「もう何年も、朝だけお腹が下ります」「病院で下痢止めをもらったけれど、飲んでいいのか分からなくて置いたままです」――下痢のご相談で、最初に伺うことの多い2つです。
下痢には、止めた方がよいものと、出し切った方がよいものがあります。この2つを取り違えると、治りが遅くなるだけでなく、悪化することもあります。まず見分けることが先で、漢方薬を選ぶのはその次です。
れいわ漢方薬局では、下痢を「お腹が弱い」で片付けず、水がどこで滞っているかで見ています。冷えて動かないのか、熱と湿がこもっているのか、そもそも吸収する力が落ちているのか。原因が違えば、選ぶ漢方薬は正反対になります。
この記事では、止める下痢と出す下痢の分け方、東洋医学が見る5つの原因、タイプ別の漢方薬、市販の下痢止めとの違い、下痢が続くと痔になる理由、受診の目安までを扱います。日々ご相談をお受けしている薬剤師の立場から解説します。
下痢に漢方薬を使う|下痢止めとの違い
結論: 下痢止めは腸の動きを止めて便を留める薬、漢方薬は水の偏りを直して便の形を戻す薬です。止める場所が違うため、続けたときの結果も変わります。
動きを止める薬と、水の偏りを直す薬
市販薬や医療機関で出される下痢止めの多くは、腸の動きそのものを遅くします。内容物が腸にとどまる時間が延び、そのぶん水分が吸収されて便が固まります。速さは利点で、飲んで数時間のうちに回数が減ります。
ただし、下る理由には手を付けていません。動きを抑えている間だけ止まり、切れればまた戻ります。水漏れを直さずに、バケツを置いて受けている状態に近い形です。
漢方薬の側は、腸に偏った水を巡らせる、冷えた場所を温める、吸収する力を補うという方向で働きます。翌日に劇的な変化は起きにくいのですが、下る理由そのものが減っていきます。
慢性の下痢ほど、漢方薬の土俵になる
食あたりや感染性の急な下痢は、多くが数日で自然に軽くなります。ここで漢方薬を急ぐ必要はありません。
問題は、4週間以上続いている慢性の下痢です。日本消化管学会の『慢性下痢症診療ガイドライン2023』では、慢性下痢症を4週間以上持続する下痢と定義しています。検査で異常が見つからないまま何年も続き、そのたびに整腸剤を飲んで様子を見ている、という方は珍しくありません。
「検査は問題なしと言われました。でも毎朝下るんです」というご相談は本当に多く寄せられます。西洋医学の検査は、悪いものが無いことを確かめる力に優れています。ただし、悪いものが無いのになぜ下るのかには答えが出にくい。この隙間が漢方薬の土俵です。
下痢止めをもらったときの考え方
医療機関で下痢止めが出るのには理由があります。脱水を防ぐため、仕事や試験を控えているため、回数が多すぎて生活が回らないため。短期の必要があって出されているものを、自己判断で捨てるのは違います。
一方で、もらったまま飲まずに置いている方も多くいます。飲むか迷ったときは、出した医療機関に電話で1本確認するのがいちばん早いです。何日ぶん出ているのか、いつ飲むものなのかは、処方箋を書いた側がいちばん正確に答えられます。
当薬局にご相談いただく場合も、医療機関から出ている薬をやめる前提では見ません。飲みながら体質を整え、下る回数が減ってきた段階で減らす順番を一緒に考えます。
止めてよい下痢と、出し切った方がよい下痢
結論: 発熱・血便・食後すぐの急な下痢は止めません。原因を外に出している最中だからです。冷えや緊張で繰り返す慢性の下痢は、止めてよい下痢に当たります。
出し切った方がよいのは、外へ出している下痢
細菌やウイルスによる下痢は、体が異物を洗い流している反応です。ここで動きを止めると、原因が腸に長くとどまります。
ロペラミド塩酸塩の添付文書では、出血性大腸炎や、赤痢菌など重篤な細菌性下痢の患者への投与が禁忌とされています。理由は「症状の悪化、治療期間の延長を来すおそれがある」ためです。小児には年齢による制限もあり、市販の下痢止めで同じ成分を含むものにも、服用できる年齢が定められています。
「出し切った方がいいですか」というご質問には、次のようにお答えしています。急に始まって、発熱や吐き気を伴い、心当たりのある食事があるなら、水分を取りながら出し切る。これが原則です。
