「便秘でもないのに、毎回切れます」「軟膏を塗っても、また同じところが切れます」――切れ痔のご相談は、この2つから始まることが多くあります。
切れ痔は硬い便だけが原因ではありません。勢いのある水様便も、拭く回数の多さも、肛門の皮膚を傷めます。便秘ではないのに切れるという方は、下痢の側を疑う必要があります。
れいわ漢方薬局では、切れ痔のご相談で1日の排便回数を必ず伺います。回数が多いほど、傷が治る時間より作られる回数の方が上回るからです。塗り薬だけでは、この差が埋まりません。
この記事では、切れる場所と仕組み、硬い便と下痢それぞれの経路、治りにくくなる輪、慢性化のサイン、治す順番、使う漢方薬までを扱います。
切れ痔はどこが切れているのか
結論: 切れ痔(裂肛)は、肛門の出口に近い皮膚が裂けた状態です。痛みを感じる場所なので、排便のたびに鋭く痛みます。
痛みを感じる場所にできる
肛門の内側には、歯状線(しじょうせん)と呼ばれる境目があります。ここより奥は痛みを感じない粘膜、手前は痛みを感じる皮膚です。
切れ痔ができるのは、この手前側。だから排便のたびにはっきり痛みます。痛くないのに血が出るのは内側のいぼ痔、痛いのに血は少しなら切れ痔という見分けになります。
出血の量は多くありません。紙に付く程度、便の表面に線状に付く程度が典型です。
決まった場所が切れる
多くの場合、切れる位置は決まっています。肛門の後ろ側、背中に近い位置が最も多く、ここは血流が乏しい場所です。
同じ場所が繰り返し切れるのは、たまたまではありません。血流が乏しく治りにくいうえ、便が通るときに最も張力がかかる位置だからです。
「また同じところが切れました」というお話をよく伺いますが、構造上そうなりやすい場所があるということです。
「体質だから治らないと思っていました」と話される方もいらっしゃいます。実際には場所の問題であって、条件を減らせば治ります。
痛みは排便のあとも続く
切れ痔の痛みには2段階あります。排便の瞬間の鋭い痛みと、そのあと数十分から数時間続くじんとした痛みです。
後者は、肛門の筋肉がけいれんして起きます。痛みで締まり、締まると血流が落ち、治りが遅れる。この仕組みが、切れ痔を長引かせています。
「排便のあと30分は座っていられません」というお話を伺うことがあります。痛みの長さは傷の深さだけでなく、けいれんの強さでも変わります。
硬い便で切れる仕組み
結論: 硬く太い便が通るとき、肛門の皮膚は限界まで引き伸ばされます。一度切れると、次からは同じ場所が裂けやすくなります。
一度に大きく裂ける
便秘で数日出ていない便は、水分を抜かれて硬くなります。これが通るとき、皮膚は急に大きく引き伸ばされます。
1回で深く切れるのが、このタイプの特徴です。出血よりも痛みが強く、排便が怖くなる方が多くいます。
痛いから我慢する、我慢するとさらに硬くなる。この時点で、便秘と切れ痔が互いを悪化させる関係に入ります。
いきむ力も加わる
硬い便を出そうとして強くいきむと、肛門にかかる圧が上がります。皮膚が引き伸ばされた状態でさらに圧がかかるため、裂けやすくなります。
息を止めて力むより、息を吐きながらお腹を膨らませる方が、肛門にかかる圧は下がります。前かがみになり足を少し高くする姿勢も、直腸から肛門への角度をゆるめます。
踏み台を置くだけで変わる方もいます。道具も費用も要らないので、まず試す価値があります。
便秘薬の選び方で変わる
刺激性の下剤は、腸を刺激して押し出します。急に強い便意が来るため、痛みといきみが増えることがあります。
切れ痔があるときは、便に水分を含ませて軟らかくするタイプの方が向きます。出すことより、軟らかくすることを先に置くという考え方です。
刺激性の下剤を長く使っている方は、いきなりやめると出なくなります。軟らかくする薬を重ねてから、少しずつ減らす順番にします。
下痢でも切れる
結論: 勢いのある水様便は、皮膚を繰り返し刺激します。1回の負担は小さくても、回数が多いと治りが追いつきません。
浅い刺激を1日に何度も
硬い便は一度に大きく裂きます。下痢は、浅い刺激を1日に何度も繰り返します。
傷の深さは違っても、行き着く先は同じです。1日1回なら回復が間に合いますが、5回、10回と続くと追いつきません。回復する時間より、傷つく回数の方が多い状態が続くことが原因です。
肛門の皮膚は治りが早い部分です。それでも追いつかないほど回数が多い、という見方をします。
拭く回数が皮膚を削る
