ切り替えます。
Q. 六味地黄丸と六味丸は違うものですか?
A. 同じものを指す呼び方の違いです。 この系統の土台にあたる漢方薬で、ここに温める生薬を足すと八味地黄丸、冷ます生薬を足すと知柏地黄丸になります。
Q. 複数の漢方薬を一緒に飲んでもよいですか?
A. 甘草が重ならないかを確かめたうえでなら可能です。 多くの漢方薬に甘草が入っているため、併用すると合計量が増えます。むくみや血圧の上昇として出ることがありますので、成分を確認してから決めます。
Q. 効果が出るまでどのくらいかかりますか?
A. ほてりや気分は14日、冷えや疲れやすさは90日が目安です。 早く動くものと遅れて動くものがあるため、14日で何も変わらない場合と、90日で変わらない場合では判断が違います。
Q. ホルモン補充療法と一緒に飲めますか?
A. 併用できます。 補充療法でほてりを抑え、残ったイライラや冷えを漢方薬で整えるという役割分担が現実的です。飲んでいる漢方薬の名前は、医療機関へ伝えておいてください。
Q. 更年期が終わってもまだ飲む意味はありますか?
A. 補う側の漢方薬は、更年期のあとも続ける価値があります。 目的が症状の改善から体調の維持に変わるだけです。骨や関節、髪の状態はこの時期の過ごし方が後に影響します。
まとめ|書かれていない薬にも出番がある
更年期の漢方薬えらびで迷う原因の多くは、箱に更年期障害と書かれているかどうかで判断してしまうことにあります。書かれていない半夏厚朴湯や八味地黄丸にも、はっきりした出番があります。
- 三つの群: 冷ます・流す・補う。どの群から入るかで結果が変わる
- 半夏厚朴湯: 喉のつかえと動悸が主なとき。ほてりが主な方には向かない
- 八味地黄丸: 男性専用ではない。下半身の冷えと夜間頻尿が目立つとき
- 地黄丸の三兄弟: 土台は同じ。温めるなら八味、そのままなら六味、冷ますなら知柏
- 三大処方: 冷えは当帰芍薬散、イライラは加味逍遙散、のぼせは桂枝茯苓丸
- 判断の目安: ほてりや気分は14日、冷えや疲れは90日
- 注意点: 甘草の重複と、山梔子の長期服用
- やめどき: 落ち着いてから1か月から2か月。階段を降りるように減らす
最後にひとつ。更年期は10年間の幅を持つ時期なので、途中で合うものが入れ替わるのが普通です。効かなくなったのではなく、体のほうが次の段階へ動いたと受け取るほうが、判断を誤りません。
れいわ漢方薬局では半夏厚朴湯や八味地黄丸の煎じ薬もご用意しています。すすめられた漢方薬の名前と、いま一番つらい症状をお持ちいただければ、合っているかどうかを一緒に確かめます。


