「良いと言われるものを試しましたが、かえって悪くなりました」「食べられるものが年々減っています」――過敏性腸症候群(以下「IBS」)の食事について、この2つはよく伺うご相談です。
食事の見直しで最も多い失敗は、外すことばかり進めて戻す作業をしないことです。低FODMAPという方法も、減らす段階と戻す段階の2つで1組になっています。
れいわ漢方薬局では、食事のご相談で「いま食べられるものの数」を先に伺います。減りすぎている方には、外す話より戻す話から始めるためです。
この記事では、食事で変わる範囲、低FODMAPの中身、3段階の進め方、型別の食べ方、外食での選び方までを扱います。
食事で変わる部分と変わらない部分
結論: 食事の見直しで軽くなる方は多くいますが、それだけで消えるものではありません。腸が過敏になっている理由の一部にしか届かないためです。
引き金は減らせる
発酵しやすい糖質を減らすと、ガスと張りが軽くなります。腸に届く刺激が減るためで、この部分は食事で確かに変わります。
海外の研究でも、この方法で症状が軽くなる方が一定数いると報告されています。試す価値はある方法です。
特にガスと張りが中心の方では、変化が分かりやすく出ます。下痢型でも便秘型でも試せますが、期待できる幅は型によって違います。
過敏そのものは残る
一方で、腸が刺激に過敏に反応するという性質は、食事だけでは変わりません。緊張したときに動きが速くなる経路も、食べ物では止まりません。
食事は引き金を減らす手であって、体質を変える手ではない。この線引きを持っておくと、期待の置きどころを間違えません。
だからこそ、食事の見直しと体質を整えることは別に進めます。片方だけでは、どこかで止まります。
良いとされるものが合わないことがある
腸活としてよいとされる食品が、IBSでは合わないことがあります。ヨーグルト、玉ねぎ、豆類、玄米。いずれも一般には勧められるものです。
「体にいいと思って続けていました」というものが原因だった、というケースは珍しくありません。良いとされるものほど、疑いの外に置かれます。
毎朝のヨーグルト、健康のための玄米、腸活の豆類。続けている期間が長いほど、原因の候補から外れていきます。
低FODMAPとは
結論: 小腸で吸収されにくく、大腸で発酵しやすい糖質を減らす方法です。オーストラリアの大学で組み立てられ、IBSの症状を軽くする方法として国内でも紹介されています。
対象になる食品
FODMAPは、発酵しやすい4種類の糖質の頭文字をとった呼び方です。特定の栄養素ではなく、性質でまとめた分類になります。
| 種類 | 多く含む食品 | 代わりに選べるもの |
|---|---|---|
| 果糖 | りんご、はちみつ、マンゴー | バナナ、みかん、ぶどう |
| 乳糖 | 牛乳、ヨーグルト、アイス | 乳糖を減らした牛乳、硬いチーズ |
| オリゴ糖 | 小麦、玉ねぎ、にんにく、豆類 | 米、じゃがいも、にんじん |
| 糖アルコール | 無糖ガム、糖類ゼロの菓子 | 通常の砂糖を使ったもの |
日本の食生活では、小麦と玉ねぎと乳製品が中心になります。これらを完全に外すのは現実的でないため、量を減らす形から始めます。
右の列は、代わりに選べるものです。外すだけでなく置き換えを用意しておくと、続けやすくなります。
全部を外す必要はない
対象が広いため、すべてを外そうとすると食べられるものがほとんど残りません。実際には、自分に合わないものは数品目に絞られることがほとんどです。
目的は、その数品目を見つけることです。すべてを外し続けることではありません。この点を外すと、制限だけが残ります。
実際、当薬局でご相談を受けた方でも、合わなかったのは1〜2品目だけということがよくあります。
誰にでも合うわけではない
3週間試して症状が変わらない方もいます。その場合、この方法は合っていないと判断して、別の方向を探します。
食事以外の引き金――緊張、冷え、睡眠不足――が中心の方では、内容を変えても動きません。合わなかったこと自体が、判断の材料になります。
休日には症状が出ないという波があるなら、緊張の側が中心です。この場合、食事を変えても変化は小さくなります。
3段階の進め方
