「飲んだその日にスッと落ち着くものだと思っていた」「家族に当たってしまう前に、間に合ってほしい」。イライラで漢方薬を探す方の相談は、たいてい速さの話から始まります。
結論: 加味逍遙散(かみしょうようさん)が扱う不調のなかで、イライラは比較的早く動くほうです。ただし1回飲んで別人のように変わる薬ではなく、多くの方が変化に気づくのは飲み始めて1週間から14日あたりになります。
れいわ漢方薬局では、速さを決めているのは薬の強さではなく、体に熱のサインが出ているかどうかと、飲み方の二つだと考えています。同じ製品を同じ量だけ飲んでいても、体感の出方は人によって変わります。
本記事では、どのくらいで動くのか、早く感じる人は何が違うのか、体感を引き上げる飲み方、そして効かないときにどこを見直すかを、相談現場に立つ薬剤師の視点で整理します。
加味逍遙散にイライラへの即効性はあるのか
結論: 即効性という言葉が指すものを、飲んだ直後の変化と、数日単位で積み上がる変化に分けて考える必要があります。加味逍遙散は前者を狙う薬ではありませんが、イライラは後者のなかでは最も早く動く症状のひとつです。
即効性という言葉が二つの意味で使われている
相談の場では、即効性という一語が二通りに使われています。ひとつは飲んで30分から1時間で気持ちが変わること、もうひとつは数日から2週間で以前と違う自分に気づくこと。前者を期待して来られた方に後者の説明をすると、たいていは驚かれます。
漢方薬はどれもゆっくり効くものだと思われがちですが、これも正確ではありません。風邪の初期に使う漢方薬は数十分で汗を出させますし、こむら返りに使うものは5分ほどで筋肉がゆるみます。速さは薬ごとに違うのです。
加味逍遙散は、そのどちらでもありません。日々の気分の振れ幅を、少しずつ狭くしていく側の薬です。
イライラは変化に気づきやすい症状
同じ加味逍遙散でも、症状ごとに体感が出る早さは違います。相談を重ねてきた実感では、早い順にイライラや不眠、次にのぼせや発汗、最後に月経の乱れという並びになることがほとんどです。
イライラが早いのは、本人が毎日その変化を測っているからでもあります。月経は1か月に1回しか答え合わせができませんが、気分は毎日確かめられる。だから最初の変化として気づかれやすいのです。
抗不安薬とは働き方の道筋が違う
医療機関で出される抗不安薬は、脳の興奮を直接抑えることで飲んだ直後から効きます。加味逍遙散は、気の流れの滞りと、そこで生じた熱を整えることを通じて、結果として気分が落ち着く道筋をとります。
回り道に見えますが、この違いが眠気の出にくさや、やめるときの負担の軽さにつながります。急ぎたいときは医療機関の薬、日常の振れ幅を狭めたいときは漢方薬、という使い分けが現実的です。
早く効く人と時間がかかる人は何が違うのか
結論: 分かれ目は、体に熱のサインがはっきり出ているかどうかです。顔のほてり・のぼせ・寝つきの悪さが揃っている方ほど早く動き、冷えだけが強い方は時間がかかるか、そもそも合っていないことがあります。
熱のサインが揃っているほど早い
加味逍遙散は、体の上のほうに昇った熱を冷ましながら流れを整える組み立てです。冷ますべき熱がある人ほど、薬の働きどころがはっきりします。
顔だけが赤くなる、夜になると足がほてって布団から出したくなる、汗が急に噴き出す。この三つのうち二つ以上が当てはまる方は、比較的早く体感が出ます。逆に一つも無ければ、別の処方を先に考えます。
胃腸が弱いと胃のほうが先に反応する
胃腸がもともと弱い方の場合、イライラより先に胃の重さや食欲の変化が出ることがあります。生薬のなかに、胃にやや負担がかかるものが含まれているためです。
この反応は、薬が合っていないという意味とは限りません。食後に飲む時間へずらす、少量から始めるといった調整で収まるケースでは、そのまま続けて問題ないことが多いです。
睡眠が崩れている場合は順番が変わる
寝つけない日が続いている方は、イライラより先に睡眠のほうが動きます。眠れた翌日は気分が安定しますから、本人の実感としては眠りの改善が先に来る。
逆に言えば、睡眠に何も変化がないまま2週間が過ぎた場合は、体質の見立てを疑ったほうがよい合図になります。眠りは自分で測れるので、入眠までの時間を記録しておくと判断が速くなります。
量が足りていないだけのことがある
