「ドラッグストアで買った漢方薬が効かなかったのに、病院で同じ名前のものをもらったら効いた」というお話を、れいわ漢方薬局ではよく伺います。気のせいではなく、実際に中身が違うことがあります。
いちばん大きな違いは、生薬の配合量です。市販の漢方薬には、医療用と同じ量が入った満量処方のものと、2分の1量や3分の2量に減らしたものがあります。パッケージに書いてあるのですが、意識して見ている方は多くありません。
そのうえで、費用の負担、選べる処方の種類、診断を受けられるかどうかにも差があります。この記事では、その違いをひとつずつ整理して、どちらを選べばよいかの判断材料をお伝えします。
違いは3つに集約される
結論: 生薬の配合量、費用の負担、診断を受けられるかどうか。この3つが実質的な違いです。処方の名前が同じでも、中身が同じとは限りません。
生薬の量が違うことがある
同じ「葛根湯(かっこんとう)」という名前でも、1日分に含まれる生薬の量は製品によって違います。医療用と同じ量が入っているものもあれば、その2分の1しか入っていないものもあります。
量が少ないのは決まりに反しているわけではありません。いわば、同じレシピで作った料理を、大盛りにするか小盛りにするかの違いです。市販薬は、医師の診断なしに買えるという前提があるため、安全側に振った量で作られている製品があるという事情です。
したがって、「市販薬は効かない」というのは正確ではありません。量が少ない製品を選んだ場合に効きが弱くなる、というのが実態に近い表現になります。
費用の負担が違う
医療機関で処方される漢方薬は保険が適用されるため、自己負担は原則3割です。1か月分で1,000〜2,000円程度に収まることが多くなります。
市販薬は全額自己負担です。同じ処方でも、1か月分で3,000〜9,000円ほどかかります。長く続けるほど、この差は大きくなります。
いっぽう、市販薬には受診の手間と診察料がかからないという利点があります。1〜2週間だけ試したいという場面では、こちらのほうが総額で安く済むこともあります。
診断を受けられるかどうか
最も大きな違いは、実はここかもしれません。医療機関では、症状を伝えて診察を受けたうえで処方が決まります。
漢方薬は、同じ症状でも体質によって選ぶものが変わります。冷えているのか熱がこもっているのか、体力が余っているのか足りていないのか。この見極めを自分でするのは、慣れていないと難しいものです。
市販薬を自己判断で選んで効かなかったという方の多くは、量ではなく選択そのものが体質と合っていません。ここは金額では埋められない差になります。
生薬の量の違いを見分ける
結論: パッケージの「満量処方」という表示と、成分表の分量を見ます。医療用の量を100%として、何割入っているかが判断の材料になります。
満量処方という表示
満量処方とは、日本薬局方などで定められた基準量を全量配合しているという意味です。医療用と同じ量が入っていることを示します。
近年はこの表示を前面に出す製品が増えました。効き目を求めて選ぶ方が増えたためです。パッケージの目立つところに書かれていることが多いので、確認しやすくなっています。
逆に、この表示がない製品は、減らした量である可能性があります。書いていないから必ず少ないというわけではありませんが、確認する価値はあります。
2分の1量・3分の2量の製品
成分表に「本品○包中、葛根湯エキス○mg(葛根○g、麻黄○gより抽出)」といった記載があります。この生薬の量を、医療用の基準量と比べれば分かります。
すべて覚えておく必要はありません。パッケージに「1/2量」「2/3量」と書かれている製品も多く、そこを見れば済みます。
量が少ない製品にも用途はあります。子どもや高齢の方、体力が落ちている方には、そのほうが合うことがあります。少ないから劣っているという単純な話ではありません。
効きが弱いと感じる理由
市販薬を試して効かなかったという場合、考えられる理由は3つあります。量が少なかった、選んだ処方が体質と合っていなかった、飲む期間が足りなかった。
量の問題であれば、満量処方の製品に変えることで解決します。ここが最も簡単に確かめられる部分です。
いっぽう、満量処方に変えても変わらなければ、選択そのものを見直す段階になります。この場合、量を増やしても方向が違えば届きません。
費用はどのくらい違うか
結論: 保険が使える医療用は1か月1,000〜2,000円程度、市販薬は3,000〜9,000円程度が目安です。ただし受診の手間と診察料も勘定に入れる必要があります。
目安の一覧
