「眠れないと相談したら、人によって違う漢方薬を勧められた」「効能効果に不眠症と書いてあるものを試したが変わらない」――不眠と漢方薬についてのご相談は、当薬局でもよくいただきます。
結論からお伝えすると、眠れない理由によって、選ぶ漢方薬が正反対になります。高ぶって眠れないのか、疲れて眠れないのか。ここを取り違えると、飲んでも変わりません。
当薬局では、布団に入ってから何が起きているかを詳しく伺います。頭が動くのか、体が火照るのか、目が冴えるのか。この違いが選び分けを決めます。
効能効果ではなく、眠れない理由から選ぶ
結論: 不眠症という言葉が効能効果に入った漢方薬は複数あり、そこだけを見ても選べません。高ぶり、消耗、火照り、そして体の問題。この4つに分けると方向が決まり、飲むものも自然に絞られます。
効能効果の前置きが、選び分けを決める
抑肝散(よくかんさん)は、虚弱な体質で神経がたかぶるもの。加味帰脾湯(かみきひとう)は、虚弱体質で血色の悪い人。柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は、精神不安があって動悸を伴うもの。
いずれも効能効果に不眠症が含まれますが、前置きの条件がまったく違います。前置きを読み飛ばして病名だけで選ぶと、合わない漢方薬にたどり着きます。添付文書の最初の一行が、実は選び分けの本体です。
読む場所を変えると、迷いが減ります。
不眠症という言葉を探すのではなく、前置きに当てはまるかを見ます。ここが実際の分かれ目です。
体力が十分にある方が、虚弱体質という前置きの付いた漢方薬を選んでも合いません。
逆に、消耗している方が体力充実という前置きの漢方薬を飲むと、胃腸に負担がかかります。効かないだけでなく、体調を崩す側に振れるということです。自分の体力がどのあたりかは、日中に動けているかどうかで見当がつきます。
そこで、順番が逆になります。
眠れない理由を先に切り分けると、前置きのどれに当てはまるかが決まります。当薬局が最初にここを伺うのは、この順序のためです。眠れないという訴えだけを聞いて漢方薬を選ぶことはできません。何時に布団に入って、何時に目が覚めて、そのとき体はどうなっているか。ここまで分かると、候補は2つか3つに絞れます。逆に、この部分が曖昧なままだと、どの漢方薬も当てはまるように見えてしまいます。
高ぶって眠れないか、疲れて眠れないか
興奮して目が冴える、日中の出来事が頭で再生される、体に力が入っている。抑える方向が候補です。
歯ぎしりを指摘される、朝起きたときに顎が疲れている。こうした様子が並ぶことも多くあります。
本人は高ぶっている自覚がないことも珍しくありません。日中は淡々と過ごせているのに、布団に入った途端に頭が動き出すという形です。家族から見た様子のほうが、当たっていることがあります。
反対に、力が尽きている側もあります。
体は疲れきっているのに寝つけない、夜中に何度も目が覚める、夢を多く見る。補う方向が候補になります。
食が細い、顔色が悪い、日中も動けない。この形が揃うほど当てはまります。ここで抑える方向の漢方薬を選ぶと、さらに動けなくなります。眠れないという言葉は同じでも、必要なのは逆の手当てです。まず日中に動ける状態を取り戻すところから始まり、眠りはその後に付いてきます。
火照って眠れないか、別の理由が隠れているか
体が熱くて落ち着かない、汗をかいて目が覚める、足を布団から出したくなる。冷ます方向が候補です。
更年期にさしかかる時期に増える形です。40代後半から50代にかけて、それまで眠れていた方が急に眠れなくなる。この時期の相談で最も多い形です。汗をかいて目が覚めるかどうかが、ほかの理由と分ける手がかりになります。寝具を薄くしても変わらないなら、体の内側から来ている熱です。
4つめは、そもそも眠りの外に原因がある形です。