止めてよいのは、下る理由が体の側にある下痢
一方、心当たりのある食事も熱もなく、何か月も同じパターンで下っているなら、出し切る意味はありません。すでに出すものは出ています。
冷たい飲み物で下る、緊張すると下る、朝だけ下る。こうした下痢は、腸が異物を追い出しているのではなく、水の巡りや自律神経の側に理由があります。止めながら整えて構いません。
判断に迷う場面が1つあります。慢性の下痢の途中に、感染性の下痢が重なったときです。いつもと違う勢い、熱、においの変化があるなら、慢性の側ではなく急性の対応に切り替えます。
見分ける3つの軸
ここまでの2つを、実際に見分ける形に落とします。使うのは、始まり方・熱と血の有無・心当たりの3つです。
3つのうち1つでも当てはまれば、出し切る側と考えて構いません。すべてが揃うのを待つ必要はなく、血便だけ、発熱だけでも扱いは変わります。逆に、3つのどれにも当てはまらないまま何週間も続いているなら、体質の側を見る段階に入っています。
| 見るところ | 出し切る下痢 | 止めてよい下痢 |
|---|---|---|
| 始まり方 | 急に始まった(数時間〜1日) | 何週間・何か月も繰り返している |
| 熱・吐き気 | ある(38度前後まで上がることも) | ない |
| 便の色と血 | 赤・黒・白っぽい/血が混じる | いつもと同じ色で血はない |
| 心当たり | 生もの・古いもの・集団で同じ症状 | 冷え・緊張・特定の食べ物 |
| 手を打つ順番 | 水分と電解質を先に。止めない | 体質を整えながら、必要なら止める |
3つの軸で1つでも左に当たるなら、止める前に受診を考える段階です。判断に迷ったときは左に寄せる方が安全で、これは薬剤師のあいだでも共通しています。
東洋医学が見る下痢の5つの原因
結論: 東洋医学では下痢を、寒湿・湿熱・脾虚・腎虚・肝鬱の5つに分けます。同じ下痢でも原因が違えば、温めるか冷ますかが正反対になります。
寒湿|冷えて水がさばけていない
冷たい飲み物、クーラー、薄着で下るタイプです。寒湿(かんしつ)と呼びます。
便は水っぽく、においは強くありません。お腹を触ると冷たく、温めると楽になります。夏に増えるのが特徴で、冷房の効いた室内で1日過ごした日の夕方から始まる方が多くいます。
このタイプに冷やす漢方薬を使うと悪化します。方向は温めることです。
湿熱|熱と湿がこもって腸が炎症している
同じ夏でも、こちらは脂っこいもの・辛いもの・お酒で下るタイプです。湿熱(しつねつ)と呼びます。
便のにおいが強く、肛門が熱く感じられ、出したあともすっきりしません。口が苦い、舌の苔が黄色いといったサインを伴います。
寒湿とは正反対で、ここでは熱を冷まして湿を抜く方向に向かいます。温める漢方薬を使うと、においと不快感が増します。
脾虚|消化吸収する力そのものが落ちている
食べたものがそのまま出てくる、少し食べ過ぎただけで下る、疲れると下る。脾虚(ひきょ)は、消化吸収の働きが落ちている状態です。
便は形にならず、色が薄く、においも弱い。食欲が続かず、食後に眠くなり、手足がだるい。慢性の下痢でいちばん多いのがこのタイプです。
急いで止めるより、吸収する力を戻すのが先になります。時間はかかりますが、戻ると再発が減ります。
腎虚|明け方に決まって下る
夜明け前、午前3時から5時ごろに腹痛で目が覚めて下るタイプです。東洋医学では五更泄瀉(ごこうせっしゃ)と呼び、腎虚(じんきょ)として扱います。
高齢の方に多く、腰が冷える、足が冷える、夜間にトイレへ起きるといったサインを伴います。若い方でも、長く冷えを抱えていると出ます。
体の土台の温める力が落ちている状態なので、腸だけを見ても変わりません。
肝鬱|緊張したときだけ下る
会議の前、電車の中、試験の当日。決まった場面で下るタイプです。肝鬱(かんうつ)と呼び、ストレスで気の巡りが詰まった状態を指します。