実際の金額は処方や製品によって幅がありますが、おおよその目安は次のようになります。同じ処方でも、どこで手に入れるかで負担が3倍以上変わるという点は、意外と知られていません。
費用の話をすると露骨に感じられるかもしれませんが、続けられるかどうかは効き方と同じくらい結果を左右します。3か月続けるつもりなら、最初に計算しておく価値があります。
| 1か月の費用 | 追加でかかるもの | |
|---|---|---|
| 医療機関(保険) | 1,000〜2,000円 | 診察料・通院の時間 |
| 市販薬(満量処方) | 4,000〜9,000円 | なし |
| 市販薬(減量タイプ) | 3,000〜5,000円 | なし |
| 漢方薬局(煎じ薬) | 15,000〜30,000円 | 相談料が含まれる場合が多い |
短期間だけ試すなら市販薬、長く続けるなら医療機関という判断が、費用の面からは合理的です。
長く続けるなら差が大きくなる
体質を変えることを目的とする場合、3か月から半年は続けることになります。この期間で計算すると、差は数万円に達します。
そのため、続けることが決まっている方には、医療機関で処方してもらう形をおすすめしています。同じものを安く続けられるなら、そちらのほうが合理的です。
ただし、通院の時間も費用のうちです。仕事を休んで受診する必要があるなら、その分を含めて考える必要があります。
選べる処方の種類が違う
結論: 医療用として保険が使えるのは148処方です。市販薬にはそれ以外の処方もありますが、店頭で手に入るものは限られます。
医療用は148処方
保険が適用される漢方製剤は、148の処方に限られています。よく使われるものはほぼ含まれていますが、古典に載っているすべての処方が使えるわけではありません。
このなかから、医師が診断に基づいて選びます。ツムラ、クラシエ、コタローといった製薬会社が製造していますが、同じ処方名なら中身はほぼ同じです。
保険で使えない処方が必要な場合、自費での購入か、漢方薬局での相談という選択肢になります。
市販にしかないもの
市販の一般用漢方製剤として承認されている処方は、医療用より数が多くなっています。ただし、実際に店頭に並んでいるのは需要の多いものに限られます。
そのため、「市販のほうが種類が多い」という理屈上の話と、「探しても見つからない」という実感が両立します。ネット通販を使えば選択肢は広がりますが、自分で選ぶ難しさは残ります。
れいわ漢方薬局のような漢方専門の薬局では、生薬から調合する煎じ薬を扱っています。この形なら、決まった処方にとらわれず、体質に合わせて生薬の組み合わせと量を調整できます。
病院で漢方薬をもらうには
結論: 内科・婦人科・皮膚科など、通常の診療科で処方してもらえます。漢方専門でなくても、多くの医師が扱っています。
何科に行けばよいか
症状に応じた診療科で構いません。生理痛なら婦人科、胃の不調なら内科、肌の悩みなら皮膚科です。漢方薬を扱う医師は幅広く、専門外来を探す必要はありません。
医療機関のホームページに「漢方治療」と記載があれば、より詳しい対応が期待できます。ただし記載がなくても、処方してもらえることは多くあります。
漢方専門の外来は数が限られ、予約が取りにくいこともあります。まずは近くの診療科で相談してみるほうが、始めるまでが早くなります。
伝え方のこつ
診察のときに「漢方薬を試したい」とはっきり伝えてください。伝えなければ、通常の西洋薬が処方されます。
そのうえで、症状だけでなく体質にかかわる情報も伝えると精度が上がります。冷えやすいか暑がりか、疲れやすいか、便秘か下痢か、寝つきはどうか、生理の状態。これらは処方を決める材料になります。
すでに市販の漢方薬を試している場合は、何をどのくらい飲んで、どうだったかを伝えてください。効かなかったという情報も、次の選択の手がかりになります。
市販薬が向く場面と、そうでない場面
結論: 症状がはっきりしていて短期間なら市販薬、体質を変えたい・複数の症状があるなら医療機関や漢方薬局が向きます。
市販薬が向く場面
風邪のひき始めに葛根湯、こむら返りに芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)、乗り物酔いに五苓散(ごれいさん)。こうした症状がはっきりしていて、短期間だけ使う場面では市販薬が向きます。
必要なときにすぐ買えるという速さは、大きな利点です。風邪のひき始めは半日の差が効き方を変えるので、受診を待つより手元にあるほうが有利になります。あわせて、休日や夜間に体調を崩す場面も想定しておくと、常備の意味が出てきます。