体感が薄い方の相談を受けると、飲んでいる量が想定の半分だったというケースがかなりの割合を占めます。市販薬には1日量を医療用の2分の1から3分の2に抑えた製品があり、パッケージには成分量まで書かれていても見落とされがちです。
薬が合っていないのではなく、届いていないだけ。この見分けは、飲んでいる製品の1日量を確かめれば数分で済みます。
体感を早める飲み方|白湯に溶かして香りごと飲む
結論: 加味逍遙散は香りが働きの一部を担っている漢方薬です。粉のまま水で流し込むのと、熱い白湯(さゆ)に溶かして香りを吸い込みながら飲むのとでは、飲んだ直後の落ち着き方が明確に変わります。
熱い白湯に溶かして、香りを立ててから飲む
加味逍遙散には薄荷(はっか)が入っています。薄荷の働きは香りの成分によるところが大きく、この成分は熱に触れると立ち上がり、冷めると失われていきます。
熱い白湯にひと呼吸おいて溶かし、湯気を吸い込んでからゆっくり飲む。これだけで、飲んだ直後の胸のつかえの取れ方が違うというお声を多くいただきます。カップに移してから飲み終えるまで、3分ほどかけるのが目安です。
食前または食間に飲む
「通常、成人1日7.5gを2〜3回に分割し、食前又は食間に経口投与する」と、医療用の添付文書には用法及び用量が定められています。食事の影響を受けずに吸収させるための決まりです。
食後に飲む習慣がついている方は、この一点を直すだけで体感が変わることがあります。ただし胃が弱い方は例外で、食後のほうが続けられるなら、そちらを優先するほうが結果は良くなります。
飲む時刻を固定する
同じ2回でも、時刻がばらばらだと体の中の量が上下します。朝起きてすぐと、夕方の帰宅直後。この二つのように、毎日ほぼ同じ時刻に来る場面へ紐づけると続きます。
食事の時間が不規則な方ほど、この方法が向きます。食前という条件より、毎日入ることのほうが優先されます。時刻を決めたら、そこに置き場所も紐づけると忘れません。
香りが飛んだものは体感が落ちる
分包を開けたまま何日も置いた、車のダッシュボードに常備していた、といった保管では香りの成分が抜けます。見た目は変わりませんが、立ち上がる香りは弱くなる。
この処方に関しては、保管の丁寧さがそのまま体感に出ます。分包は飲む直前に開ける、直射日光と高温を避ける。この2点を守るだけで違ってきます。持ち歩くなら、小さな密閉袋に入れておくのが確実です。
イラッとしたときに1回だけ飲む使い方はできるか
結論: 加味逍遙散を頓服のように単発で飲んでも、身体に害はありません。ただし1回で気分が変わる設計ではないため、期待どおりの結果になることは少なく、続けて飲むほうが結果的に早く落ち着きます。
単発で飲んで意味がある場面
まったく無意味というわけではありません。熱い白湯で溶かして香りを吸い込む行為そのものに、呼吸を深くして気持ちを切り替える働きがあります。
イラッとした瞬間に台所へ立ち、湯を沸かして溶かす。この数分の間合いが役に立ったというご相談は、実際に受けています。ただしそれは薬というより、動作のほうの働きです。体質を変えたいなら、続けて飲む必要があります。
続けて飲むほうが結果的に早い
単発で飲んで変化がないと、合わないと判断してやめてしまう方がいます。これがいちばん惜しい。
加味逍遙散は、日々の気分の振れ幅の上限そのものを下げていく薬です。イラッとする回数を減らすのが本来の働き方であって、イラッとしてから鎮めるのは得意ではありません。まず14日、決めた時刻に続けることが最短の道になります。
飲み忘れたときの扱い
気づいた時点が次の服用時刻に近ければ、1回とばして次から通常どおりに戻します。2回分をまとめて飲むのは避けたいところです。甘草(かんぞう)が含まれるため、まとめ飲みは負担が大きくなります。
1日1.5グラム含まれており、他の漢方薬と併用する場合は合計で見る必要があります。1日2.5グラムを超えると注意域とされます。
加味逍遙散が合うイライラ・合わないイライラ
結論: 対象となるのは、体力があまりなく、疲れているのに神経だけが昂ってしまうタイプのイライラです。体力が充実していて、怒りが外へ向かって爆発するタイプには別の漢方薬のほうが合います。
添付文書に書かれている対象
「体質虚弱な婦人で、肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある次の諸症」。医療用の添付文書には、効能又は効果の冒頭にこう書かれています。