便通が下痢と便秘で入れ替わるのも特徴で、西洋医学では過敏性腸症候群(以下「IBS」)と診断されることが多い型です。日本消化器病学会の『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020-過敏性腸症候群(IBS)』では、日本人の有病率をおよそ10%と報告しています。10人に1人という数字で、珍しい状態ではありません。
タイプ別の見分け方|便の状態と下る時間帯
結論: 5つのタイプは、便のにおい・色・下る時間帯の3つでほぼ絞れます。便の形だけでは分かれません。
便の状態から絞る|5タイプの対照表
便の観察では、世界的にブリストル便形状スケールという7段階の物差しが使われています。1型のコロコロ便から7型の水様便までを形で分ける方法で、6型(泥状便)と7型(水様便)が下痢に当たります。
ただし、このスケールで分かるのは硬さだけです。硬さが同じでも原因は5つに分かれるため、においと色を必ず添えて見ます。下痢のご相談で、便の形しか覚えていない方が多いのですが、においの方が判別に働きます。
| タイプ | 便の状態 | におい | 一緒に出るサイン |
|---|---|---|---|
| 寒湿 | 水っぽい・薄い色 | 弱い | お腹が冷たい・温めると楽 |
| 湿熱 | 泥状・色が濃い | 強い | 肛門が熱い・口が苦い・舌の苔が黄色い |
| 脾虚 | 形にならない・未消化物が混じる | 弱い | 食後に眠い・だるい・食欲が続かない |
| 腎虚 | 水っぽい | 弱い | 明け方に下る・腰と足の冷え・夜間頻尿 |
| 肝鬱 | 下痢と便秘が入れ替わる | 普通 | 緊張する場面でだけ下る・ガスが多い |
下る時間帯で分ける
時間帯は、記憶で答えられるぶん精度が高い手がかりです。
明け方に決まって下るなら腎虚、朝食後すぐなら脾虚、外出の直前だけなら肝鬱。夜、冷えた足で寝た翌朝に下るなら寒湿を疑います。飲み会の翌日だけなら湿熱です。
1週間ぶん、下った時刻をメモに残すだけで、タイプはかなり絞れます。便の写真より時刻の方が役に立つ、というのが現場の実感です。
食後すぐ出るのは、その食事のせいではない
「食べた直後に出るので、その食事が悪いと思っていました」というお話をよく伺います。実際には、食べたものがそのまま出ているわけではありません。
胃に食べ物が入ると大腸が動き出す反射があり、これが強く出ると食後すぐに便意が来ます。出ているのは前の日までの内容物です。原因を直前の食事に求めると、食べられるものがどんどん減っていきます。
タイプ別に選ぶ下痢の漢方薬
結論: 下痢の漢方薬は、温めるもの・水をさばくもの・熱を冷ますもの・力を補うものの4方向に分かれます。タイプを取り違えると、方向が逆になって悪化します。
真武湯|冷えて水が動かないタイプに
真武湯(しんぶとう)は、体を温めながら余分な水をさばく漢方薬です。冷えると下る、疲れやすい、めまいや体のふらつきを伴う方に向きます。
寒湿と腎虚が重なった状態でよく使います。手足が冷たく、顔色が白く、水を飲むと胃で音がするような方が典型です。夏でも腹巻きが手放せない、という方はこちらから考えます。
量を増やしても効きは強まりません。合わないまま続けると、のぼせやほてりが出ることがあります。2週間で便の形が動かないなら、量ではなく見立ての方を疑う順番です。
人参湯・桂枝人参湯|胃腸が冷えて力が出ないタイプに
人参湯(にんじんとう)は、胃腸そのものを温めて力を補う漢方薬です。食欲がなく、みぞおちが冷え、薄い唾液が出る方に向きます。脾虚と寒が重なった型です。
頭痛や動悸を伴うなら、桂枝人参湯(けいしにんじんとう)に切り替えます。人参湯に桂枝を足したもので、上に向かう症状を一緒に扱えます。
五苓散・胃苓湯|水が偏っているタイプに
五苓散(ごれいさん)は、体の中の水の偏りをならす漢方薬です。喉が渇いて水を飲むのに尿が少なく、便は水のようという方に向きます。二日酔いや乗り物酔いにも使われるのは、同じ水の偏りを扱うからです。
胃のもたれが強く、食べ過ぎで下るなら、五苓散に平胃散(へいいさん)を合わせた胃苓湯(いれいとう)を使います。夏の冷たいものによる下痢では、この組み合わせが最も出番の多い1つです。
