「何も食べない方がいいと聞いて、丸一日抜きました」「おかゆばかりで、いつまで続ければいいのか分かりません」――下痢のときの食事について、この2つはよく伺うご相談です。
食事を完全に抜く必要はありません。腸の粘膜は、食事から栄養を受け取って回復します。抜き続けると回復が遅れ、体力も落ちます。
れいわ漢方薬局では、食べるものより先に、水分の取り方と温度を伺います。何を食べるかで悩む前に、この2つで変わる方が多いためです。
この記事では、最初に取るもの、食べてよいもの、避けたいもの、量を戻す順番、慢性の下痢での食事、体質別の食べ方までを扱います。
最初に取るのは水と塩
結論: 下痢で失われるのは水分だけではありません。ナトリウムやカリウムが一緒に出ていくため、水だけでは戻りません。
水だけ飲むと体液が薄まる
下痢の最中に水だけを大量に飲むと、体液が薄まってかえって回復が遅れます。失った分と同じ組成のものを戻す必要があります。
経口補水液が最も適しています。手元に無ければ、湯冷まし1リットルに塩を小さじ2分の1、砂糖を大さじ4ほど加えたもので代用できます。
砂糖を入れるのは甘くするためではありません。糖と一緒だとナトリウムの吸収が進むためで、どちらか一方では効率が落ちます。この組み合わせに意味があります。
少量を何度も
コップ1杯を一気に飲むと、それが刺激になって次の下痢を呼ぶことがあります。大さじ1〜2杯ずつを5分おきに、という取り方の方が体内に残ります。
吐き気を伴っているときは特にこの飲み方が向きます。「たくさん飲んでいます」と話される方の実際の量が、1日500ミリリットルに届いていないことはよくあります。
飲めた量を書き出すと、足りているかどうかが分かります。書いて初めて足りないと気づく、という順番になる方がほとんどです。
温度は常温から
冷たい飲み物は、それ自体が腸への刺激になります。経口補水液も、冷蔵庫から出したてより常温の方が飲みやすく、負担も小さくなります。
「冷たい水をたくさん飲んで流そうとしていました」というお話を伺うことがあります。水分は必要ですが、冷たさは別の問題です。
温める必要まではありません。常温に戻すだけで足ります。夏は室温が高いので、冷蔵庫から出して30分ほど置く形が現実的です。
食べてよいもの
結論: 消化がよく、水分を含み、脂の少ないもの。この3つを満たすものから始めます。回復の段階に合わせて広げていくため、最初から通常食に戻す必要はありません。
段階ごとの目安
回復の段階によって、食べられるものが変わります。急ぐと戻ってしまうため、順を追って広げます。
下の5段階は、目安として置いたものです。同じ段階に何日いても構いません。進む速さより、悪化させないことの方が優先されます。
判断に使うのは、便の形と回数です。前日より減っていれば次へ、増えていれば前へ戻ります。
| 段階 | 状態 | 食べるもの |
|---|---|---|
| 第1段階 | 回数が多く、吐き気もある | 経口補水液のみ。無理に食べない |
| 第2段階 | 吐き気が落ち着いた | 重湯、具のない味噌汁の上澄み |
| 第3段階 | 回数が半分に減った | おかゆ、うどん、すりおろしりんご |
| 第4段階 | 便に形が出てきた | 白いご飯、豆腐、白身魚、煮た野菜 |
| 第5段階 | ほぼ通常の便 | 通常食へ。脂と乳製品だけ最後に戻す |
1段階ずつ、半日から1日かけて進めます。1つ戻して悪化したら、前の段階に戻ります。
すりおろしりんごが向く理由
りんごに含まれるペクチンは、水に溶ける食物繊維です。腸の中で水分を抱え込み、便の形を作る助けになります。
加熱するとさらに働きやすくなるため、すりおろして少し温めると向きます。冷えた果物をそのまま食べるのとは、まったく別のものだと考えてください。
バナナも同様に、水に溶ける繊維を含みます。ただし冷やさず、常温のものを選びます。
どちらも、量は少なめから試します。りんご半分、バナナ1本ぶんを一度に食べるより、4分の1ずつを数回に分ける方が負担が小さくなります。回復の途中では、量そのものが刺激になることがあります。
温かいものを選ぶ
同じおかゆでも、冷めたものと温かいものでは腸への負担が変わります。温かいものは胃腸の動きを整え、冷たいものは刺激になります。