注目したいのは、体質虚弱と疲れやすいという二語が先に来ている点です。元気が有り余っている人向けの薬ではない、と最初に宣言されているに等しい。
合わないイライラの形
がっしりした体格で、声が大きく、怒鳴ってから疲れる。このタイプの方が加味逍遙散を飲むと、力不足で物足りない結果に終わりがちです。
また、のぼせや顔のほてりがまったく無く、ただ寒くて縮こまっているだけの方も対象から外れます。熱を冷ます働きが入っているため、冷えだけが強い体には向きません。この場合は温める方向へ反転します。
イライラの出方で見分ける
| イライラの出方 | 一緒に出やすい症状 | 合いやすい漢方薬 |
|---|---|---|
| 疲れているのに神経が昂る | のぼせ・肩こり・寝つきの悪さ | 加味逍遙散 |
| 怒りが外へ爆発する・体力充実 | 歯ぎしり・筋肉の突っ張り | 抑肝散(よくかんさん) |
| 動悸・驚きやすさを伴う | 寝汗・胸のざわつき | 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう) |
| 涙が出る・感情がこらえられない | あくび・情緒の不安定 | 甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう) |
| 冷えが強く、熱の症状がない | むくみ・立ちくらみ | 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) |
同じイライラという訴えでも、一緒に出ている症状を見れば絞り込めます。この表のどこにも当てはまらない場合は、気分の問題ではなく別の原因が隠れていることがあります。
見る順番は、まず体力があるかどうか、次に熱の症状があるかどうかです。この2つで、5つのうち3つは外れます。残った2つは、一緒に出ている症状で決まります。
なぜ落ち着くのか|気の渋滞と熱で説明する
結論: 加味逍遙散は、流れの滞りを解く・生じた熱を冷ます・不足した血を補うという三方向から働きます。イライラを気持ちの問題としてではなく、体内で起きている物理的な状態として扱うのが漢方の考え方です。
滞った気を流す
東洋医学では、体を動かすエネルギーを気(き)と呼びます。ストレスがかかると気の流れが滞り、この状態を気滞(きたい)といいます。
たとえるなら、事故で1車線が塞がった高速道路です。後ろが詰まり、クラクションが鳴り始める。柴胡(さいこ)と薄荷が、この詰まりを解く役割を担います。薄荷は香りで動かす生薬なので、香りが飛ぶと働きが落ちます。
生じた熱を冷ます
渋滞が長引くと、その場所に熱がこもります。これが顔のほてりや目の充血、そして抑えのきかない怒りとして表に出ます。
山梔子(さんしし)と牡丹皮(ぼたんぴ)が、この余分な熱を冷ます側です。イライラすると顔だけが赤くなる方は、まさにここが働きどころになります。冷えだけが強い方に向かないのも、この2つが入っているためです。
不足した血を補う
イライラが続く方の多くは、心の土台となる血(けつ)が足りていません。燃料が少ないまま無理に回転数を上げているエンジンのようなもので、空回りしながらさらに熱を持ちます。
当帰(とうき)と芍薬(しゃくやく)が、この土台を補います。三つの働きのうち、体感がいちばん遅れて出るのがこの部分になります。90日という目安は、ここが動くまでの時間です。
10種類の生薬の役割分担
加味逍遙散は当帰・芍薬・白朮・茯苓・柴胡・牡丹皮・山梔子・甘草・生姜・薄荷の10種類で組まれています。流す・冷ます・補うの三方向に、胃腸を支える生薬が加わった構成です。
一つの生薬が強く働くのではなく、10種類が互いの角を取りながら成り立っている。これが、飲んだ直後の劇的な変化が起きにくい理由でもあります。
飲んでから変化が出る順番
結論: 最初に動くのは睡眠と気分の引きずり方で、次に体の熱の症状、最後に月経まわりという順になります。この順番を知っておくと、途中でやめる判断を誤りにくくなります。
3日から1週間で出ること
早い方では、3日ほどで寝つきの変化に気づきます。眠れた翌日は気分の底が上がりますから、この時点で手ごたえを感じる方は少なくありません。
ただしこの段階の変化は日によってばらつきます。良い日と悪い日が交互に来るのが普通で、良い日が少しずつ増えていく形をとります。悪い日が1日あったところで、中断する理由にはなりません。