いびきが大きい、足がむずむずする、頻尿で起きる、痛みで目が覚める。この形では、漢方薬より先に確認が要ります。
眠れないという言葉は同じでも、この4つは背景がまったく違います。
この4つのうち、いちばん最後のものだけは漢方薬の担当ではありません。いびきや足のむずむずは、別の原因がはっきりしている症状です。ここを見落としたまま漢方薬を続けると、時間だけが過ぎます。
| 眠れない理由 | 布団の中で起きること | 向かう方向 |
|---|---|---|
| 高ぶり | 目が冴える、体に力が入る | 抑える |
| 消耗 | 疲れているのに寝つけない | 補う |
| 火照り | 熱くて落ち着かない | 冷ます |
| 体の問題 | いびき、むずむず、頻尿 | 確認が先 |
高ぶりのタイプに用いられる漢方薬
結論: 抑える方向が中心です。体力があるかどうかで、さらに分かれるため、体格も判断材料になります。
抑肝散と柴胡加竜骨牡蛎湯|高ぶりを抑える2つ
怒りっぽさや緊張が強い方に向かいます。歯を食いしばる、肩に力が入る、些細なことで声を荒げる。
効能効果には神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症が含まれます。もともと子どもの夜泣きに向けて作られた漢方薬です。大人でも、たかぶりを抑える必要がある場面は同じです。介護の現場で使われることが増えたのも、この働きによります。
同じ抑える方向でも、体力のある方には別の選択があります。
動悸や驚きやすさを伴う高ぶりに向かいます。体力が中等度以上ある方が対象で、体格がしっかりした方に選ばれます。
抑肝散が虚弱な体質という前置きを持つのに対し、こちらは土台の強さが違います。
同じたかぶりでも、支える力が残っているかどうかで選ぶものが変わります。ここを取り違えると、体力のない方には強すぎ、体力のある方には物足りないという結果になります。体格と日中の動きを見るのは、このためです。
黄連解毒湯と、体格で分ける目安
のぼせて顔色が赤く、イライラが強い方に向かいます。熱を冷ます方向が主で、補う要素はありません。
体力が充実している方が対象です。冷ます力だけで組み立てられているぶん、合う方には早く動きます。飲んで数日で顔の赤みが引く、という形で表れることがあります。ただし合わない方が飲むと、下痢や食欲の低下が出ます。効き方がはっきりしている漢方薬ほど、方向の見立てが要ります。
3つのどれに向かうかは、2つの材料で決まります。
体格と、日中に動けるかどうか。体力が十分なら柴胡加竜骨牡蛎湯や黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、虚弱寄りなら抑肝散が候補になります。
体力の判定は、本人の感覚とずれることがあります。疲れていると感じていても、食事が摂れていて日中は動けているなら、虚弱の側ではありません。逆に、無理をして動けているだけの方は、体力があるようには見えても消耗しています。ここは自己申告より、生活の中身を聞いて決める部分です。
消耗のタイプに用いられる漢方薬
結論: 補う方向が中心です。何が足りていないかで選び分けるため、食欲と顔色も併せて見ます。
加味帰脾湯と酸棗仁湯|考えごとが止まらない方・眠りに絞る方
考えごとが止まらず、疲れているのに眠れない方に向かいます。効能効果には、虚弱体質で血色の悪い人の貧血、不眠症、精神不安、神経症と定められています。
食が細く、顔色が悪い方に合いやすい形です。貧血が効能効果の先頭に来ているのが特徴です。眠りだけを扱う漢方薬ではなく、血を補いながら気持ちの高ぶりも収める組み立てになっています。
補う方向のなかにも、的を絞った組み方があります。
眠りに絞った構成の漢方薬です。酸棗仁湯(さんそうにんとう)は、心身が疲れ弱って眠れないものに向かいます。