夏でもこの考え方は変わりません。冷房で冷えている時期こそ、温度に気を配る意味があります。
電子レンジで温め直すだけで足ります。手間をかける必要はなく、冷たいまま食べないという一点だけを守ります。
避けたいもの
結論: 脂・香辛料・アルコール・冷たい飲み物・牛乳。この5つは、下痢の最中には避けます。
5つの理由
脂の多いものは消化に時間がかかり、腸に負担をかけます。揚げ物、脂身の多い肉、バターやクリームを使ったものが対象です。
香辛料とアルコールは、腸の粘膜を直接刺激します。カフェインも腸の動きを速めるため、この時期は控えます。
牛乳は特別な理由があります。下痢の直後は乳糖を分解する働きが一時的に落ちるため、いつもは平気な方でも下ります。感染性腸炎のあとは、1〜2週間ほど控えると戻ることが多くあります。
食物繊維は種類で分かれる
食物繊維は体によいとされますが、下痢の最中は種類を選びます。
水に溶けない不溶性の繊維は、便の量を増やして腸を刺激します。ごぼう、きのこ、玄米、豆類がここに入ります。回復するまでは増やさない方が無難です。
水に溶ける水溶性の繊維は、水分を抱えて便の形を作ります。りんご、バナナ、いも類、オートミールがこちらです。同じ繊維でも、働きが逆になります。
良いとされるものほど注意
腸活としてよいとされる習慣が、下痢の時期には合わないことがあります。冷たいヨーグルト、生野菜のサラダ、玄米、スムージー。
「体にいいと思って続けていました」というものが原因になっているケースは珍しくありません。良いとされるものほど、やめる発想が出てきません。
一時的に保留にする、という判断が要ります。回復したら戻して構いません。
量を戻す順番
結論: 1つずつ、半日から1日かけて広げます。同時に3つ戻すと、どれが合わないのか分からなくなります。
3日で通常食に近づける
回数が減ってきたら、次の順で広げていきます。
- 半日目: 重湯、味噌汁の上澄み。固形物はまだ入れない
- 1日目: おかゆ、うどん、すりおろしりんご。少量を数回に分ける
- 2日目: 白いご飯、豆腐、白身魚、よく煮た野菜
- 3日目以降: 通常食に戻す。脂と乳製品だけ最後に回す
進めて悪化したら、前の段階に戻ります。焦って進めるより、1段階待つ方が結果的に早く終わります。
悪化したときの判断
戻したもので下ったなら、それが合わないものです。1つずつ戻していれば、何が原因か分かります。
同時に3つ戻すと、また全部を外すことになります。この繰り返しで食べられるものが減っていく方が、実際に多くいらっしゃいます。
悪化したものも、完全にやめる必要はありません。量を減らす、温める、加熱する。この3つで食べられるようになることがあります。
制限を長く続けない
下痢が落ち着いたあとも、怖くて広げられないという方がいます。おかゆとうどんだけの生活が数か月続くと、栄養が偏って吸収する力そのものが落ちます。
当薬局でも、白いご飯とうどんしか食べられなくなった方のご相談を受けたことがあります。この状態からは、減らす方向では戻れません。少しずつ戻す作業が必要になります。
慢性の下痢での食事
結論: 何か月も続いている下痢では、外すものを絞ります。制限を増やすほど、回復から遠ざかります。
外すのは1回に1つ
慢性の下痢で食事を見直すときは、2週間に1つずつ外します。同時に複数を外すと、何が原因か分かりません。
乳製品、人工甘味料、カフェイン、アルコール、脂の多い食事。この順で疑う方が、当たる確率が高くなります。
5年悩んだ方が、3か月で原因にたどり着いたこともあります。遠回りに見えて、1つずつの方が早く終わります。
見落とされやすいもの
砂糖の代わりに使われるソルビトールやキシリトールは、小腸で吸収されにくく腸に水を引き込みます。無糖のガムやのど飴に含まれ、量が多いと下痢を起こします。
1日に何個も噛んでいた方が、やめただけで戻ったケースもあります。糖類ゼロをうたう飲料やお菓子も同じ理由で対象になります。
プロテインや栄養補助食品にも、同じ甘味料が使われていることがあります。健康のために始めたものほど、原因の候補から外れがちです。
温度と食べ方も見る
食べる内容と同じくらい、温度と速さが影響します。冷たい飲み物を一気に飲む、急いで食べる。この2つは腸を強く刺激します。
常温に戻す、よく噛む。地味ですが、内容を変える前にここから試す方が失敗が少なくなります。
