「病院に行きたくないので、漢方薬で何とかなりませんか」「乙字湯を飲んでいますが、変わりません」――痔と漢方薬について、この2つはよく伺うご相談です。
漢方薬が向くのは、軽いいぼ痔と切れ痔、そして痔を繰り返す体質の側です。一方で、痔瘻とすでに脱出している内痔核は手術が原則で、漢方薬で管が閉じることはありません。
れいわ漢方薬局では、まずどの種類の痔かを伺っています。種類によって、漢方薬でできることが大きく変わるためです。
この記事では、漢方薬にできることとできないこと、症状別の選び方、市販薬との違い、飲む期間、下痢が続く方の痔までを扱います。
痔に漢方薬は使えるのか
結論: 軽いいぼ痔と切れ痔には使えます。ただし痔瘻と進んだ脱出には届かず、この2つは手術が原則になります。
できることとできないこと
漢方薬が扱えるのは、うっ血、出血、痛み、そして痔を作る土台の側です。血の巡りを助け、便通を整え、体力の落ちを底上げする方向で働きます。
一方で、すでにできてしまった管や、大きく脱出した組織を元に戻すことはできません。痔瘻は肛門の内側と皮膚をつなぐ管ができた状態で、これは薬では閉じません。
この線引きを先にお伝えするのは、期待の置き場所を間違えると時間を失うためです。手術が要る段階で漢方薬を続けると、その間に進みます。
塗り薬・坐薬との違い
軟膏や坐薬は、患部に直接届いて炎症と痛みを抑えます。症状が出ているその場に対しては、こちらの方が早く働きます。
漢方薬は飲んで全身に働くため、患部だけを狙う形にはなりません。そのかわり、便通、冷え、体力といった土台の側に手が入ります。
どちらが優れているという話ではなく、役割が違います。急な痛みには塗り薬、繰り返す体質には漢方薬という使い分けが現実的です。
漢方薬が合う方
痔を繰り返している、市販薬で治まってもまた出る、冷えや便通の乱れが土台にある。この形の方に向きます。
手術を勧められたが受けたくない、という理由だけで選ぶのは向きません。必要な手術を先送りすることになるためです。
年に何度も繰り返しているなら、そのたびに薬を使うより土台に手を入れる方が、結果として費用も時間も少なく済みます。
痔の種類と漢方の当たり方
結論: いぼ痔と切れ痔には使えます。痔瘻は手術が原則で、漢方薬は術後の体力を支える役割にとどまります。
種類ごとの見取り図
同じ痔でも、漢方薬でできることが違います。下の表が目安です。
痔は1種類の病気と思われがちですが、成り立ちの違う3つの状態をまとめた呼び名です。自分がどれに当たるかで、薬を飲んで待ってよいのか、外科に行く場面なのかが分かれます。
| 種類 | 主な症状 | 漢方薬の当たり方 |
|---|---|---|
| いぼ痔(内痔核) | 出血、脱出 | 軽い段階なら使える。進んだ脱出は手術 |
| いぼ痔(外痔核) | 腫れ、痛み | 急な痛みは塗り薬が先。繰り返すなら体質から |
| 切れ痔 | 排便時の痛み、紙に付く血 | 便通を整える方向で使える |
| 痔瘻 | 膿、腫れ、発熱 | 手術が原則。漢方薬では管は閉じない |
1行目と3行目が漢方薬の主な守備範囲です。4行目は、診断がついた時点で外科の話になります。
いぼ痔と切れ痔
いぼ痔は、肛門の血管がうっ血して膨らんだ状態です。切れ痔は、硬い便や勢いの強い下痢で粘膜が裂けた状態を指します。
どちらも、便通と血の巡りという土台が共通しています。そのため漢方薬では、痔そのものだけでなく便の状態から組み立てます。
硬い便で切れるケースと、勢いの強い下痢で切れるケースでは、同じ切れ痔でも選ぶ薬が反対側になります。便が硬いか軟らかいかで方向が変わるということです。
出血が主か、痛みが主か。ここで選ぶ薬が変わります。
痔瘻は手術が原則
痔瘻は、肛門の奥に膿がたまり、それが皮膚まで通り道を作った状態です。膿が出て一時的に楽になっても、管は残ります。
この管は自然には閉じず、薬でも閉じません。放置すると枝分かれして広がり、手術の範囲も大きくなります。
漢方薬の役割があるとすれば、手術の前後で体力を支える側です。膿がたまりやすい体質そのものに手を入れる形になります。
痔に使う代表的な漢方薬
結論: 乙字湯が代表ですが、便秘型の方に向く組み立てです。冷えと出血が主なら芎帰膠艾湯、体力の落ちなら当帰建中湯という別の選び方になります。
乙字湯|便秘傾向のいぼ痔・切れ痔
乙字湯(おつじとう)は、痔に使う漢方薬として最も知られています。厚生労働省の一般用漢方製剤承認基準では、その効能を「痔核(いぼ痔)、きれ痔、便秘、軽度の脱肛」としています。