食欲や顔色までは崩れていない方に向きます。加味帰脾湯より組み立てが小さいぶん、胃腸への負担も軽くなります。
生薬の数が少ないぶん、狙いがはっきりしています。眠り以外に大きな崩れがない方には、こちらのほうが素直に働きます。
帰脾湯と補中益気湯|熱の要素がない方・気力が落ちている方
加味帰脾湯から柴胡と山梔子を除いたものです。口の渇きやほてり、胸の詰まった感じがない方では、こちらのほうが素直に働きます。加える2つの生薬は、こもった熱を冷ます側の働きをします。その熱がない方に足すと、余計なものが入ることになります。名前が似ているぶん取り違えやすいところですが、向く方はきれいに分かれます。ほてりがあるかどうかを聞けば、判断はつきます。
眠り以外が表に出ている場合は、また別の組み方になります。
眠りより気力の低下が前面にある方に向かいます。眠りの問題が二の次であれば、こちらのほうが組み立てが素直です。
朝起きられない、午後になると動けなくなる、食後に強い眠気が出る。こうした形が眠れないことより前に出ているなら、眠りを直接扱う必要はありません。日中の底上げができると、眠りは後から整うことが多くあります。順番を入れ替えるだけで進む方が、実際にいらっしゃいます。
火照りのタイプに用いられる漢方薬
結論: 冷ましながら整える方向です。更年期にさしかかる時期に出番が増え、上下の温度差も判断材料になります。
加味逍遙散と温経湯|疲れが並ぶ方・唇が乾く方
イライラとほてりに加えて、疲れやすさや肩こりが並ぶ方に向かいます。気の巡りの詰まりとこもった熱の両方を扱う組み立てです。
女性の相談で最も出番が多い漢方薬の1つです。日によって症状の出方が変わるという点も、選ぶときの手がかりになります。調子のよい日と悪い日の差が大きい方に合いやすい形です。眠りだけでなく、月経前の不調や肩こりが一緒に軽くなることもあります。
ほてり一辺倒でない方には、別の候補が立ちます。
手足のほてりと冷えが混ざり、唇が乾く方に向かいます。効能効果には不眠が含まれます。
血を補いながら、乾きを潤す方向です。手のひらがほてるのに足先は冷たい、唇や口の中が乾く、皮膚がかさつく。この3つが並ぶ方に向かいます。冷ますだけの漢方薬では乾きが進み、温めるだけの漢方薬ではほてりが強くなります。両方を同時に扱う必要がある場面で選ばれる形です。
黄連解毒湯と、冷えとほてりが同居する場合
のぼせが強く、顔が赤い方に向かいます。冷ます力が強い部類なので、冷えのある方には合いません。
顔が赤いかどうかは、鏡で見るより人に言われて気づくことが多い部分です。お酒を飲んでいないのに赤い、冬でも赤いという形なら当てはまります。
手足が冷たい方がこれを飲むと、冷えが進みます。上半身の熱と下半身の冷えが同居している方は、別の組み立てが要ります。
ただ、上と下で温度が違う方もいらっしゃいます。
顔は熱いのに足は冷たい。この形では、冷ますだけでも温めるだけでも合いません。巡らせる方向が土台になります。
上下の温度差がある方は、この見立てを外すと進みません。
本人はほてりのほうを強く訴えることが多いので、冷えは聞かれるまで出てきません。足先を触ってもらうと、その場ではっきりします。上だけを冷ますと足の冷えが増し、下だけを温めると顔の熱が上がる。どちらか一方に手をつける限り、堂々巡りになります。
体の問題が背景にある場合
結論: いびき、むずむず、頻尿、痛み。この4つでは、漢方薬より先に確認が要ります。様子を見ているあいだに時間が過ぎます。
いびきと、脚のむずむず
夜中に呼吸が止まっている可能性があります。日中に強い眠気がある、家族にいびきを指摘されるという方は、検査を受ける価値があります。
漢方薬で様子を見ているあいだに時間が過ぎるという形は避けたいところです。
睡眠時無呼吸は、検査を受ければはっきりします。眠れないことより、日中の眠気のほうが先に出るのが特徴です。運転中に眠くなるという方は、そこが手がかりになります。