家に常備しておく、という使い方をされている方も多くいらっしゃいます。この用途なら、迷わず市販薬で構いません。
医療機関・漢方薬局が向く場面
体質を変えたい、症状が複数ある、何か月も続けるつもり、市販薬を試して効かなかった。こうした場合は、専門家に見てもらうほうが確実です。
漢方薬の難しさは、症状の名前ではなく体の状態で選ぶという点にあります。同じ生理痛でも、冷えているのか滞っているのかで正反対のものを使います。この見極めは、自分ではなかなかできません。
れいわ漢方薬局でも、市販薬を何種類も試したものの効かなかったという方が多くみえます。伺うと、選んだものが体質と逆向きだったという例が少なくありません。
併用と飲み合わせで気をつけること
結論: 漢方薬同士を重ねるときは、甘草の合計量に注意が要ります。市販薬と処方薬を両方飲んでいる方は、この確認が抜けがちです。
甘草が重なりやすい
甘草は、日本で使われる漢方薬の7割前後に含まれるとされる生薬です。それだけ幅広く入っているため、2種類飲むだけで合計が増えます。
1日2.5gを超えると、むくみ・血圧上昇・だるさ・手足に力が入りにくいといった症状が出る偽アルドステロン症の注意域に入ります。芍薬甘草湯には6g、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)には2.5g、加味逍遙散には1.5gが含まれます。
条件を満たすかどうかは、成分表を見れば確認できます。市販薬と処方薬を併せて飲んでいる場合は、両方の甘草を足してみてください。
市販薬を飲んでいることを伝える
医療機関では、処方する側は市販薬の内容を知りません。伝えなければ、重複していても気づかれないという構造です。
お薬手帳に、市販で買った漢方薬も書いておくという方法があります。薬剤師に伝えれば、その場で書き足してもらえます。
れいわ漢方薬局でも、初回の相談で市販薬を含めて何を飲んでいるかを必ず伺います。ここが分からないと、足す前に引くべきものがあるかどうかを判断できないためです。
西洋薬との併用
漢方薬と西洋薬のあいだで、はっきりした併用禁忌とされる組み合わせはごく限られます。日常的に使う範囲では、ほとんど気にする必要はありません。
例外として、甘草を含む漢方薬と、利尿薬や一部の血圧の薬を併用すると、カリウムが下がりやすくなります。また、麻黄を含む漢方薬と、一部の気管支拡張薬や抗うつ薬の組み合わせにも注意が要ります。
いずれも、飲んでいる薬を医師や薬剤師に伝えていれば確認してもらえる範囲です。自己判断で重ねる前に、一度確かめておくほうが確実です。
なぜ粉の形が多いのか
結論: 煎じた液を乾燥させてエキスにしているためです。持ち運びやすさと保存性を優先した形で、錠剤やカプセルの製品もあります。
エキス剤の作り方
もともと漢方薬は、生薬を水で煮出して飲むものでした。この煮出した液から水分を飛ばし、粉末にしたものがエキス剤です。
粉のままだと扱いにくいため、デンプンや乳糖といった賦形剤を加えて顆粒にしています。パッケージを開けたときの量が生薬そのものの量ではないのは、この賦形剤が含まれるためです。
インスタントコーヒーと同じ考え方だと説明すると、伝わりやすいかもしれません。淹れたコーヒーを乾燥させて、お湯で戻せる形にしたものと構造が似ています。
錠剤やカプセルもある
粉が苦手という方のために、錠剤やカプセルにした製品もあります。市販薬では、この形のほうが多い処方もあります。
ただし、錠剤にすると1回に飲む数が増えることがあります。同じ量の生薬を固めるには、それなりの体積が要るためです。1回6錠といった製品も珍しくありません。
味と香りも漢方薬の働きの一部だという考え方があり、その立場からは粉のほうが本来の形に近いとされます。ただし、飲み続けられることのほうが優先されるので、続けやすい形を選んでいただいて差し支えありません。
煎じ薬という選択肢
結論: 生薬をその場で煮出して飲む形です。手間はかかりますが、体質に合わせて生薬の種類と量を調整できるという自由度があります。
エキス剤との違い
エキス剤は、決まった処方を決まった配合で製造したものです。既製品なので、個人に合わせた調整はできません。
煎じ薬は、生薬を1つずつ量って組み合わせます。基本の処方を土台にして、この人には温める生薬を足す、この人には量を減らす、といった調整ができます。
香りの成分は熱で飛びやすいため、その場で煮出す煎じ薬のほうが残ります。効き方に差を感じるという方が多いのは、この点も関係していると考えられます。