見落とされやすいのが、紙で拭く動作です。下痢のときは1回の排便で何度も拭くため、摩擦が増えます。
皮膚が荒れると拭くときに痛み、痛いから力が入る。この繰り返しで切れます。「トイレのたびに紙に血が付くようになりました」というお声は、この段階で伺うことが多いものです。
外出先では負担がさらに増えます。備え付けの紙は硬いことが多く、急いでいるぶん力も入りやすいためです。
便秘ではないのに切れる人
「便秘でもないのに毎回切れます」という方は、この経路を疑います。1日2〜3回の軟便が何年も続いている方は、ご自身ではそれを下痢と呼んでいないことがあります。
体調が悪いわけでもなく、日常になっているためです。ただし、拭く回数と刺激という点では、回数がそのまま効いてきます。
見分けるには、1週間の排便回数を数えます。合計10回を超えているなら、下痢型として扱う方が実態に合います。
治りにくくなる2つの輪
結論: 痛みで筋肉が締まる輪と、痛みで排便を我慢する輪。この2つが重なると、市販薬だけでは抜けにくくなります。
締まると血流が落ちる
切れて痛みが出ると、肛門の筋肉が反射的に締まります。締まると血流が落ち、傷が治りにくくなります。
治らないからまた切れ、また締まる。これが1つ目の輪で、切れ痔がしつこい最大の理由です。軟膏で痛みを抑えるのは、この輪を止める意味があります。
温めて血流を戻すのも同じ目的です。湯船に10分ほど浸かると、筋肉の緊張がゆるみます。
傷が治りにくいのは、動き続ける関節の皮膚がひび割れるのに近い状態だと考えてください。安静にできない場所だからこそ、血流を落とさないことが手当てになります。
我慢すると便が硬くなる
痛いから排便を避ける。すると便が腸にとどまって水分を抜かれ、硬くなります。硬い便でまた切れる。これが2つ目の輪です。
下痢から始まった方でも、この段階で便秘に転じることがあります。下痢と便秘のどちらの側からも、同じ輪に入るということです。
痛みを抑える手当てが先に来るのは、この輪を止めるためでもあります。
2つの輪を同時に止める
温めて血流を戻し、痛みを抑え、便を軟らかくする。この3つを同時に進めると、輪から抜けやすくなります。
どれか1つだけでは足りません。軟膏を塗りながら硬い便を出し続けている方、便通を整えながら冷えたままの方。どちらも途中で止まります。
3つのうち、いちばん早く変化が出るのは温めることです。今日から始められて、2週間で痛みの長さが変わります。
慢性化すると狭くなる
結論: 切れ痔を繰り返すと、傷が硬い組織に変わり、肛門が狭くなることがあります。ここまで進むと薬では戻りません。
便が細くなったら要注意
狭くなってきたサインは、便が細くなることです。以前より明らかに細い便が続いているなら、日数を待たずに相談する段階に入っています。
同時に、出血が減って痛みだけが残ることもあります。傷が治っているのではなく、通り道が狭くなって便との接触が変わっただけということがあります。
出血が減ったから良くなった、と判断しないでください。痛みが続いているなら、状態は進んでいる可能性があります。
3か月を区切りにする
市販薬と生活の見直しで3か月変わらないなら、受診に切り替えてください。狭くなる前なら、手当ての規模は小さくて済みます。
3年間、同じ軟膏を買い続けていたという方もいらっしゃいます。少しでも効いている実感があると、区切りが作れなくなるためです。1か月ぶんの薬代を数えてみると、判断が変わることがあります。
病院でされること
診察は横向きに寝た姿勢で、必要な範囲だけを出して行われます。時間にして数分です。
治療は外用薬と便通を整える薬から始まります。狭くなっている場合は、広げる処置や手術が選択肢に入りますが、多くはそこまで進みません。早く行くほど、薬だけで済む可能性が上がります。
処方される外用薬は、市販薬より成分の幅があります。市販薬で変わらなかった方でも、別の組み立てで動くことがあります。
便秘型と下痢型を見分ける
結論: 切れ痔の手当ては、便秘型か下痢型かで正反対になります。先にどちらかを決めないと、選んだ薬が悪化させます。
2つの型の一覧
見るのは、1週間の排便回数と便の形です。痛みの強さは型を分ける材料になりません。
切れ痔は便秘の人がなるものと思われがちですが、実際には下痢型の方が同じくらいいらっしゃいます。痛みが強いから便秘型、という判断も当たりません。
数えるのは1週間ぶんで足ります。合計が3回以下なら便秘型、14回を超えるなら下痢型。この間は、便の形で決めます。