もう1つ、脚に出るものがあります。
夕方から夜にかけて足が落ち着かず、じっとしていられない。この症状には専用の対応があり、鉄の不足が関わることもあります。動かすと楽になるが、止めるとまた出る。この繰り返しが特徴で、眠りに入る前の時間帯に強くなります。血液検査で鉄の状態を確かめると、原因がはっきりすることがあります。眠れないという入口で相談に来られても、こちらが本体だった例は少なくありません。
夜間の頻尿と、痛みで目が覚める場合
尿で目が覚めるのか、目が覚めたついでにトイレに行くのか。この区別が付くと、向かう先が変わります。
前者なら八味地黄丸(はちみじおうがん)のような別の系統が候補になります。
夕方以降の水分の摂り方を変えるだけで減る方もいらっしゃいます。日中に足がむくむ方は、横になったときに水分が戻って尿になるという流れもあります。
何時に何回起きたかを1週間記録すると、どちらの形かが見えてきます。
4つめは、体のどこかが痛む場合です。
腰、肩、関節。痛みが原因なら、眠りに向かう漢方薬では届きません。痛みのほうに手を入れるのが先です。
寝返りを打ったときに目が覚めるかどうかが、見分けの手がかりです。痛みが軽くなると、眠りは何もしなくても戻ることがあります。
痛みの側にも漢方薬の選択肢はありますが、選ぶものはまったく別の系統になります。眠りの棚から探しても見つかりません。
睡眠薬との併用と、甘草の重複
結論: 併用そのものは珍しくありませんが、置き換えるという発想では両方が中途半端になります。あわせて眠りに用いる漢方薬の多くは甘草を含むため、複数を併せると量が積み上がります。
併用そのものに問題はない|ただしやめ方には手順がある
睡眠薬や抗不安薬を飲みながら漢方薬を併せる方は多くいらっしゃいます。相互作用が問題になることは多くありません。実際、ご相談に来られる方の多くは、すでに何らかの薬を飲んでいます。やめてから来なければならない、ということはありません。飲んでいる薬の名前が分かる状態、つまりお薬手帳をお持ちいただければ、その場で確認できます。市販の睡眠改善薬も同じ扱いになります。
問題になるのは、むしろ引きぎわです。
眠れるようになったからといって、睡眠薬を自分の判断で中止するのは避けてください。急にやめると、かえって眠れなくなることがあります。
減らす場合は、記録を持って処方した医師に相談する形になります。
記録というのは、何時に寝て何時に起きたか、途中で目が覚めた回数、日中の眠気。この程度で足ります。減らせるかどうかの判断材料になるのは、本人の感覚より、こうした数字のほうです。
手ごたえの見え方と、減らせる段階の目安
睡眠薬で眠り自体が確保されていると、漢方薬の変化が現れにくくなります。この場合こそ、日中の疲れ方と食欲を物差しにします。
眠りの質が同じでも、昼間の様子が変わっていれば土台は積み上がっています。
眠れているのだから漢方薬は不要だ、と早く判断してしまう方がいらっしゃいます。見ている場所が眠りだけになっているためです。朝の起きやすさ、午後の疲れ方、食欲。この3つを毎週1行で書き留めておくと、変化が読み取れます。
では、いつなら減らせるのかという話になります。
日中の疲れが軽くなり、食欲が戻り、薬を飲んでも飲まなくても寝つきが変わらない日が出てくる。この段階に入ってから相談するのが現実的です。
早くても3か月、多くは半年ほどかかります。当薬局のご相談でも、減らす話に進めるのは10人に2人ほどです。残りの8人が失敗しているわけではありません。眠りが安定した状態を保つほうを選ばれる方が多い、ということです。
甘草を含むものと、量が積み上がったときのサイン
抑肝散、加味帰脾湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、加味逍遙散(かみしょうようさん)。いずれも甘草を含みます。