体力が中等度以上で、便が硬く、便秘傾向のある方に向く組み立てです。大黄(だいおう)が含まれ、便通をつける働きがあります。
このため、下痢が続いている方にそのまま使うと回数が増えます。痔があるからという理由だけで選ぶと、逆に働くことがあります。
芎帰膠艾湯|冷えと出血が続くとき
芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)は、出血に用いる漢方薬です。同じ承認基準では、体力中等度以下で冷え症、出血傾向があるものの「痔出血」などに用いるとされています。
冷えがあり、貧血気味で、出血が長く続いているという方に向きます。乙字湯が便秘寄りなのに対し、こちらは冷えと出血が前に出ている方が対象です。
当帰建中湯|痛みと体力の落ちがあるとき
当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)は、体力が落ちていて血色が優れず、痛みを伴う方に用います。下腹部の痛みや痔の痛みが対象に含まれます。
体力が中等度以上の方に向く乙字湯とは、逆側の位置づけです。疲れやすく、冷えがあり、痛みが続いているという形に合います。
補中益気湯|繰り返して力が落ちているとき
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、体力の落ちを底上げする方向の薬です。脱出を繰り返す、治りが遅いという方に使うことがあります。
痔そのものを狙うのではなく、支える力の側から入るという考え方です。疲れやすく、食欲も落ちているという方に向きます。
桂枝茯苓丸|うっ血が強いとき
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は、血の巡りの滞りに用います。肛門周囲のうっ血が強く、腫れて痛むという形で選ばれることがあります。
比較的体力のある方に向きます。のぼせがあり、下半身は冷えるという方に合うことがあります。
症状別の選び方
結論: 出血、痛み、脱出、繰り返し。どれが主かで方向が決まります。痔という病名だけでは選べません。
出血が主のとき
紙に付く、便器が赤くなる。出血が続いているなら、冷えと貧血の有無を確かめます。
冷えがあるなら芎帰膠艾湯という方向です。便が硬くて切れているなら、便通を整える側から入る形になります。
出血が長く続くと貧血が進みます。だるさや動悸が出てきているなら、痔だけの問題ではなくなっています。
また、痔だと思っていた出血が別の原因だったというケースもあります。黒っぽい血が混じる、便に血が練り込まれているという場合は、先に消化器内科で確かめる順番になります。
痛みが主のとき
排便のたびに痛む、座っていられない。急な痛みには、まず塗り薬や坐薬で炎症を抑える方が早くなります。
漢方薬は、その痛みを繰り返させない側で使います。体力が落ちて痛みが続いているなら当帰建中湯、うっ血が強く腫れているなら桂枝茯苓丸という選び方です。
痛みが強く、発熱を伴う場合は痔瘻の入口である膿瘍を考えます。この場合は薬ではなく、その日のうちの受診になります。
脱出が主のとき
排便のときに出てくる、押し戻さないと入らない。この段階になると、漢方薬でできることは限られます。
指で押し戻す必要がある段階なら、外科での相談が先になります。漢方薬は、繰り返しやすい体質の側を支える役割にとどまります。
手術と聞くと入院を思い浮かべる方が多いのですが、日帰りで済む方法もあります。段階によって選べる手術が変わるため、早い時期ほど負担は軽くなります。
自然に戻る程度なら、便通を整えることでいきむ回数を減らす手が働きます。
繰り返すとき
年に何度も出る、市販薬で治まってもまた出る。この形は、痔そのものより土台の側に原因があります。
便通、冷え、体力、座っている時間。この4つのどれが自分に当てはまるかを見て、そこから選びます。漢方薬が最も向くのはこの場面です。
痔は、いわば水はけの悪い土地にできる水たまりのようなものです。水たまりをその都度かき出しても、土地の側が変わらなければまた同じ場所にたまります。
市販の漢方薬と煎じ薬の違い
結論: 同じ名前の処方でも、生薬の量と形が違います。飲んでも変わらないという場合、型ではなく量が足りていないことがあります。
エキス剤と煎じ薬
ドラッグストアで買える漢方薬は、多くがエキス剤です。煮出した成分を粉や錠剤にしたもので、持ち運びやすく飲みやすいという利点があります。