| 見るところ | 便秘型 | 下痢型 |
|---|---|---|
| 排便回数 | 週3回以下のことが多い | 1日2回以上 |
| 便の形 | 硬い・コロコロ・太い | 軟らかい・形にならない |
| 切れる瞬間 | 出すとき、一度に深く | 拭くとき、繰り返し浅く |
| 出血 | 多め(紙に線状) | 少なめ(にじむ程度) |
| 向く漢方薬 | 乙字湯・麻子仁丸 | 啓脾湯・人参湯 |
| 避けるもの | 刺激性の下剤 | 大黄を含む漢方薬 |
下の2行が入れ替わると悪化します。下痢型に乙字湯を使えば回数が増え、便秘型に止める薬を使えば便が硬くなります。
両方に振れる人もいる
下痢と便秘が入れ替わる方は、両方の負担を受けます。切れて痛み、我慢して硬くなり、その次は下痢になる。この往復がいちばん治りにくくなります。
この場合は、どちらかを止めるのではなく、便の形そのものを安定させる方向に切り替えます。腸の緊張をゆるめる漢方薬が中心になります。
進め方は3段階です。
- 傷を治す時期(2週間): 温めと外用薬で痛みを止める。便通はまだ触らない
- 形を安定させる時期(1〜3か月): 振れ幅を小さくする漢方薬に切り替える
- 維持する時期: 良い形を保ちながら、薬を減らしていく
1を飛ばして便通から入ると、痛みが残ったまま我慢の輪に戻ります。
型は季節と生活で移る
夏は下痢型、冬は便秘型に寄る方が多くいます。同じ方でも半年で入れ替わるため、去年の見立てをそのまま使わない方が合います。
あわせて考えたいのが、生活の変わり目です。転職や引っ越しの前後で型が移ることがあり、この時期に前と同じ薬を続けると合わなくなります。
半年ごとに回数と便の形を数え直す。この習慣があるだけで、選ぶ薬を間違えにくくなります。
治す順番
結論: 温める、痛みを抑える、便通を整える。この3つを同時に進めます。順番ではなく組み合わせです。
温めるのは今日からできる
湯船に10分ほど浸かって温めると、筋肉の緊張がゆるみます。シャワーだけで済ませている方は、ここを変えるだけで治りが変わることがあります。
湯温は40度前後が目安です。42度を超えると刺激になるため、熱くしすぎない方が向きます。
夏場ほど抜けやすい習慣です。冷房で下腹部が冷えている時期こそ、湯船に入る意味があります。
便の形を目標にする
出す回数ではなく、便の形を目標にします。硬すぎず軟らかすぎない、バナナ状の便が理想です。
便秘型なら水分と水溶性の食物繊維を増やし、下痢型なら冷たい飲み物を常温に替えるところから始めます。どちらの方向から来ているかで、やることは正反対になります。
食物繊維は種類で分かれます。水に溶けないタイプを増やすと便の量が増えて硬くなることがあるため、切れ痔の時期は溶けるタイプから増やします。
拭き方を変える
紙でこすると、荒れた皮膚がさらに削れます。押し当てて水分を吸わせる形にすると、摩擦が減ります。
温水洗浄便座は、弱い水圧で数秒にとどめます。強い水圧を長く当てると、皮膚を守っている脂が落ちて乾き、かえって荒れます。
洗ったあとは押さえて水気を取り、濡れたままにしないことも大切です。乾かす手順まで含めて1組にします。
切れ痔に使う漢方薬
結論: 便秘型なら乙字湯、乾いて硬い便なら麻子仁丸、冷えと出血が中心なら芎帰膠艾湯。下痢型では選ぶものが変わります。
乙字湯|便秘型の切れ痔に
乙字湯(おつじとう)は、痔に使う漢方薬の代表です。厚生労働省の一般用漢方製剤承認基準では、その効能を「痔核(いぼ痔)、きれ痔、便秘、軽度の脱肛」としています。
大黄(だいおう)を含み、便通をつける働きがあります。便秘傾向の方に向く組み立てなので、下痢が続いている方にそのまま使うと回数が増え、切れ痔も悪化します。買う前に便通の状態を薬剤師に伝えておくと確実です。
麻子仁丸|乾いて硬い便のとき
麻子仁丸(ましにんがん)は、腸を潤して便を出しやすくする漢方薬です。コロコロした硬い便、乾燥が強い方に向きます。
刺激性の下剤と違い、腸をたたいて動かすのではなく、便に水分を保たせる働きです。急な強い便意が来にくいため、切れ痔があるときに使いやすい1つです。
高齢の方で乾燥が強い場合は、潤腸湯(じゅんちょうとう)を選ぶこともあります。
芎帰膠艾湯|冷えがあり出血が続くとき
芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)は、出血に用いる漢方薬です。厚生労働省の同じ承認基準では、体力中等度以下で冷え症、出血傾向があるものの「痔出血」などに用いるとされています。