一方、酸棗仁湯にも甘草は含まれます。眠りの領域では、甘草を含まない選択肢が少ない部類です。
量は漢方薬によって違うので、含まれているかどうかだけでは判断できません。2種類を併せて飲むときは、合計の量を見る必要があります。
積み上がったときは、体のほうに出ます。
顔や足がむくむ、靴やゆびわがきつくなる、数日で体重が2キロ以上増える、手足に力が入りにくい、足がつりやすくなった。
1つずつだと年齢のせいだと思われがちですが、並べるとはっきりします。飲み始めてから出たかどうかが目印です。
体重は毎朝同じ条件で量っておくと、気づける速さが変わります。むくみは自分では分かりにくいので、すねを指で押して跡が残るかどうかで見ます。
年齢によっても、出やすさが変わります。
甘草による副作用は高齢の方で報告が多く、日常的に飲む薬が複数ある年代でもあります。
血圧の薬や利尿薬を飲んでいる方は、開始前に伝える必要があります。
利尿薬と甘草が重なると、カリウムが下がりやすくなります。足がつる、力が入りにくいという形で出ることが多い変化です。
お薬手帳を1冊にまとめておくと、こうした確認が数十秒で済みます。複数の医療機関にかかっている方ほど、ここが効いてきます。
2つ重ねたいときは、量のほうから考えます。
2種類を併用したい場合、それぞれを規定量ずつ飲むと甘草が二重になります。煎じ薬なら、必要なものを1つにまとめて甘草の量も調整できます。市販のかぜ薬やのど飴、胃腸薬にも甘草は入っていることがあります。漢方薬同士だけを見ていると、合計を数え損ねます。数か月にわたって飲むものほど、この積み上がりが問題になります。飲んでいるものを全部並べてみると、思ったより多いことに気づく方が多くいらっしゃいます。
飲み方と続け方、効果が出るまでの期間
結論: 夜だけ飲むという形は避けます。日中の分が土台を作り、その結果として夜に届くためです。抑える方向は2週間から4週間、補う方向は1か月から3か月が目安になります。
5つの手順|夜だけにせず、温かい状態で飲む
- 飲み始める前に、寝つくまでの時間と夜中に目が覚めた回数を1週間記録する
- 朝と夜の決まった時間に飲む場所を固定する
- 最初の2週間は胃の様子とむくみだけを見る
- 4週間ごとに1番をもう一度記録し、前回と並べる
- 8週間の時点で、続けるかどうかを判断する
1番を数字にするのが要点です。よく眠れた日は忘れ、眠れなかった日だけ覚えているため、記憶だけだと実際より悪く見えます。
手順のなかで、いちばん外れやすいのが回数です。
眠りのための薬だと考えて、就寝前の1回だけにしている方が一定数いらっしゃいます。この飲み方では1日量が足りません。
日中の分を飲むことが、結果として夜に届きます。漢方薬は、その場で眠らせる薬ではありません。日中の体の状態を変えた結果として、夜が変わるという順序です。朝と昼を抜いていると、その土台がつくられません。飲み忘れが多い方は、食後ではなく起床時と帰宅時に置き換えると続くことがあります。
飲むときの温度も、働きに関わります。
冷たい水で飲むと胃腸の働きが鈍ります。白湯(さゆ)か常温の水が向きます。
顆粒であれば、少量の白湯に溶かしてから飲む方法もあります。溶かしたほうが吸収は早くなりますが、においが立つので苦手な方は無理をしなくて構いません。
冷蔵庫から出したばかりの水は避けたいところです。とくに眠りの相談で来られる方には、胃腸が弱っている形が多く、冷たいものがそのまま負担になります。夏場でも常温を選ぶだけで、飲んだあとの重さが変わります。
方向で時間軸が違う|先に動くのは日中のほう
抑肝散のような抑える方向は比較的早く動きます。日中の反応が2週間から4週間で変わってきます。
加味帰脾湯のような補う方向は、土台を積み上げてから眠りに届くため、1か月から3か月かかります。