14日で見るもの
14日を過ぎたあたりで、イラッとしたあとの引きずり方が変わります。怒らなくなるのではなく、怒ったあとの立ち直りが早くなる。この変化に気づいた方は、そのまま続けて問題ありません。
反対に、14日たっても睡眠にも気分にもまったく動きがない場合は、体質の見立てか量のどちらかを疑う段階になります。市販薬なら、まず量から確かめます。
90日で変わるもの
体質そのものが変わるには、90日ほどの継続が必要になります。月経前だけ荒れていた気分の波が、そもそも来なくなるという変化はこの時期に出ます。
ここまで来ると、量を減らす相談ができます。減らして戻るようなら、まだ土台が固まっていない段階です。戻ったこと自体は失敗ではありません。
効かないときに見直す5つの点
結論: 効かないと感じたとき、薬を変える前に確かめる点が5つあります。このうち量と飲む時刻の二つだけで、体感が変わる方がかなりの割合を占めます。
体質の見立てがずれている
もっとも多いのがこれです。冷えだけが強い方、体力が充実している方に加味逍遙散を使っても、働きどころがありません。
見立てのずれは、飲んでも何も起きないという形で出ます。副作用も出ないが変化もない、という状態が2週間続くなら、処方のほうを見直す段階になります。合わない処方を続けても、時間が過ぎるだけです。
飲んでいる量が足りない
市販薬のなかには、医療用の2分の1量に抑えた製品があります。パッケージの成分表示に、1日量あたりの乾燥エキス量が書かれていますので、そこを確かめます。
同じ名前で棚に並んでいるため、価格だけで選ぶと量の少ないほうを手に取ることになります。
効かないというご相談の一定数は、ここが理由です。中身の量が倍違えば、結果が変わるのは当然といえます。
食後に飲んでいる
年齢や体重、症状によって量を増減してよいと添付文書に書かれているとおり、量には調整の余地があります。一方で飲む時刻については食前または食間と定められており、ここは動かさないほうが吸収の面で有利です。
ただし胃が重くなる方は例外です。飲めない形を守るより、食後にしてでも毎日続けるほうが結果につながります。
別の原因が隠れている
甲状腺の機能が高ぶっている、鉄が不足している、睡眠時無呼吸で眠りが浅い。イライラの背景にこれらがあると、漢方薬だけでは動きません。
急に痩せた、動悸が続く、朝から強い倦怠感がある。こうした症状が同時にある場合は、医療機関での血液検査を先に受けるほうが確実です。
順番を逆にすると、遠回りになります。原因が別にあるまま漢方薬だけで進めても、時間が過ぎるだけです。
期間の見方を間違えている
3日で判断してしまう方が多いのですが、加味逍遙散で気分の変化を見るには最低でも14日が必要です。逆に90日飲んで何も動かないなら、それ以上続けても結果は変わりません。
始める前に、14日と90日の2つを手帳に書いておくと、判断の日が来たときに迷わずに済みます。何を見て判断するかも、あわせて書いておくと確実です。
逆にイライラが強くなったときの対処
結論: 飲み始めてイライラが増したように感じる場合、流す働きが今の体には強すぎる可能性があります。量を減らすか、より補う側に重心を置いた漢方薬へ切り替える判断になります。
巡らせる力が強すぎるとき
体力がかなり落ちている状態で流す働きの強い薬を使うと、落ち着かなさや動悸として出ることがあります。この場合は量を3分の2に減らすだけで収まることが多いです。
減らしても続くようなら、加味帰脾湯(かみきひとう)のように補う側の性質が強い処方のほうが合います。
動かす前に、補う必要があるということです。空のタンクでエンジンを回しても、音が大きくなるだけになります。
甘草と山梔子で注意すること
加味逍遙散には甘草が含まれます。他の漢方薬と併用すると甘草の量が重なり、むくみや血圧の上昇として出ることがあります。医療用の添付文書には、重大な副作用として偽アルドステロン症とミオパチーが記載されています。
もうひとつ、山梔子を長く飲み続けた場合に腸間膜静脈硬化症があらわれることが知られています。年単位で継続する場合は、腹痛や下痢が続かないかを見ながら、定期的に医療機関で確認を受けるのが安全です。
やめる・変える目安
胃の重さが1週間たっても引かない、発疹が出た、手足のだるさや力の入りにくさが出た。この三つのいずれかが出たら、いったん中止して相談していただくのが確実です。