むくみや頭痛が強いときは、五苓散に小柴胡湯を合わせた柴苓湯(さいれいとう)を選ぶこともあります。
半夏瀉心湯|においが強く、みぞおちがつかえるタイプに
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は、温める生薬と冷ます生薬を同時に含む漢方薬です。みぞおちがつかえ、お腹がゴロゴロ鳴り、においの強い下痢をする方に向きます。湿熱の型に当たります。
お酒の翌日、ストレスの多い時期に下るという方で、この漢方薬が合うケースは多くあります。口内炎を繰り返す方にも使います。
桂枝加芍薬湯|緊張で腸が締まるタイプに
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)は、お腹の緊張をゆるめる漢方薬です。腹痛を伴い、残便感があり、下痢と便秘が入れ替わる方に向きます。肝鬱の型で、IBSの相談でいちばん多く使う1つです。
厚生労働省の一般用漢方製剤承認基準では、この漢方薬の効能を「腹部膨満感のある次の諸症:しぶり腹、腹痛、下痢、便秘」としています。しぶり腹とは、便意はあるのに出ない、出ても残るという状態です。
芍薬の量を増やして腸のけいれんをゆるめる組み立てなので、痛みを伴う下痢に向きます。
啓脾湯・六君子湯|吸収する力が落ちているタイプに
啓脾湯(けいひとう)は、脾虚の慢性下痢に用いる漢方薬です。厚生労働省の同じ承認基準では「やせて顔色が悪く、食欲がなく、下痢の傾向のあるもの」に向くとされています。何年も軟便が続き、食が細く、体重が増えない方が当てはまります。
効き方はゆるやかで、3か月ほどかけて便の形が戻っていきます。
胃のもたれや食欲不振が前に出るなら、六君子湯(りっくんしとう)から入ることもあります。
市販の下痢止めは何が違うのか
結論: 市販の下痢止めは、腸の動きを止めるもの・水分と細菌を吸着するもの・腸内環境を整えるものの3種類に分かれます。同じ棚に並んでいますが、使う場面は別です。
3つの種類と、それぞれを使う場面
ロペラミドは腸の動きそのものを抑えます。効き方は最も強く、そのぶん感染性の下痢には向きません。
木クレオソートを主成分とする正露丸は、腸の過剰な動きを抑えつつ水分の分泌を調整する働きとされています。食あたりや冷えによる下痢に使われてきた薬で、においで敬遠されがちですが、場面は限られていません。
タンニン酸ベルベリンなどの吸着・殺菌成分は、余分な水分や細菌を吸着して便を固めます。整腸剤(ビオフェルミン等の生菌製剤)は止める薬ではなく、腸内細菌の構成を整えるもので、効くまでに日数がかかります。
| 種類 | 代表的な成分 | 働き | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| 止瀉薬 | ロペラミド塩酸塩 | 腸の動きを止める | 移動中など、どうしても止めたいとき |
| 殺菌・整腸 | 木クレオソート | 腸の動きと水分分泌を調整 | 食あたり・冷えによる下痢 |
| 吸着・収れん | タンニン酸ベルベリン | 水分と細菌を吸着する | 便が水様で回数が多いとき |
| 整腸剤 | 乳酸菌・酪酸菌 | 腸内細菌を整える | 慢性の軟便・下痢と便秘の反復 |
下痢止めと整腸剤のどちらを飲むか
「どちらを買えばいいですか」というご質問には、下る理由がその日にあるかどうかで分けてお答えしています。
昨日食べたものに心当たりがあり、今日だけの下痢なら整腸剤で足ります。何か月も続いていて、今日たまたま外出があるなら止瀉薬という考え方です。慢性の下痢に止瀉薬を毎日飲み続けると、下痢と便秘が入れ替わる状態になりやすく、かえって扱いにくくなります。
漢方薬と市販薬は併用できるか
多くの場合、併用して差し支えありません。整腸剤と漢方薬の組み合わせは、当薬局でもよくご提案します。
注意が要るのは甘草を含む漢方薬を複数重ねたときで、1日の合計量が増えるとむくみや血圧の上昇が出ることがあります。半夏瀉心湯・人参湯・桂枝加芍薬湯はいずれも甘草を含むため、2剤を自己判断で重ねる前に薬剤師に確認する方が安全です。