この差を知らずに始めると、補う方向の漢方薬を2週間で見限ってしまいます。始める前に、いつ判断するかを決めておくほうが確実です。抑える方向なら1か月、補う方向なら3か月。この目安を持っておくと、途中で迷わずに済みます。
変わり始める場所にも、決まった並びがあります。
眠りより先に、日中の疲れ方や食欲が変わることが多くあります。眠りだけを見ていると、動いているのに気づけません。朝の目覚めが少し楽になった、午後に横になりたくならなくなった、ご飯がおいしく感じる。こうした変化が先に出ます。本人にとっては眠れないことが一番の悩みなので、こちらは見過ごされがちです。ご家族から最近元気になったと言われて初めて気づく方もいらっしゃいます。
眠りのなかの順番と、3か月で動かないとき
夜中に目が覚める回数、目が覚めた後に再び眠れるか、寝つくまでの時間。この順で動くことが多く見られます。
寝つきは最後に整うため、そこだけを物差しにすると判断が遅れます。
夜中に目が覚める回数が3回から1回に減っていれば、方向は合っています。寝つきに30分かかる状態が続いていても、そこは後から動きます。
記録をつけていない方は、この変化に気づけません。
それでも変わらない期間が続いたときは、確かめる場所があります。
見立ての方向、飲む量と回数、生活側の負荷、体の問題。この4つを確かめます。
多いのは2番目です。1日3回のところを1回しか飲んでいない、飲み忘れが週の半分ある。この状態では、方向が合っていても届きません。
次に多いのが3番目で、夜勤や介護など生活の側に眠れない理由が残っている場合です。ここは漢方薬では動かせない部分なので、できる範囲を先に決めます。
4番目に当たると、はじめから漢方薬の担当ではなかったことになります。
生活側で見直したい4つのこと
結論: 朝の光、寝る前の考えごと、カフェイン、そして夜遅い食事。飲むものと並行して動かします。
朝の光と、寝る前の考えごと
眠りのリズムは朝の光で決まります。起床後30分以内にカーテンを開ける、可能なら外に出る。
夜だけ整えようとしても追いつきません。在宅で仕事をされている方ほど、ここが崩れています。
曇りの日でも、屋外の明るさは室内の何倍もあります。窓際に座るだけでも違いますが、外に出るほうが確実です。
起きる時刻を一定にするほうが、寝る時刻を一定にするより先に効きます。眠くなくても同じ時刻に起きる。これが土台になります。
夜の側にも、手を打てる場所があります。
布団に入ってから頭が動き出す方には、寝る前に書き出す方法が有効です。気になっていることを紙に3行だけ書いて閉じる。
頭のなかで回している間は終わりが来ませんが、外に出すと一区切りが付きます。
書く内容は、解決策でなくて構いません。気になっていることをそのまま並べるだけで足ります。
翌朝に見返すと、たいしたことではなかったと感じる日が多くなります。それが分かってくると、書く作業そのものが安心につながります。
カフェインの時間と、夜遅い食事
カフェインが体から抜けるまでには5時間ほどかかるとされます。夕方の1杯が夜まで残ります。
午後3時以降を控えるだけでも変わります。1日4杯以上飲んでいる方では、まずここを減らすほうが早いことがあります。
緑茶や紅茶、エナジードリンク、一部の栄養ドリンクにも入っています。コーヒーだけを数えていると、実際の量とずれます。急にやめると頭痛が出ることがあるので、1日1杯ずつ減らす形が現実的です。
口に入れるものは、飲みものだけではありません。
寝る直前に食べると、眠っている間も胃腸が働き続けます。寝る3時間前までに終えるのが目安です。
難しい日は、量を減らすだけでも違います。帰宅が遅い日は、夕方のうちにおにぎりなどを1つ入れておいて、帰ってからは汁物と副菜だけにする。この分け方なら、3時間の条件を満たしやすくなります。