結論: 除去・再導入・調整の3段階で進めます。除去は3週間、再導入は1品目ずつ3日。2段階目を飛ばすと制限が長期化し、食べられるものだけが減っていきます。
手順は3つ
順番を守らないと、食べられるものだけが減っていきます。
- 除去(3週間): 対象の食品を減らし、症状が軽くなるかを見る。ここで変わらなければ、この方法は合っていない
- 再導入(1品目ずつ・各3日): 1つ戻して3日様子を見る。症状が出た品目だけを控える対象にする
- 調整: 合わないと分かったものだけを減らし、残りは通常どおり食べる
2の段階を飛ばして1で止まってしまう方が最も多く、これが制限の長期化につながります。
除去の期間は3週間
長すぎても短すぎても判断できません。3週間は、症状の波を1回か2回またぐ長さとして選ばれています。
この間、完全に外す必要はありません。量を半分にする、頻度を減らす。この程度でも変化が見えることがあります。
完璧にやろうとすると、外食も付き合いもできなくなります。続けられる範囲でよい、という前提で始める方が3週間もちます。
再導入は1品目ずつ
戻すときは、1つずつ、3日ずつ。同時に複数を戻すと、悪化したときにどれが原因か分かりません。
3日というのは、遅れて出る反応まで見るための長さです。食後すぐに出る方もいれば、翌日に出る方もいます。
量も少なめから試します。いきなり普段の量に戻すと、合うかどうかではなく量の問題になってしまいます。
戻して問題なければ、その品目は自由に食べて構いません。これが2段階目の目的です。
型別に見る食べ方
結論: 下痢型・便秘型・ガス型で、注意する点が変わります。同じ食品でも影響の出方が違います。
下痢型
冷たいもの、脂の多いもの、カフェイン、アルコール。これらは腸の動きを速める方向に働きます。
低FODMAPより先に、温度と脂の量を見る方が変化が早いことがあります。冷たい飲み物を常温に替えるだけで回数が減る方は少なくありません。
食物繊維は、水に溶けるタイプから増やします。溶けないタイプを増やすと刺激になることがあります。
便秘型
水分と水溶性の食物繊維を増やします。りんご、バナナ、いも類、オートミールがこちらです。
ただし、りんごは果糖を多く含むため、低FODMAPでは対象になります。便秘型では役に立ち、ガス型では張りを強める。同じ食品でも型によって扱いが変わる例です。
不溶性の食物繊維を増やすと、便の量は増えますが硬くなることがあります。痛みを伴う便秘では、増やしすぎない方が向きます。
ガス型
発酵しやすい糖質の影響が最も出やすい型です。豆類、玉ねぎ、小麦、乳製品。この4つから試すと当たりやすくなります。
ただし、飲み込む空気の量を減らす方が先に変化が出ることも多くあります。早食い、炭酸飲料、ガムの習慣を見直すところから始める方が、食事を制限するより早く済みます。
無糖ガムは、空気と甘味料の両方で不利になります。ガス型では最初に外す候補です。
外食とコンビニでの選び方
結論: 全部やめる必要はありません。選べるものを先に決めておくと、店の前で迷わなくなります。
和食なら選択肢がある
うどん、おかゆ、雑炊、湯豆腐、白身魚の煮つけ、焼き魚定食。米を主食にした和食は、低FODMAPの考え方と相性がよくなります。
避けるのは、揚げ物と辛いものと生ものの3つ。この3つを外せば、多くの店で食べられるものが残ります。
玉ねぎとにんにくは、和食でも下味に使われていることがあります。気になる場合は、シンプルな調理のものを選びます。
コンビニで選ぶなら
おにぎり、うどん、味噌汁、豆腐、バナナ、ゆで卵。この6つは選びやすい部類に入ります。
冷たいサラダより、温められるものを選ぶ方が向きます。電子レンジが使えるなら、温めるだけで負担が変わります。
サンドイッチやパスタは小麦が中心です。ガス型で小麦が合わないと分かっている方は、おにぎりに替えるだけで違います。
飲み物も見直します。氷入りのアイスコーヒーを常温のお茶に替えるだけで、午後の症状が変わる方がいます。
予定に合わせて調整する
毎日制限するより、翌日に予定がある日だけ内容を控える形の方が続きます。