とくに手足の力が入りにくいという変化は、甘草によるものの可能性があります。
むくみや血圧の上昇が同時にあれば、その疑いはさらに強くなります。他の漢方薬にも甘草が入っていないか、あわせて確認します。
抑肝散・柴胡加竜骨牡蛎湯との使い分け
結論: イライラに使う漢方薬は複数あり、体力の程度と、一緒に出ている症状で選び分けます。速さを求めるなら、自分の体質に合ったものを選ぶことがいちばんの近道になります。
抑肝散との違い
抑肝散は、筋肉の緊張として現れるタイプに向きます。歯ぎしり、まぶたのけいれん、肩から首が板のように張る。こうした症状が主なら抑肝散のほうが素直に届きます。
加味逍遙散は、のぼせや発汗といった熱の症状が前に出るタイプです。この境目で選ぶと外しにくくなります。両方あるなら、生活に支障が出ているほうから手をつけます。
柴胡加竜骨牡蛎湯との違い
柴胡加竜骨牡蛎湯は、体力があるほうの方で、動悸や驚きやすさ、寝汗を伴う場合に使います。加味逍遙散より重心が下にあり、鎮める力が強い組み立てです。
体力の程度で分かれますので、疲れやすさが前面に出ているなら加味逍遙散、そうでなければこちらという見方になります。柴胡加竜骨牡蛎湯には甘草が入っていないという違いもあります。
涙が出るタイプには甘麦大棗湯
こらえようとしても涙が出る、あくびが止まらない、感情の起伏が自分でも読めない。このタイプには甘麦大棗湯が合います。
3種類の生薬だけで組まれた簡素な処方ですが、この場面での働きは的確です。子どもの夜泣きにも古くから使われてきたもので、味が甘く飲みやすいという特徴もあります。甘草を含むため、期間は区切って使います。
市販薬と煎じ薬で体感は変わるか
結論: 変わります。理由は生薬の質そのものより、1日あたりに飲む量と、香りの成分がどれだけ残っているかの二点にあります。
1日量の違いを先に確かめる
市販の加味逍遙散には、医療用と同じ量を含む製品と、2分の1量に抑えた製品があります。同じ名前で棚に並んでいますので、価格だけで選ぶと量の少ないほうを手に取ることになりかねません。
効かないというご質問をいただいたとき、まず確かめるのがここです。同じ名前でも中身の量が倍違えば、結果が変わるのは当然といえます。
香りの残り方が違う
エキス剤は、煎じた液から水分を飛ばして粉にしたものです。この工程で、香りの成分は一定量が失われます。薄荷の香りが働きの一部を担う加味逍遙散では、この差が体感に出やすい。
煎じ薬は、飲む直前に自分で煮出しますから、香りの成分がそのまま残ります。手間はかかりますが、香りを重視する漢方薬では選ぶ価値があります。
どちらを選ぶか
続けられるかどうかで決めるのが現実的です。毎朝20分の煮出しが負担になるなら、エキス剤を確実に飲むほうが結果は良くなります。
まずエキス剤で3か月試し、手ごたえがあってさらに引き上げたい段階で煎じ薬へ移る。あわせて食事や睡眠の見直しを重ねると、薬だけのときより早く落ち着きます。順番として、これがいちばん無駄がありません。
改善症例|イライラが落ち着くまでの経過2例
結論: 実際の相談では、薬を変えるより飲み方を直しただけで動くケースが少なくありません。以下は当薬局で経過を見せていただいた2例です。
40代前半|市販薬を3日でやめてしまっていた瑠美さん
主訴: 家族に強く当たってしまい、そのたびに自己嫌悪に陥る。市販の加味逍遙散を買ったが3日飲んで変化がなく、そのまま置いてある。夕方になると顔だけがほてる。
アプローチ: 買った製品の1日量が医療用の2分の1だったため、満量の製品へ変更。熱い白湯に溶かし、朝と夕方の決まった時刻に飲むことを14日続けていただいた。
経過: 7日目に寝つきが変わり、14日目には怒ったあとの立ち直りが早くなったとご報告いただきました。3か月後には、月経前の荒れ方そのものが軽くなったと表情が明るくなりました。
30代後半|飲むと落ち着かなくなると相談に来られた亜矢さん
主訴: 加味逍遙散を飲み始めてから、かえってそわそわして動悸がする。もともと疲れやすく、朝起きるのがつらい。舌は色が薄く、縁に歯の跡がついていた。
アプローチ: 流す働きが今の体力に対して強いと判断し、量を3分の2へ。それでも落ち着かなかったため、補う側に重心のある加味帰脾湯へ切り替え、あわせて夕食に鉄と蛋白質を足す食養生をお願いした。