下痢が続くと痔になる|切れ痔から痔瘻まで
結論: 下痢は便秘と同じくらい痔の原因になります。特に痔瘻は、下痢が続く人に起こりやすい型です。
水様便が肛門を傷める仕組み
痔は硬い便でなるもの、と思われがちですが、実際は下痢でもなります。勢いのある水様便は肛門の皮膚を繰り返し刺激し、拭く回数も増えるため、粘膜が荒れて切れ痔につながります。
回数が多い日ほど傷が深くなり、痛みで排便を我慢すると今度は便が硬くなる。この往復で悪化していく方をよく見ます。
下痢のたびに温水洗浄便座を強く当てる習慣も、粘膜を乾かして荒れを進めます。押さえて拭く、洗いすぎない。この2点だけで治りが変わる方は少なくありません。
痔瘻は、下痢と結びつきが強い
痔瘻(じろう)は、肛門の内側にある小さなくぼみ(肛門陰窩)に細菌が入り、膿がたまって(肛門周囲膿瘍)、皮膚まで管ができてしまう状態です。日本大腸肛門病学会の『肛門疾患・直腸脱診療ガイドライン』でも、この経路が痔瘻の主な成り立ちとして示されています。
くぼみに入りやすいのは、硬い便ではなく水様便です。下痢が続く人に痔瘻が起きやすいのはこのためで、男性に多いとされています。
ここははっきり書きます。痔瘻は自然には治らず、手術が原則です。漢方薬で管が閉じることはありません。膿がたまって腫れと発熱が出ている段階なら、肛門科の受診が最優先です。
漢方薬にできるのは、上流を減らすこと
では漢方薬の出番はどこかというと、痔瘻そのものではなく、その手前です。下る回数が減れば、肛門への刺激も、くぼみに便が入る機会も減ります。手術のあと再発を繰り返す方で、背景に慢性の下痢がある場合は、そちらを整える意味があります。
切れ痔・いぼ痔の方には、乙字湯(おつじとう)という漢方薬があります。厚生労働省の一般用漢方製剤承認基準では、その効能を「痔核(いぼ痔)、きれ痔、便秘、軽度の脱肛」としています。痔瘻はこの中に入っていません。認められている範囲がそのまま、漢方薬で扱える範囲になります。
何日続いたら病院へ行くか|受診の目安と何科
結論: 目安は2週間です。ただし血便・38度以上の発熱・強い脱水があれば、日数に関係なくその日に受診します。
日数の目安は3段階
期間による区分は、おおむね次のように整理されています。2週間以内が急性、2〜4週間が持続性、4週間以上が慢性です。
急性の下痢は多くが自然に軽くなります。ここで慌てて検査を受ける必要は薄い。2週間を過ぎても戻らないなら、様子見の段階は終わったと考えます。
「何日続いたらやばいですか」というご質問は非常に多いのですが、日数だけで決まるものではありません。次のサインが1つでもあれば、日数に関係なく受診が先です。
日数に関係なく受診するサイン
- 血が混じる: 赤い血、黒いタール状の便はいずれも受診の対象です
- 38度以上の熱を伴う
- 強い脱水: 尿がほとんど出ない、立ちくらみ、口の中が乾く
- 体重が減っている: 数か月で数キロ落ちているなら、下痢以外の要因を調べます
- 夜中に目が覚めて下る: 機能性の下痢は睡眠中に起きにくいとされます
- 家族に大腸の病気がある
このうち体重減少と夜間の下痢は、ご本人が見落としやすい2つです。ご相談の場では必ず確認しています。
何科に行くか
最初の窓口は消化器内科です。近くになければ内科で構いません。血便が主で肛門の痛みがあるなら肛門科、肛門外科が適切です。
受診の際は、下った日数・1日の回数・便の色・熱の有無・思い当たる食事をメモにして持参すると、検査の組み立てが早くなります。口頭では回数を少なめに答えてしまう方が多く、記録があるだけで診断の精度が変わります。
効果が出るまでの期間とやめどき
結論: 急性の下痢に使う漢方薬は数時間から1日、慢性の下痢を整えるものは2週間から3か月が目安です。1週間で判断すると、合っているものを捨てることになります。
数時間で見るものと、3か月で見るもの
五苓散や胃苓湯のように水の偏りを直すものは、合っていればその日のうちに変化が出ます。飲んで半日たっても回数が変わらないなら、タイプが違う可能性を考えます。