煎じ薬は、生薬をそのまま煮出して飲む形です。手間はかかりますが、香りや成分が損なわれにくく、量の調整もしやすくなります。
当薬局で煎じ薬を扱っているのは、この調整の幅があるためです。同じ処方でも、体質に合わせて配分を変えられます。
量の違い
市販のエキス剤は、幅広い方が安全に使えるよう量が控えめに設定されているものがあります。飲んでも変わらないという場合、量が足りていないことがあります。
同じ乙字湯でも、製品によって1日量の生薬の量が違います。箱の裏の記載を比べると、その差が分かります。
自己判断で市販薬を2倍飲むという形は避けます。量を増やすなら、専門家に相談したうえで組み立てる順番です。
選び方
まず市販薬で試すという入り方は現実的です。2週間から1か月続けて変化を見ます。
変わらないなら、量が足りないのか、型が合っていないのかを切り分けます。同じものを漫然と続けるより、この時点で見立てを見直す方が早く終わります。
切り分けの目安は、まったく何も変わらないか、少しだけ動いたかです。少しでも動いているなら型は合っていて量の問題、何も動かないなら型から見直す形になります。
飲む期間と見きわめ
結論: 出血や痛みなら2週間、体質から動かすものは1〜3か月が目安です。便通が安定してから痔の症状が減るという順番をたどります。
どのくらいで変化が出るか
出血や痛みといった症状に対しては、2週間ほどで変化が出ることがあります。まず回数や量が減る形で現れます。
完全に消えるかどうかで判断すると、途中の変化を見落とします。紙に付く血の量が減った、痛む日が週4日から2日になった。この段階で方向は合っています。
繰り返す体質の側は、1〜3か月を1区切りとして見ます。便通が安定してから痔の症状が減るという順番をたどることが多くなります。
年単位で繰り返している方ほど、動くまでに時間がかかります。
続ける期間
症状が消えたあとも、しばらく続けるかどうかは体質の側で判断します。便通が安定していないうちにやめると、戻ることがあります。
目安は、形のある便が2〜3週間続いてからです。症状が消えた翌日にやめるという形は、条件が元に戻るだけになります。
やめ方も一度にではなく、量を半分にして2週間見るという段階を踏みます。戻る兆しが出たらそこで止めれば、また最初からやり直す手間がかかりません。
合わないサイン
飲んでお腹が下る、胃がもたれる、発疹が出る。この場合は続けずに相談する場面です。
乙字湯で下痢になるのは、大黄の働きによるものです。これは合っていないというより、選ぶ薬が違うということになります。
飲み始めてすぐに出た変化か、しばらく経ってから出たものかでも判断が変わります。開始から3日以内なら、その薬による反応と考えて差し支えありません。
下痢が続く方の痔
結論: 下痢でも痔になります。この場合、便秘向けの薬を使うと悪化するため、順番が逆になります。
下痢でも痔はできる
痔は硬い便で起きるものと思われがちですが、下痢でも起きます。勢いの強い便が粘膜を刺激し、拭く回数も増えるためです。
1日に何度も拭くこと自体が、皮膚を傷めます。切れ痔が治らないまま繰り返されると、慢性の形になります。
下痢が続いている方の痔では、痔そのものより下痢の側から手を入れる順番になります。
痔瘻のリスク
下痢が続くと、肛門の小さなくぼみに便が入り込みやすくなります。ここから細菌が入って膿がたまると、痔瘻の入口になります。
痔瘻は下痢が続いている方に多いことが知られています。便秘の方の痔とは、成り立ちが違うということです。
肛門の周りが腫れて痛む、熱が出る。このサインがあれば、漢方薬の話ではなく外科の話になります。
腸から整える
下痢と痔が同時にあるなら、腸の側から組み立てます。便の形が整えば、肛門への刺激も減ります。
この場合、乙字湯は向きません。便通をつける働きが下痢を強めるためです。下痢の型に合う薬を選ぶ順番になります。
冷えて水っぽい便なら温める方向、腹痛と残便感があるなら腸の緊張をゆるめる方向。どちらのケースでも、痔の薬という枠から一度離れて選び直します。
漢方薬と一緒にやること
結論: 薬だけでは土台は変わりません。便通、いきみ方、座っている時間の3つに同時に手を入れます。
排便のときの姿勢
いきむ時間が長いほど、肛門への圧がかかります。次の順で見直すと、いきみが減ります。
- 足台を使う: 20センチ前後の台に足を乗せ、前かがみの姿勢を作る
- 時間を決める: 便座に座るのは3分まで。出なければ一度立つ
- スマートフォンを持ち込まない: 座っている時間が延びる最大の原因になる