寝る前に空腹で眠れないという方は、温かい飲み物を少量だけ入れる形が向きます。
改善症例|理由を切り分けて動いた2例
結論: 眠れない理由の見立てを変えるだけで、動くことがあります。当薬局で伺った2つのケースをご紹介します。
ケース1:50代女性|方向が逆だった
症状: 眠れないとのご相談で抑える方向の漢方薬を3か月飲んだが、変わらないどころか日中のだるさが増したとのことでした。
アプローチ: 伺うと、眠れない理由は興奮ではなく、疲れているのに寝つけないという形でした。顔色が青白く、食も細い状態です。気血を補う方向の煎じ薬へ切り替えています。
経過: 3週間で日中のだるさが軽くなり、10週間後には夜中に目が覚める回数が3回から1回に減りました。期間が足りなかったのではなく、方向が逆だった例です。
ケース2:40代男性|体の問題が背景にあった
症状: 夜中に何度も目が覚めるとのご相談でした。日中に強い眠気があり、体重はやや多め、家族からいびきが大きいと言われていました。
アプローチ: 眠れない理由が高ぶりでも消耗でもなく、夜間に呼吸が止まっている可能性があるとお伝えし、医療機関での検査を先に受けていただくようご案内しました。漢方薬はいったん保留にしています。
経過: 検査で睡眠時無呼吸と診断され、そちらの治療で日中の眠気が改善しました。漢方薬が合わなかったのではなく、向かうべき場所が違っていた例です。
よくある質問
Q. 効能効果に不眠症と書いてあるものを選べばいいですか?
A. それだけでは選べません。不眠症という言葉が含まれる漢方薬は複数あり、前置きの条件がまったく違います。虚弱な体質で神経がたかぶるもの、虚弱体質で血色の悪い人、精神不安があって動悸を伴うもの。前置きに当てはまるかが実際の分かれ目です。
Q. 眠れない理由をどう見分ければいいですか?
A. 布団に入ってから何が起きているかを見ます。目が冴えて体に力が入るなら高ぶり、疲れているのに寝つけないなら消耗、熱くて落ち着かないなら火照りです。いびきや足のむずむず、頻尿があるなら、まず確認が先になります。
Q. 睡眠薬と一緒に飲んでも大丈夫ですか?
A. 併用されている方は多くいらっしゃいます。相互作用が問題になることは多くありません。ただし自己判断で睡眠薬をやめるのは避けてください。減らす場合は記録を持って処方した医師に相談する形になります。
Q. 夜だけ飲んでもいいですか?
A. 勧められません。眠りに向かう漢方薬の多くは、気血を底上げしたり日中の高ぶりを下ろしたりすることで夜に届きます。夜だけにすると1日量が足りず、土台が積み上がりません。
Q. どのくらいで判断できますか?
A. 8週間が最初の区切りです。抑える方向なら2週間から4週間で日中の反応が変わり、補う方向なら1か月から3か月で眠りが安定してきます。眠りより先に日中の疲れ方や食欲が動くので、そちらも記録してください。
まとめ
不眠に用いる漢方薬は複数ありますが、眠れない理由によって選ぶものが正反対になります。高ぶって眠れないなら抑える方向、疲れて眠れないなら補う方向。ここを取り違えると、飲んでも変わりません。
効能効果に不眠症と書かれているかどうかでは選べません。虚弱な体質で神経がたかぶるもの、虚弱体質で血色の悪い人。前置きの条件がまったく違うためです。
いびきが大きい、足がむずむずする、頻尿で起きる、痛みで目が覚める。この4つでは、漢方薬より先に確認が要ります。様子を見ているあいだに時間が過ぎるのは避けたいところです。
眠りに用いる漢方薬の多くは甘草を含みます。2種類を併用すると量が積み上がるため、煎じ薬で1つにまとめるという方法もあります。当薬局では布団の中で何が起きているかを伺ったうえで、体に合わせた煎じ薬をお作りしています。何を選ぶか迷ったときは、公式LINEからお気軽にご相談ください。