冷えがあり、貧血気味で、出血が続くという方に向きます。大黄を含まないため、下痢傾向の方にも使いやすい漢方薬です。
下痢が背景にあるとき
下痢で切れているなら、痔の薬より先に下る回数を減らします。啓脾湯(けいひとう)は、やせて顔色が悪く、食が細く、何年も軟便が続く方に向きます。
冷えが強く明け方に下るなら真武湯(しんぶとう)、みぞおちが冷えて冷たいものですぐ下るなら人参湯(にんじんとう)を選びます。1日5回が2回になれば、肛門が受ける刺激は半分以下になります。
改善症例|切れ痔が繰り返さなくなったケース
結論: 便秘型と下痢型では、やることが正反対になります。当薬局では便の形を伺ってから順番を決めています。
ケース1:30代女性・便秘で毎回切れる
3日に1回しか出ず、そのたびに鋭く痛んで紙に血が付く。この状態が1年続いていました。市販の軟膏を塗ると数日は楽になるものの、次の排便でまた切れるとのことです。
便は硬くコロコロしており、乾燥の型と判断しました。麻子仁丸を就寝前に開始し、湯船に10分浸かる習慣と、踏み台を使う姿勢をお伝えしています。
2週間で便が軟らかくなり、1か月後には切れる回数が月1回程度に。3か月後には痛みが出なくなりました。出す薬ではなく潤す薬に替えたことが、いちばん効いた部分です。
ケース2:40代男性・下痢で切れ続けていた
「便秘でもないのに、毎回切れます」。最初にそう話してくださった方です。1日3〜4回の軟便が5年続き、そのたびに拭くときに痛むとのことでした。
便秘の薬を勧められた経験があり、飲んだらさらに悪化したそうです。下痢の側が原因なので、当然の結果です。啓脾湯を朝晩の2回で開始し、冷たい飲み物を常温に替え、拭き方を押さえる形に変えていただきました。
1か月で排便が1日1〜2回に減り、2か月後には切れなくなりました。痔の薬を1つも使っていないのに治った、というのが本人にとって意外だったそうです。
よくある質問
Q. 便秘ではないのに切れるのはなぜですか?
A. 下痢や軟便が原因のことがあります。勢いのある水様便は皮膚を繰り返し刺激し、拭く回数も増えるため、1回の負担は小さくても回数で治りが追いつきません。1日2〜3回の軟便が続いているなら、この経路を疑ってください。
Q. 軟膏を塗っても治らないのですが、なぜですか?
A. 傷を作り続けている側に手が入っていない可能性があります。軟膏は痛みと炎症を抑えますが、硬い便や下痢そのものは変えません。便通を整えることと、湯船で温めることを同時に進めてください。
Q. 乙字湯を飲めばよいのでしょうか?
A. 便秘傾向の切れ痔には向きます。ただし大黄を含み便通をつける働きがあるため、下痢が続いている方には向きません。むしろ回数が増えて悪化します。便の形を先に確かめてから選んでください。
Q. どのくらいで治りますか?
A. 便通が整えば、2週間から1か月で痛みが軽くなる方が多くいます。ただし繰り返している期間が長いほど時間がかかります。3か月使って変わらないなら、慢性化を確かめる意味で受診に切り替えてください。
Q. 便が細くなってきました。関係ありますか?
A. 慢性化して肛門が狭くなっているサインの可能性があります。切れ痔を繰り返すと傷が硬い組織に変わり、通り道が狭くなることがあります。この段階では薬で戻せないため、日数を待たずに受診してください。
まとめ:便の形を先に決める
切れ痔は、硬い便でも水様便でも起こります。どちらの側から来ているかを決めないと、手当てが逆になります。
- 切れるのは痛みを感じる場所: 痛いのに出血は少ない、が切れ痔の型
- 下痢でも切れる: 浅い刺激を1日に何度も。拭く回数も原因になる
- 2つの輪で長引く: 痛みで筋肉が締まる輪と、我慢して便が硬くなる輪
- 3つを同時に: 温める、痛みを抑える、便の形を整える
- 漢方薬は便通で選ぶ: 便秘型は乙字湯や麻子仁丸、下痢型は啓脾湯。逆にすると悪化する
最後に、本文で触れなかったことを1つ。1日の排便回数を1週間ぶん数えてください。便秘か下痢かを自己申告で決めると、途中で方向を間違えます。回数と便の形が分かれば、乙字湯を選ぶか啓脾湯を選ぶかが決まります。切れ痔の相談で最初に伺うのは、痛みの強さではなくこの2つです。
「便秘ではないのに切れる」「軟膏を塗っても繰り返す」という方は、れいわ漢方薬局にご相談ください。便の形と排便回数を伺ったうえで、体質に合う漢方薬と、手を入れる順番をご提案します。