一方、啓脾湯・六君子湯・真武湯のように土台を補うものは、2週間で便の形が少し変わり、1か月で回数が減り、3か月で戻りにくくなるという進み方をします。最初の2週間で何も起きないのは普通のことです。
やめどきの決め方
回数が減ったから即やめる、とはしません。下痢は季節と気温で揺れるため、良くなった状態を1か月ほど保ってから、量を半分に落として様子を見ます。
冷えが背景にある方は、夏のあいだ調子がよくても秋に戻ることがあります。気温が下がる時期をひとつ越えてから減らす方が、結果として飲む総量は少なくて済みます。
やめたあとに戻った場合も、同じ漢方薬をもう一度使えることが多くあります。合わなかったのではなく、土台がまだ戻り切っていなかっただけ、という見方をします。
下痢のときの食事|食べるものと戻す順番
結論: 下痢の最中に食事を完全に抜く必要はありません。水分と塩分を先に確保し、消化のよいものから量を戻していきます。
最初に取るのは水と塩
下痢で失われるのは水分だけではありません。ナトリウムやカリウムといった電解質が一緒に出ていきます。水だけを大量に飲むと、かえって体液が薄まって回復が遅れます。
経口補水液が手元になければ、湯冷ましに塩をひとつまみと少量の砂糖を加えたもので代用できます。一度に飲まず、少量を何度も分けて取る方が吸収されます。
戻す順番と、避けたいもの
回数が落ち着いてきたら、重湯・おかゆ・うどん・すりおろしりんごの順で量を戻します。
避けたいのは、脂の多いもの、香辛料、アルコール、冷たい飲み物、そして牛乳です。下痢の直後は乳糖を分解する働きが一時的に落ちるため、いつもは平気な方でも下ることがあります。
食物繊維も、この時期だけは増やさない方が無難です。腸活としてよいとされる不溶性の食物繊維は、下痢の最中には刺激になります。
朝だけ下る・緊張すると下る人
結論: 決まった場面でだけ下るのは、腸そのものより自律神経の側に理由があります。原因を探すより、パターンを崩す方が早く変わります。
通勤前と会議前に集中する理由
自律神経は、緊張したときに腸の動きを速くします。ここに「また下るかもしれない」という予測が重なると、実際に下る前から腸が動き始めます。
「電車に乗る前にトイレを探すのが習慣になりました」というお話は、ご相談の中でよく伺うものです。この段階になると、下痢そのものより不安の方が生活を狭めています。
検査で異常が出ないため、気のせいだと言われて終わる方もいます。実際には腸の動きが速くなっているので、気のせいではありません。
崩し方は、朝の順番を組み替えること
朝いちばんに冷たい水を飲む習慣がある方は、常温か白湯(さゆ)に替えるだけで変わることがあります。胃を冷やすと反射が強く出るためです。
そのうえで、家を出る時刻を15分早めて、出る前に座る時間を先に確保します。出先で探す前提から、出る前に済ませる前提へ切り替えるだけで、予測による下痢は軽くなります。
それでも変わらないときは、朝食の中身を見ます。冷たい牛乳とヨーグルトの組み合わせは、腸が敏感な方には強い刺激になります。
女性の下痢|生理周期と妊娠中
結論: 生理中の下痢はホルモンの働きによるもので、体の異常ではありません。デトックスでもありません。
生理のたびに下るのはなぜか
生理が始まると、子宮を収縮させるプロスタグランジンという物質が増えます。この物質は子宮だけでなく腸にも働くため、腸の動きが強まって下痢が起きます。
生理前は黄体ホルモンの働きで便が止まりやすく、生理が始まると一転して下る。この落差を体の毒が出ていると説明する情報を見かけますが、実際にはホルモンの切り替わりで説明がつきます。
冷えが重なると強く出る
同じホルモンの変化でも、下痢の出方には個人差があります。差を生んでいるのは冷えです。下腹部が冷えている方ほど、生理のたびの下痢と痛みが強く出ます。
生理の3日前から下腹部を温めておくと、当日が軽くなる方が多くいます。始まってから温めるのでは間に合いにくく、周期の前半から続けるのが順番です。腹巻きでも湯たんぽでも構いませんが、続けられる方を選びます。