食べる時刻も影響します。夜遅い食事が続くと、翌朝の症状が強く出る方がいます。
記録には、何を食べたかだけでなく何時に食べたかも残しておくと手がかりが増えます。同じものでも、時刻によって出方が変わることがあります。
外食と職場での食事
結論: 外食を全部やめる必要はありません。避けるのは揚げ物・辛いもの・生ものの3つで、これを外せば多くの店に食べられるものが残ります。選び方を先に決めておくと続きます。
選べるものを決めておく
外食のたびに悩むと続きません。あらかじめ、この店ならこれ、と決めておく方が楽になります。
うどん、おかゆ、雑炊、湯豆腐、白身魚の煮つけ。和食の店なら選択肢があります。洋食なら、クリームやバターを使っていないスープとパンで足ります。
避けるのは、揚げ物と辛いものと生ものの3つ。この3つを外せば、多くの店で食べられるものが残ります。
職場での昼食
コンビニでも選べます。おにぎり、うどん、味噌汁、豆腐、バナナ。冷たいサラダより、温められるものを選ぶ方が向きます。
電子レンジが使えるなら、温めるだけで負担が変わります。同じおにぎりでも、冷たいままと温かいのとでは、腸への刺激が違います。
飲み物も見直します。氷入りのアイスコーヒーを常温のお茶に替えるだけで、午後の回数が減る方がいます。
付き合いの席
飲み会が続く時期は、下痢も続きやすくなります。脂とアルコールが重なるためです。
全部断る必要はありませんが、翌日に予定がある日だけ内容を控える、という使い方で足ります。毎回制限するより、予定に合わせて調整する方が続きます。
席では、揚げ物を1品減らして温かい料理に替えるだけでも違います。飲み物も、冷たいビールを続けるより途中でお茶に切り替える形が現実的です。
体質別の食べ方
結論: 東洋医学では、冷えの下痢と熱の下痢で食べ方が正反対になります。見分けるのは便のにおいで、弱ければ冷え、強ければ熱です。温めるか、脂を減らすかが分かれます。
冷えの下痢
便が水っぽく、においが弱く、お腹を触ると冷たい。冷たい飲み物や冷房で悪化するタイプです。
温めるものを選びます。生姜、ねぎ、味噌、温かいスープ。生野菜より、火を通した野菜が向きます。
このタイプに冷たいものを足すと悪化します。果物も冷蔵庫から出したてではなく、常温に戻してから食べます。
夏に増えるのが特徴です。冷房の効いた室内で1日過ごした日の夕方から始まる、という方が多くいます。
熱の下痢
便のにおいが強く、肛門が熱く感じられ、出したあともすっきりしない。脂っこいものやお酒で悪化するタイプです。
こちらは、温める食材を増やすとかえって強くなります。脂と辛いものを減らし、消化のよいものを中心にします。
冷やす必要はありませんが、温めることを目的にしない、という違いがあります。
見分けの目印は、においのほかに舌の苔です。黄色っぽい苔がついている、口が苦いといったサインがあれば、熱の側と考えます。
疲れると下るタイプ
食後に眠くなる、少し食べ過ぎただけで下る、疲れると下る。吸収する力が落ちている状態です。
このタイプでは、量を減らすより回数を分ける方が向きます。1回の量を減らして3〜4回に分けると、負担が小さくなります。
食べる量が減っている方が多いのもこのタイプです。下るのが怖くて控え、そのぶん力が落ちてさらに下る。この輪に入っているなら、食べる量を戻すところから始めます。
食事と合わせて使う漢方薬
結論: 食事だけで戻らないときは、体質に合う漢方薬を足します。方向を間違えると悪化するため、型を先に決めます。
五苓散|水の偏りがあるとき
五苓散(ごれいさん)は、体の中の水の偏りをならす漢方薬です。厚生労働省の一般用漢方製剤承認基準では、のどが渇いて尿量が少ないものの「水様性下痢、急性胃腸炎」などに用いるとされています。
喉が渇いて水を飲むのに尿が少ない、便は水のよう。この組み合わせが目印です。合っていればその日のうちに変化が出ます。
半日たっても回数が変わらないなら、別の型を考えます。量を増やすのではなく、見立ての方を疑う順番です。
人参湯|冷たいものですぐ下るとき
人参湯(にんじんとう)は、胃腸そのものを温めて力を補う漢方薬です。厚生労働省の同じ承認基準では「体力虚弱で、疲れやすくて手足などが冷えやすいもの」の胃腸虚弱と下痢に用いるとされています。