手間と費用をどう見るか
煎じ薬は、毎日20〜30分ほど火にかける必要があります。まとめて煎じて冷蔵し、飲む分だけ温め直すという運用にすれば、この手間は週1〜2回にまとめられます。
費用はエキス剤より高くなり、1か月で15,000〜30,000円程度が目安です。ただし相談料が含まれていることが多く、体質を見てもらったうえでの金額だと考えると、見え方が変わります。
エキス剤で3か月試して手応えがなかった方が、煎じ薬に切り替えて変化を感じるという例があります。次の一手として知っておいていただくと、選択肢が広がります。
改善症例
30代前半|市販薬を3種類試して効かなかった方
生理痛と冷えに悩み、ドラッグストアで当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)を順に試したものの、どれも効かなかったという方です。漢方薬は自分に合わないのだと結論づけていらっしゃいました。同じようなご相談は、市販薬が身近になった分だけ増えている印象があります。
伺うと、それぞれ2週間ずつしか続けていらっしゃいませんでした。生理痛への効果は最低2周期は見る必要があるため、判断する前に次へ移っていたことになります。加えて、選んだ製品はいずれも2分の1量のタイプでした。満量処方の当帰芍薬散を2周期続けていただいたところ、3周期めに鎮痛剤の回数が半分に減っています。合わなかったのではなく、量と期間の両方が足りていませんでした。
40代前半|費用を理由に迷っていた方
更年期の症状に市販の漢方薬を使っていたものの、月に7,000円の負担が続くことに迷いを感じていらっしゃった方です。半年は続けたいが、その金額は厳しいとのことでした。
同じ処方が保険で処方できることをお伝えし、婦人科での相談をおすすめしました。診察の際には、これまで飲んでいた製品と、どの症状がどう変わったかを伝えていただいています。結果として月2,000円ほどに収まり、半年続けられる見通しが立ちました。長く続ける前提なら、費用の構造を先に確認しておく価値があるという例です。
よくある質問
Q. 市販の漢方薬と病院の漢方薬は同じものですか?
処方名が同じでも、生薬の配合量が違うことがあります。市販薬には、医療用と同じ量の満量処方のものと、2分の1量や3分の2量に減らしたものがあります。パッケージの表示で確認できます。加えて、費用の負担と、診断を受けられるかどうかにも差があります。
Q. 市販薬が効かないのはなぜですか?
考えられる理由は3つあります。生薬の量が少なかった、選んだ処方が体質と合っていなかった、飲む期間が足りなかった。まず満量処方の製品に変えて確かめ、それでも変わらなければ選択そのものを見直す段階になります。
Q. 病院で漢方薬をもらうには何科に行けばよいですか?
症状に応じた通常の診療科で構いません。生理痛なら婦人科、胃の不調なら内科、肌なら皮膚科です。漢方専門の外来を探す必要はありません。ただし診察のときに「漢方薬を試したい」とはっきり伝えてください。
Q. 漢方薬はなぜ粉の形が多いのですか?
煮出した液を乾燥させてエキスにしているためです。持ち運びやすさと保存性を優先した形になります。粉が苦手な方のために錠剤やカプセルの製品もありますが、1回に飲む数が増えることがあります。
Q. 保険で使える漢方薬はどのくらいありますか?
148の処方が保険適用の対象になっています。よく使われるものはほぼ含まれていますが、古典に載っているすべてが使えるわけではありません。それ以外が必要な場合は、自費での購入か漢方薬局での相談という選択肢になります。
まとめ:まず量を確かめ、次に選択を疑う
市販の漢方薬と病院の漢方薬の違いは、生薬の配合量、費用の負担、診断を受けられるかどうかの3つに集約されます。処方名が同じでも中身が同じとは限らない、という点が出発点です。
市販薬が効かなかったという場合、まずパッケージで満量処方かどうかを確かめてください。2分の1量の製品だったなら、そこが理由の可能性があります。
満量処方に変えても変わらなければ、選んだ処方そのものが体質と合っていないと考えます。ここは量では埋められない部分なので、専門家に見てもらうほうが早く答えにたどり着きます。れいわ漢方薬局では、これまで試した製品と経過を伺ったうえで、方向が合っていたかどうかから整理しています。
メタディスクリプション: 市販の漢方薬と病院の漢方薬は、生薬の配合量・費用・診断の有無が違います。同じ処方名でも2分の1量の製品があり、満量処方の表示で見分けられます。効かないときに何を確かめるかを薬剤師が解説します。