飲み会が続く時期は、脂とアルコールが重なるため症状も出やすくなります。全部断る必要はなく、翌日の予定で決めるという使い方で足ります。
席では、揚げ物を1品減らして温かい料理に替えるだけでも違います。飲み物も、途中でお茶に切り替える形が現実的です。
制限を長く続けない
結論: 減らしたままだと栄養が偏り、腸内細菌の種類も減ります。長い目で見ると、かえって不利になります。
食べられるものが減っていく
下痢のたびに1つずつ外していった結果、白いご飯とうどんだけになっていた。当薬局でも、こうしたご相談を受けたことがあります。
この状態からは、減らす方向では戻れません。逆に1品目ずつ戻す作業が必要になり、そのぶん時間もかかります。
戻すときも3日ずつです。焦って一度に戻すと、どれが合わないのか分からなくなり、また全部を外すことになります。
腸内細菌にも影響する
発酵しやすい糖質は、腸内細菌の栄養にもなっています。長く減らし続けると、菌の種類が減ることが知られています。
短期間なら問題になりませんが、年単位で続けるものではありません。3週間試して、戻す。この形が守られていれば、この心配は要りません。
腸内細菌の種類が減ると、かえって発酵の質が落ちることも指摘されています。制限が長引くほど、目的から遠ざかります。
体重と栄養を見る
制限が長引くと、体重が落ちてきます。数か月で3キロ以上減っているなら、食事の見直しより先に受診が必要な段階です。
体重は自分では気づきにくい変化です。健康診断の記録が残っていれば、そこと比べてみると判断しやすくなります。
疲れやすさ、貧血、髪や爪の変化。こうしたサインが出ていれば、栄養が足りていません。
この段階では、食事の内容より量を戻すことが先になります。食べられるものを増やす作業に切り替えます。
食事と合わせる漢方薬
結論: 食事だけで戻らないときは、体質に合う漢方薬を足します。両方から進めると変化が早くなります。
桂枝加芍薬湯|腹痛と残便感があるとき
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)は、お腹の緊張をゆるめる漢方薬です。厚生労働省の一般用漢方製剤承認基準では、その効能を「腹部膨満感のある次の諸症:しぶり腹、腹痛、下痢、便秘」としています。
食事を整えても腹痛が残るなら、この方向を足します。IBSの相談で最も出番が多い1つです。
半夏瀉心湯|においとガスが強いとき
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は、温める生薬と冷ます生薬を同時に含む漢方薬です。厚生労働省の同じ承認基準では、みぞおちがつかえた感じがあり「腹が鳴って軟便または下痢の傾向のあるもの」に用いるとされています。
脂っこい食事やお酒のあとに悪化する方に向きます。食事を減らす前に、この方向で楽になることもあります。
啓脾湯|食が細く、軟便が続くとき
制限を続けて食べる量が減っている方には、補う方向の漢方薬が要ります。啓脾湯(けいひとう)は、やせて顔色が悪く、食が細い方に向きます。
食べられる量が増えると、吸収する力も戻ります。制限から抜けるための後押しとして使うという考え方です。
効き方はゆるやかで、3か月ほどかけて便の形が戻ります。食事の見直しと並行して進めると、戻す作業も進めやすくなります。
記録の付け方
結論: 書くのは、食べたもの・時刻・症状の3つです。細かく書こうとすると3日で止まります。
3つだけ書く
何を食べたか、何時に食べたか、症状が出たか。この3つで足ります。
痛みの強さを10段階で表す、材料を全部書く。こうした細かい記録は続きません。続く形にすることの方が、精度より大切です。
スマートフォンのメモに1行ずつ足す形が、最も続きます。ノートを買うところから始めると、それだけで数日たってしまいます。
「12:30 パスタ / 18時 張り」。この程度で十分に読み取れます。
時間差を計算に入れる
食べてすぐ出るとは限りません。発酵しやすい糖質では、食後3〜6時間、ときには翌日に出ることもあります。
当日の食事を疑って見つからないときは、前日にさかのぼると答えがあることがあります。時刻を書いておくと、この計算ができます。