冷たいものを飲むとすぐ下る、夏でも温かい飲み物しか受け付けない。そうした方はここから入ります。
啓脾湯|食が細く、何年も軟便が続くとき
啓脾湯(けいひとう)は、脾虚の慢性下痢に用いる漢方薬です。やせて顔色が悪く、食が細く、便が形にならないという方に向きます。
効き方はゆるやかで、2週間で便の形が少し変わり、3か月ほどかけて戻っていきます。食事の見直しと組み合わせると、変化が早くなります。
この型では、食べる量が減っていることが多くあります。漢方薬で吸収する力が戻ってくると、食べられる量も自然に増えていきます。
改善症例|食事を変えて落ち着いたケース
結論: 食事の見直しは、外すものより戻す順番で結果が変わります。当薬局では段階を決めてご提案しています。
ケース1:40代女性・制限が増えて食べられなくなった
3年前の食あたりのあと下痢が残り、下るたびに食べられるものを1つずつ外していった結果、白いご飯とうどんだけになっていました。体重は5キロ落ち、疲れやすさも出ています。
外す方向では戻れない状態なので、逆に1品目ずつ戻す形に切り替えました。豆腐、白身魚、煮た野菜の順で、各3日ずつ。あわせて啓脾湯を朝晩の2回で開始しています。
2か月で食べられるものが10品目以上増え、体重も戻り始めました。合わなかったのは牛乳だけで、それ以外は問題なく戻せています。
ケース2:30代男性・毎朝のスムージーが原因だった
健康のために2年間続けていた冷たいグリーンスムージーが、毎朝の下痢の引き金になっていました。本人はまったく疑っていなかったとのことです。
まず2週間、スムージーを温かい味噌汁に替えていただきました。それだけで朝の下痢が週2回まで減っています。体質としては冷えの型だったため、人参湯を足して整えました。
3か月後には症状がほぼ消えています。良いと思って続けているものほど疑われない、という典型的な例でした。
よくある質問
Q. 下痢のときは食べない方がよいですか?
A. 抜く必要はありません。腸の粘膜は食事から栄養を受け取って回復するため、早めに食べ始める方がよいとされています。ただし吐き気で食べられない時期は無理をせず、飲める水分だけを切らさない形にします。
Q. おかゆはいつまで続ければよいですか?
A. 便に形が出てきたら、次の段階に進んで構いません。目安は、回数が半分に減ってから1日程度です。おかゆだけを何日も続けると栄養が足りなくなるため、豆腐や白身魚を早めに足していきます。
Q. ヨーグルトは食べてもよいですか?
A. 下痢の直後は避けてください。乳糖を分解する働きが一時的に落ちているため、いつもは平気な方でも下ります。回復してから、常温に戻したものを少量から試す順番になります。
Q. バナナとりんごはどちらがよいですか?
A. どちらも水に溶ける食物繊維を含み、下痢のときに向きます。りんごはすりおろして少し温めると働きやすくなります。どちらも冷やさず、常温のものを選んでください。
Q. 慢性の下痢では何を外せばよいですか?
A. 2週間に1つずつ外します。乳製品、人工甘味料、カフェイン、アルコール、脂の多い食事。この順で疑うと当たる確率が高くなります。同時に複数を外すと、何が原因か分からないまま食べられるものだけが減ります。
まとめ:外すより、戻す順番で決まる
下痢の食事は、何を避けるかより、どう戻すかで結果が変わります。抜き続けることが治療にはなりません。
- 最初は水と塩: 糖と塩を一緒に、少量を何度も、常温で
- 食べるのは3つの条件: 消化がよい、水分を含む、脂が少ない
- 避けるのは5つ: 脂・香辛料・アルコール・冷たい飲み物・牛乳
- 戻すのは1つずつ: 半日から1日かけて。悪化したら前の段階へ
- 慢性なら2週間に1つ外す: 同時に複数を外すと原因が分からなくなる
最後に、本文で触れなかったことを1つ。外したものと戻した日を、紙に書いておいてください。慢性の下痢では、この記録が何より役に立ちます。合わないものが1つ見つかるだけで、あとの制限を全部やめられることがあります。記憶で進めると、外したまま忘れて食べられるものが減っていきます。
「食べられるものが減ってきた」「何を戻せばよいか分からない」という方は、れいわ漢方薬局にご相談ください。便の状態と下る場面を伺ったうえで、戻す順番と体質に合う漢方薬をご提案します。