妊娠中に気をつけること
妊娠中の下痢は、下痢そのものより脱水と子宮の収縮に注意が要ります。市販の下痢止めを自己判断で使わず、まずは産科に相談する順番になります。
漢方薬も同じで、妊娠中は使えるものが限られます。当薬局にご相談いただく場合も、妊娠の有無と週数を必ず伺ったうえで、産科の方針と食い違わない範囲でご提案します。
つわりの時期に下痢が重なると、水分が取れずに脱水へ進みやすくなります。1日の尿の回数が減っている、立ちくらみがするという段階で産科に連絡する方が安全です。
よくある質問
Q. 下痢は出し切った方がいいと聞きましたが、本当ですか?
A. 急に始まった下痢は出し切る方向で構いません。細菌やウイルスを外に出している最中だからです。ただし、何か月も続いている慢性の下痢に同じ考え方は当てはまりません。すでに出すものは出ており、下る理由は体の側にあります。始まりが急かどうかで分けてください。
Q. 病院でもらった下痢止めを飲みたくないのですが、やめてよいですか?
A. 自己判断でやめる前に、出した医療機関に確認する方が確実です。脱水を防ぐため、あるいは生活を回すために短期で出されていることがあります。当薬局でも、医療機関の薬をやめる前提ではご相談をお受けしていません。飲みながら体質を整え、回数が減った段階で減らす順番を考えます。
Q. 何年も軟便が続いていますが、検査では異常なしでした。漢方薬で変わりますか?
A. 検査で異常が出ない慢性の下痢は、漢方薬の土俵に当たります。多くは吸収する力が落ちている脾虚か、明け方に下る腎虚です。啓脾湯や真武湯で、3か月ほどかけて便の形が戻っていく方が多くいます。
Q. 下痢が続くと痔になりますか?
A. なります。硬い便だけでなく、勢いのある水様便も肛門を傷めます。特に痔瘻は下痢のある方に起こりやすい型です。ただし痔瘻は手術が原則で、漢方薬で管が閉じることはありません。腫れと発熱があるなら肛門科へ行くのが先です。
Q. 整腸剤と下痢止めは、どちらを買えばよいですか?
A. 今日だけの下痢で心当たりの食事があるなら整腸剤、何か月も続いていて今日は外出があるなら止瀉薬という分け方になります。慢性の下痢に止瀉薬を毎日重ねると、下痢と便秘が入れ替わる状態になりやすく、かえって扱いにくくなります。
Q. 漢方薬を飲んだら下痢になりました。合っていないのでしょうか?
A. 大黄や芒硝を含む漢方薬では、量が多いと下痢が出ます。この場合は量の調整で収まります。一方、それらを含まない漢方薬で下ったなら、体質と方向が合っていない可能性があります。飲み始めて何日目からか、便の状態がどう変わったかを控えて、相談先に伝えてください。
まとめ:下る理由を決めてから、薬を選ぶ
下痢は、水がさばけていないか、腸を冷やしているか、吸収する力が落ちているかを知らせるサインです。止めるか出すかを先に決め、そのうえでタイプに合う漢方薬を選ぶと、遠回りが減ります。
- 止める下痢と出す下痢を分ける: 急に始まって熱や血便があるなら止めない。何か月も続いているなら止めてよい
- タイプは5つ: 寒湿・湿熱・脾虚・腎虚・肝鬱。においと下る時間帯で絞る
- 方向を間違えない: 寒湿と湿熱は正反対。温めるか冷ますかを取り違えると悪化する
- 痔は下痢でもなる: 特に痔瘻は水様便が原因になる。ただし手術が原則で、漢方薬は上流を減らす役割
- 2週間が受診の目安: ただし血便・38度以上の熱・体重減少があれば日数に関係なく受診
最後に、本文で触れなかったことを1つ。下った時刻を1週間ぶん書き出すところから始めると、判断が早くなります。便の状態は記憶で比べにくいのですが、時刻なら前の週とそのまま並べられます。明け方なのか、朝食後なのか、外出前なのか。それだけでタイプは半分まで絞れます。
「自分がどのタイプか分からない」「下痢止めを飲み続けている状態から抜けたい」という方は、れいわ漢方薬局にご相談ください。便の状態と全身のサインを伺ったうえで、体質に合う漢方薬と、薬を減らしていく順番をご提案します。