食後すぐに張るなら飲み込んだ空気、数時間後なら発酵の側。時間差そのものが、原因を分ける手がかりになります。
症状が出なかった日も残す
出た日だけを書くと、悪い日ばかりが記録に残ります。出なかった日は空欄でよいので、日付だけは埋めておきます。
空欄の数が、そのまま良い日の数になります。1か月ぶん並べると、良くなっているかどうかが見えます。
週に何日が良い日か、という数え方に変えると、続ける判断がしやすくなります。当薬局でも、この形で記録をお願いしています。
改善症例|食事の見直しが進んだケース
結論: 外す作業より、戻す作業の方が難しくなります。当薬局では戻す順番を決めてご提案しています。
ケース1:30代女性・食べられるものが減っていた
3年前から下痢のたびに1つずつ外していき、白いご飯とうどんだけになっていた方でした。体重は5キロ落ち、疲れやすさも出ています。
外す方向では戻れない状態なので、1品目ずつ戻す形に切り替えました。豆腐、白身魚、煮た野菜の順で、各3日ずつ。あわせて啓脾湯を朝晩の2回で開始しています。
2か月で食べられるものが10品目以上増え、体重も戻り始めました。合わなかったのは牛乳だけで、それ以外は問題なく戻せています。
ケース2:40代男性・小麦だけが合わなかった
パンとパスタが中心の食生活で、ガスと張りが5年続いていました。低FODMAPを自己流で試したものの、途中で挫折したとのことです。
3段階の手順をお伝えし、3週間の除去から始めていただきました。再導入では乳製品も豆類も問題なく、小麦を戻したときだけ張りが強く出ています。
いまは小麦を週2回程度に減らし、それ以外は自由に食べています。外す品目が1つに絞れたことで、生活の負担がほとんど無くなった例です。
よくある質問
Q. 過敏性腸症候群に良い食べ物はありますか?
A. 全員に共通して良いものはありません。合わないものが人によって違うため、自分に合わない数品目を見つけることが目的になります。低FODMAPは、その見つけ方の1つです。
Q. 低FODMAPはずっと続けるものですか?
A. 違います。3週間の除去、1品目ずつの再導入、そして調整という3段階です。2段階目を飛ばして減らしたままにすると、栄養が偏り腸内細菌の種類も減ります。戻す作業まで含めて1組です。
Q. ヨーグルトは食べない方がよいですか?
A. 人によります。乳糖を含むため合わない方もいますが、問題なく食べられる方も多くいます。3週間外して変化を見て、戻したときに症状が出なければ続けて構いません。一律にやめる必要はありません。
Q. 食事を変えても良くならないのですが、なぜですか?
A. 食事以外の引き金が中心の可能性があります。緊張、冷え、睡眠不足。この3つが背景にある方では、内容を変えても動きません。3週間試して変わらないなら、別の方向を探す段階です。
Q. 食べられるものが減ってしまったのですが、どうすればよいですか?
A. 1品目ずつ戻す作業に切り替えてください。3日ずつ、1つずつ。合わなかったものだけを控える形に戻します。食べる量が減って吸収する力も落ちている場合は、補う方向の漢方薬を合わせることもあります。
まとめ:外す3週間と、戻す作業で1組
IBSの食事は、外すことより戻すことの方が大切です。減らしたままにすると、症状より生活の側が苦しくなります。
- 食事で減らせるのは引き金: 過敏そのものは食事では変わらない
- 低FODMAPは3段階: 除去3週間、再導入は1品目ずつ3日、そして調整
- 型で注意点が変わる: 下痢型は温度と脂、ガス型は発酵しやすい糖質
- 外食は3つを避ければ足りる: 揚げ物、辛いもの、生もの
- 制限を年単位で続けない: 栄養と腸内細菌の両方に響く
最後に、本文で触れなかったことを1つ。外した日と戻した日を、同じ紙に書いてください。食事の見直しで失敗する方のほとんどが、外した記録しか残していません。戻した日が書かれていないと、何を試したかが分からなくなり、また全部を外すところからやり直すことになります。
「良いと言われるものを試しても変わらない」「食べられるものが減ってきた」という方は、れいわ漢方薬局にご相談ください。いま食べられるものを伺ったうえで、戻す順番と体質に合う漢方薬をご提案します。