経過: 切り替えて10日ほどで動悸が消え、30日で朝の起きづらさが軽くなりました。イライラそのものは、体力が戻るのと同じ速さで落ち着いていった例です。
よくある質問
Q. 飲んだその日に効くことはありますか?
A. 香りによる落ち着きは当日から感じる方がいますが、症状そのものが変わるのは数日後からです。 熱い白湯で溶かして飲むと、その場で胸のつかえが軽くなることはあります。ただしそれは薬の本体の働きとは別のものと考えたほうが、判断を誤りません。
Q. どのくらい飲めば効くかどうか分かりますか?
A. 14日を一区切りにしてください。 睡眠か気分のどちらかに動きがあれば継続、まったく無ければ見立てを疑う段階です。90日飲んで変化がない場合は、別の漢方薬へ切り替える判断になります。
Q. 男性や子どもが飲んでも大丈夫ですか?
A. 体質が合えば、男女や年齢を問わず用いられます。 効能又は効果には婦人という語が入っていますが、これは対象を女性に限る意味ではありません。仕事のストレスで顔がほてる男性や、神経が過敏なお子さんに用いられることもあります。
Q. 市販薬と漢方薬局のもので効き方は違いますか?
A. 1日に飲む生薬の量と、香りの成分の残り方が違います。 市販薬には医療用の2分の1量に抑えた製品があり、同じ名前でも届く量が変わります。効かないと感じたときは、まず成分表示の1日量を確かめるのが先です。
Q. 他の漢方薬と一緒に飲んでもよいですか?
A. 甘草が重ならないかを確かめてから決めてください。 加味逍遙散には甘草が含まれており、他の漢方薬にも入っていると合計量が増えます。むくみや血圧の上昇として出ることがありますので、併用は成分を確認したうえで行います。
Q. 効いてきたら、いつやめればよいですか?
A. 症状が落ち着いてから、さらに1か月から2か月続けたところが目安になります。 落ち着いた時点でやめると戻りやすく、体質が変わりきっていないことが多いためです。減らし方も含めて相談していただくのが確実です。
まとめ|速さを決めるのは薬より飲み方
加味逍遙散は、イラッとしてから鎮める薬ではなく、イラッとする回数そのものを減らしていく薬です。この違いを知っておくだけで、3日でやめてしまう遠回りを避けられます。
- 体感の早さ: イライラと睡眠が最初、次にのぼせ、最後に月経まわり
- 判断の目安: 14日で睡眠か気分に動きがあるか、90日で体質そのもの
- 早く効く飲み方: 熱い白湯に溶かし、香りを吸い込んでから食前または食間に
- 合うタイプ: 疲れているのに神経が昂り、のぼせや寝つきの悪さを伴う方
- 合わないタイプ: 体力が充実している方、冷えだけが強く熱の症状が無い方
- 効かないとき: 量・飲む時刻・体質の見立て・別の原因・期間の見方の5点
- 注意点: 甘草の重複と、山梔子の長期服用
最後にひとつ。イライラを性格の問題として自分を責めている方ほど、体の側に理由が見つかったときの回復は早い傾向があります。責める必要のないものだった、と分かるだけで肩の力が抜けるからです。
れいわ漢方薬局では加味逍遙散の煎じ薬もご用意しています。いま飲んでいる製品の箱をお持ちいただければ、量が足りているのか、体質に合っているのかを一緒に確かめます。