3分で出ないものは、10分座っても出ないことがほとんどです。待つ時間そのものが負担になります。
座っている時間を切る
デスクワークでは、肛門周囲がうっ血し続けます。1時間ごとに立ち上がるだけで、この滞りが減ります。
円座クッションは、かえって圧を集めることがあります。痛みが強いときの一時的な使用にとどめ、常用は避ける形が無難です。
長距離の運転や、長時間の会議が続いた翌日に悪化するという方は、この経路が中心です。
温めることの位置づけ
肛門周囲を温めると血の巡りが助けられ、痛みが軽くなります。入浴が最も手軽で、40度前後の湯に10分が目安です。
ただし、腫れて熱を持ち、発熱を伴う場合は温めません。膿がたまっている段階では、温めることで広がることがあります。この見分けは重要です。
痛みの質が違います。じんわり痛むなら温めてよい段階、ずきずきと脈打つように痛むなら受診の段階です。
改善症例|漢方薬で落ち着いたケース
結論: 痔の種類と、便通や体力という土台の両方を見てから選ぶ形が中心です。当薬局での実例を2つ挙げます。
ケース1:50代男性・繰り返すいぼ痔
年に3〜4回いぼ痔が出て、そのたびに市販の坐薬を使っているという状態でした。便が硬く、デスクワークで座っている時間が長いというお話です。
便秘型と見立て、乙字湯から開始。あわせて、朝の水分と、1時間ごとに立ち上がることをお願いしました。
2か月で便の形が安定し、その年は1度も出ていません。坐薬を使う回数が減ったことで、症状が出る前に気づけるようになったとのことです。
ケース2:30代女性・下痢と切れ痔
1日3〜4回の軟便が続き、切れ痔が治らないというご相談。市販の痔の薬を塗っても、また切れるという繰り返しでした。乙字湯を自分で買って飲んでいたところ、下痢が増えたそうです。
下痢が土台にあると見立て、乙字湯はいったん外しました。腸の側から組み立て直し、便の形が整うことを先に置いています。
1か月で便が1日1〜2回になり、そこから切れ痔の出血も止まりました。痔の薬をやめたら痔が治ったという、順番が逆だった例です。
よくある質問
Q. 痔に漢方薬は効果がありますか?
A. 軽いいぼ痔と切れ痔、そして繰り返す体質には使えます。ただし痔瘻と、押し戻さないと入らない段階の脱出は手術が原則です。この2つは漢方薬では届かないため、種類を先に確かめる順番になります。
Q. 乙字湯を飲めばよいのでしょうか?
A. 便秘傾向のいぼ痔・切れ痔には向きます。ただし大黄が含まれ便通をつける働きがあるため、下痢が続いている方には向きません。冷えと出血が主なら芎帰膠艾湯、体力が落ちて痛むなら当帰建中湯という選び方になります。
Q. 市販の漢方薬と煎じ薬はどう違いますか?
A. 同じ処方でも、生薬の量と形が違います。市販のエキス剤は幅広い方が安全に使えるよう量が控えめなものがあり、変化が出ないときは量が足りていないことがあります。煎じ薬は体質に合わせて配分を調整できます。
Q. どのくらいで変化が出ますか?
A. 出血や痛みなら2週間ほどで回数や量に変化が出ることがあります。繰り返す体質の側は1〜3か月が1区切りです。便通が安定してから痔の症状が減るという順番をたどることが多くなります。
Q. 手術を避けるために漢方薬を使えますか?
A. 必要な手術の代わりにはなりません。痔瘻は管が残るため、薬では閉じません。放置すると枝分かれして手術の範囲が広がります。手術が要る段階かどうかは、まず肛門科で確かめる順番になります。
まとめ:種類を確かめてから選ぶ
痔に漢方薬を使うときは、どの種類かと、何が主症状かの2つを先に決めます。痔という病名だけでは薬は選べません。
- 漢方薬が向く: 軽いいぼ痔、切れ痔、繰り返す体質
- 漢方薬では届かない: 痔瘻、押し戻す段階の脱出。この2つは手術が原則
- 代表的な薬: 便秘型は乙字湯、冷えと出血は芎帰膠艾湯、体力の落ちは当帰建中湯
- 下痢が続く方: 乙字湯は向かない。腸の側から整える順番
- 期間の目安: 症状には2週間、体質には1〜3か月
最後に、本文で触れなかったことを1つ。痔の薬を飲み始めたら、便の形も一緒に記録してみてください。痔の症状だけを見ていると、良くなっているかの判断が主観に寄ります。便が硬いか軟らかいかは毎日変わるため、そちらの方が先に動きます。土台が動いていれば、痔の側も後から付いてきます。
「乙字湯を飲んでいるが変わらない」「下痢と痔が同時にある」という方は、れいわ漢方薬局にご相談ください。痔の種類と便の状態を伺ったうえで、体質に合う漢方薬をお伝えします。


